星屑のかなたへ

[題名]:星屑のかなたへ
[作者]:ジェイムズ・ブリッシュ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈宇宙都市シリーズ〉の第二巻です。
 前巻『宇宙零年』は人類の外宇宙進出への礎となるエピソードでしたが、『星屑のかなたへ』では人類が宇宙旅行技術を手にした後の世界が描かれることになります。また、第一巻及び第三・四巻は政治的な駆け引きなどを扱ったアダルトなストーリー構成であるのに対し、本巻のみ少年の成長をメインに据えたジュブナイル(少年少女向け)的側面が強いのも面白い対比ですね。

 二十一世紀にスピンディジーと抗死薬物という、宇宙旅行に欠かせない二つの技術が開発された後、しかし官僚主義の硬直に陥っていた地球は大規模な宇宙進出を行おうとはしませんでした。その結果、スピンディジー技術は一旦忘れ去られてしまいます。
 二十四世紀になってスピンディジーが再発見されたとき、圧政と不況に苦しむ人々は都市丸ごとを宇宙船に変えて次々と地球を脱出していきました。工業力が急速に失われた結果、地球の官僚国家は瓦解して緩やかな連邦制へと変じ、そして太陽系外には無数の渡り鳥都市が宇宙を放浪するという世界が形作られたのです。
 そして三十二世紀――地球上で財政が破綻しかけたペンシルバニア州スクラントン市は、今まさに渡り鳥都市として宇宙へ飛び立とうとしていました。
 その見物にやってきた農家の少年クリスピン・ディフォード(クリス)は、そこで市の強制収容隊に見つかってしまいます。彼は望まぬままに、スクラントン市に乗せられ宇宙放浪者の仲間入りをさせられてしまったのでした。このままでは、子供で手に職のないクリスは「かなくそ拾い」の重労働をさせられることになります。
 シティ・マネージャーのフランク・ルツに引き合わされたクリスは、咄嗟に自分の特技が天文学だと申し出ました。本格的な教育を受けた訳ではなく独学程度のものでしたが、なんとかルツの追求を切り抜けたクリスは、天文学者のボイル・ワーナー教授に師事することになりました。
 しかしながら、スクラントン市には余剰人員を養う余裕はなく(拉致しておいて勝手な言い草ですね(笑))、一年の後にクリスは別の渡り鳥都市へ人員交換に出されることになったのです。人口百万人を遥かに超えるその巨大都市の名は――ニューヨーク。

 本書の注目ガジェットは、超光速・反重力機関スピンディジー("spindizzy")です。
 正式な名称はディロン‐ワゴナー重力子極性発生機とされ、原理は良くわかりませんが(量子のスピンと関係がある模様)作動を始めると誘導場内外の相互作用が起こらなくなる(重力などの影響を受けなくなる)ようです。そして、スピンディジーを装備した物体は光速度限界を突破し、超光速で飛行することができるようになります。
 また、動作中は周囲に球形のスピンディジー遮蔽(スクリーン)が発生し、外界からの遺物侵入(隕石とか)を防ぎます。つまり、スピンディジーを装備すればどんなものでも宇宙船に早変わりしてしまう訳ですね。
 作動させる対象の物体は大きければ大きい程効率的で、逆に小型の宇宙船はスピンディジー向きではないようです。再発見時、まず工場が地面ごと宇宙へ逃走するということが起き、その後に都市そのものが地球から次々と脱出していくことになります。
 スピンディジーが動かせる大きさには事実上制限がないらしく、後の巻では惑星を丸ごと宇宙船化するという状況も登場しています。

 利発的な少年クリスの成長を描くストーリーではありますが、その語り口はややビターですね。ニューヨーク市へトレードに出された後、彼は養父母の下で学業に勤しみながら自分の立ち位置を探し求めることになります。
 なお、クリスのその後については、次巻『地球人よ、故郷に還れ』で少しだけ言及があります(執筆は本巻の方が後なので、そのキャラクタを主人公に抜擢したと言う方が正確かも)。後の人生は好ましいとは言いがたいもので、ジュブナイルとしてはどうなのかと少々感じてしまいますが(^^;)、そういったドライさがジェイムズ・ブリッシュ氏の持ち味と言えるのかもしれません。

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