タイム・マシン大騒動

[題名]:タイム・マシン大騒動
[作者]:キース・ローマー


 ユーモア作品で知られるSF作家キース・ローマー氏の、アップテンポなスラップスティックSFです。氏の作品では比較的初期のもののようですが、コミカルで軽快な持ち味は既に遺憾なく発揮されていますね。
 題名(原題:"The Great Time Machine Hoax")にタイム・マシンとあるように、内容としては時間旅行をメインに据えた時間SFなのですけど、主人公チェスター君の教育場面に多くのページが費やされるという一風変わった構成になっています。

 時は二十一世紀(作品発表から百年ほど未来)――伝統的な(かつ人気のない(^^;))サーカスのオーナー青年チェスター・W・チェスター四世は、経済的な苦境に陥っていました。
 彼は長年の法廷における整理の末、曾祖父の遺産を相続することになったのですが、そのために百万クレディットという膨大な税金を払う必要ができてしまったのです。これは豪華な屋敷を売り払うだけでは足りず、ワウザー大サーカスすら手放さねばならないほどの大金でした。
 サーカス団員ケースと話し合ったチェスターは、とりあえず二人でチェスター邸へ赴いてみることにします。屋敷の地下には、曾祖父が私財をつぎ込んで作り上げた巨大な計算機、〈非リニア外挿コンピューター〉(G・N・E)が設置されており、それが金になるかもしれないとケースが言い出したからでした。
 実際に見てみると、G・N・Eは二人の想像を遥かに超えた超高性能コンピュータでした。曾祖父の命令に従い百年の間あらゆる情報を入手し、それに留まらず自分自身を拡張し続けてきたためです。
 G・N・Eの威力は情報処理能力のみに留まりません。ケースの冗談に応じ、即座に一糸まとわぬ美女型移動式スピーカー、ジェニーを作り上げてしまう程です(笑)
 その卓越したパワー、特に臨場感のある映像を作り出す能力に注目した二人は、それを金儲けに使えないものかと考えます。G・N・Eは立体映像に「完全なほんとらしさをだすことができる」方法を開発してみせたのです。ケースはG・N・Eに対し、石器時代の映像を写すよう命じました。
 ところが、その立体映像は彼らが思っていたよりも臨場感があり過ぎました(^^;) チェスター、ケース、そしてジェニーの三人は、映像のはずの穴居人に襲撃され、囚われの身となってしまうのです。
 果たして彼らの身に何が起きたのでしょうか(って、題名でバレバレですが(笑))。そして、チェスター達は無事に元の屋敷へ戻ることができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、〈非リニア外挿コンピューター〉(G・N・E/"Generalized Nonlinear Extrapolator")です。
 G・N・Eは、富豪であったチェスターの曾祖父が財産の大部分をつぎ込んで設計・開発したスーパーコンピュータです。曾祖父が命じた情報収集を十分の一の期間で成し遂げた後、株式市場を操作して費用を調達し、自分を拡張し続けています。その結果、途方もない情報処理能力を獲得し、更には疑似人格が生まれるまでに至ったようです。
 作中の二十一世紀では「クルムブルズンスキーの限界」なる法則が発見されており、コンピュータの複雑さがある一点を超えると壊れてしまうと考えられています(このため、誰も大規模なコンピュータを作ろうとは考えなかった模様)。ところが、チェスターの曾祖父がG・N・Eを作ったのは法則が発見される前で、知らず知らずのうちにG・N・Eはその限界を突破してしまったようです(^^;)
 G・N・Eはチェスターとケースの発するあらゆる質問(「火星に生命は存在するか?」とか、「マリー・セレスト号の乗組員の身には何が起こったのか?」とか)にたちどころに回答できるのみならず、人型スピーカー・ジェニー("Genie":おそらくG・N・Eから)を作り出したように世界へ物理的に干渉する能力をも有します。多分、宇宙そのものを作り替えることができるほどの力ですね。
 ただ、G・N・E本人(?)はあまり自我が強くなく、自発的に何かを行うような意思や自己保存の欲求は希薄なようです(自己改造に関しては結構好き勝手にやっていたような気もしますが)。大それた野望などを抱かれたら誰にも止められそうにないですから、チェスター達にとっては幸いだったのかもしれません。:-)

 主人公チェスターは二十五歳の青年で、学があるにも拘わらず定職に就くことなく怠惰に暮らしていたようです(一応サーカスのオーナーですが、閑古鳥が鳴いていた模様(笑))。
 自分のことを駄目人間だと卑下していますけれど、なかなかどうして咄嗟の行動力と頭の回転には目を見張るものがあります。モラトリアム青年ではあるものの、潜在能力は決して低くはないようです。
 その彼がある経緯から仲間二人とはぐれて、トライセンニアム("Tricennium"/三百人国?)が点在する世界へと飛ばされることになります。この世界はテクノロジーこそ発達していませんが、哲学・心理学といった分野ではかなり高度なレベルに到達しています。
 この世界の住人から、チェスターは絨毯(G・N・Eのある場所)に執着する少しばかり可哀想な人(^^;)と受け止められ、お節介にも徹底した再教育を施されることになります。〈知恵のトライセンニアム〉で一年の間訓練を受けた後、チェスターは頑強な肉体と不屈の精神力、そして高い知性を備えたヒーローへと大変身を遂げます。この訓練過程におけるチェスターへの条件付けがなかなか凝っている点は興味深いですね。
 一応ヒロインであるはずのジェニーが今一つ存在感が薄かったりするものの、チェスター君が活躍する場面も多く、とても楽しいお話に仕上がっています。ご都合主義上等の、痛快ドタバタコメディです。

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