地球人よ、故郷に還れ

[題名]:地球人よ、故郷に還れ
[作者]:ジェイムズ・ブリッシュ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈宇宙都市シリーズ〉の第三巻です。
 本書は宇宙史の年代順的には三つ目に当たるエピソードですが、執筆順では一番最初に書かれた作品になります。宇宙を股にかけた渡り鳥都市の物語として、シリーズの中核になる巻ですね。
 お話は前巻にも登場した、渡り鳥都市ニューヨークの市長を中心として綴られていきます。生き馬の目を抜くような銀河の中で、ニューヨーク市は駆け引きやハッタリを駆使しつつ星々の間を駆け巡ります。

 遙か未来――数百万人の人口を擁する巨大都市・ニューヨーク市マンハッタン区は、渡り鳥都市となって宇宙を放浪していました。決して裕福とは言えず、スピンディジーの故障しがちなニューヨーク市はジョン・アマルフィ市長の指揮下、その技術力をあちこちの星へ提供することで糧を得てきたのです。
 そして三十六世紀末、ニューヨーク市の食料源であるクロレラがある星の放射能域を通過した影響で突然変異を起こし、収穫量が減少しつつありました。緊急ではないものの、早いうちに対策を行わなければなりません。また、備蓄した原油の残りも少なく、補給の必要があります。
 けれども、ニューヨーク市の最寄りにある星系では、二つの惑星が戦争を行っていました。ハミルトン主義者の住む第二惑星ユートピア星が、フランタ帝国の残党で構成された第三惑星ゴートから侵略を受けていたのです。しかも、両者の対立に地球警察が介入を始めようとしている状況でした。
 右腕であるシティ・マネージャー、マーク・ヘイズルトンの勧めに従い、ユートピア星へと接触を図ることにしたアマルフィ。しかしながら、三者の争いにニューヨーク市は否応なく巻き込まれていくことになります。
 時に冷酷、時に大胆に他者と渡り合い、様々な困難を切り抜けていくアマルフィの目的は一つ――渡り鳥都市ニューヨークを存続させることです。

 本書の注目ガジェットは、渡り鳥(オーキー)都市です。
 オーキー("Okie")という単語は二十世紀前半のアメリカで生まれたもので、オクラホマ州出身者、中でも自然災害や世界恐慌で土地を離れざるを得なかった出稼ぎ労働者を指す言葉のようです。つまり、都市そのものが出稼ぎ労働者となったのが渡り鳥都市ということですね。
 超光速機関スピンディジーの作用により、都市の上には半透明のドーム状遮蔽(スクリーン)が多い被さるように発生し、気密状態を生み出します。渡り鳥都市はその岩盤ごと空中に浮かび上がり、宇宙船と化す訳です。下側に関してはあまり描写がないのですが、「竜骨(キール)」という表現が登場しますので、何らかの補強が行われているのかもしれません。
 二十四世紀のスピンディジー再発見後、経済的に困窮した地球上の都市が次々と宇宙に逃れ、他の惑星へ移民する大量脱出(エクソダス)が起こります。そして、太陽系近隣の居住可能惑星は先に旅立った都市で占拠されてしまい、後から出発した都市は定住先をなくしてしまいます。この結果、技術提供や取引を行いつつ宇宙を放浪する渡り鳥都市が誕生することになります。
 渡り鳥都市の中には、真っ当な取引を行うことなく他の惑星や都市を略奪する海賊都市(ビンドルスティッフ:"bindlestiff city")となるものもあり、このうち〈恒星間交易支配都市〉という名の都市はそのあまりの悪行ぶりに宇宙中の憎悪の対象となっています。
 ニューヨーク市は一応そうした海賊都市ではないはずですが、アマルフィの選ぶ行動の中には少々過激なものもあり、渡り鳥都市の評判を落としているような気がしないでもないです(笑)

 主人公であるジョン・アマルフィは相当にしたたかな人物で、ニューヨーク市が渡り鳥都市になる前からずっと、数百年以上も市長を務め続けています。禿頭で樽のような胴体という姿ですけど、外見に似合わず冒険心に富み、一つ所に落ち着くことができない性格のようです。目的達成のためには犠牲を厭わないところのある、敵に回すと恐ろしいタイプですね。
 シティ・マネージャーのマーク・ヘイズルトンは慎重派の若者(とは言っても、抗老化薬により物語冒頭で四百歳度(^^;))ですが、長らく相棒を務めたせいでアマルフィとはツーカーの間柄です。しかしながら、アマルフィの独断専行っぷりを苦々しく感じている模様で、彼とはしばしば対立することになります。
 この二人がニューヨーク市のリーダーですが、もう一つ(?)の権威として市の様々な機能を司るコンピュータ群〈シティ・ファーザーズ〉が存在します。単一ではなく複数のコンピュータによって構成され、情報処理を行う他、司法の役割も与えられているようです。もっとも、都合が悪くなるとアマルフィが〈シティ・ファーザーズ〉の電源を落としてしまうので(その間は色々と不便を強いられますが)、あまり市長に対する抑止力にはなっていないのかもしれません(笑)

 都市そのものが宇宙へ浮かび上がり、取引相手の元まで飛んでいくという部分が非常に面白い発想ですね。巨大都市というわりには登場人物の数が少ないのは玉に瑕ではあるものの、移動する宇宙都市が恒星間の交易を担うという世界設定が、単なる宇宙船よりもスケール感を醸し出してくれます。
 また、核となる渡り鳥都市関連以外にも、ゲルマニウム本位制の貨幣制度や政治的駆け引きなど、様々な意味で非常に読み応えのある作品です。

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