デリラと宇宙野郎たち

[題名]:デリラと宇宙野郎たち
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 ミスターSFの異名を持つハインライン氏には人気の高い長編が数多くありますが、氏の作品の妙は決してそれだけに留まりません。むしろ短編・中編にこそハインライン作品の面白さが凝縮している――少々暴言かもしれませんが(^^;)、賛同してくれる方も少なくないのではないかと思われます。
 本書は、ハインライン氏の〈未来史〉に連なる作品を集めた中短編集・第一弾です。収録作品群は、ハインライン未来史の前宇宙時代に当たる部分を占めています。

◎生命線

 ピネロ博士という人物、そして彼の編み出した技術が世間の物議を醸していました。なんと、彼は人の余命を科学的な手法で完全に予測する装置を作り出したというのです。
 ところが、ピネロはその科学的な詳細を明らかにしようとはしません。悪用されたら問題、かつ収入を得る道が断たれてしまうからとの理由からです。ピネロ自身の学歴がいささか怪しいこともあり、彼はイカサマ師呼ばわりされています。
 けれども、ピネロを非難する科学者達にも彼の予測がきわめて正確だという事実を覆すことはできませんでした。
 しかし、それでは収まらないのが生命保険会社のお歴々です。自分の死ぬ日が分かってしまうというのは、保険会社にとっては極めて都合の悪い事態だからですね(^^;)
 彼等はピネロを法廷に訴え、なんとかその事業を辞めさせようとするのですが……。

◎道路をとめるな

 二十世紀後半、アメリカの主要交通網は『動く道路』へ置き換わっていました。
 交通事故、そして公害を引き起こす自動車は鳴りを潜め、代わりにベルトコンベアのお化けのような道路が人々を遠くへと運ぶのです。ようは『動く歩道』の大規模版みたいなものですね。
 道路には平行して幾本もの動路帯に分かれ、速いものは時速百六十キロメートルもの速度で動いています。しかも、その動いている道路の上にレストランがオープンしていたりもします。列車における食堂車みたいなものですね。(お店が端っこまで行ったらどうなるんでしょうか?(^^;))
 道路は自動車よりもずっと安全で、しかも信頼性の高い交通手段だと考えられています。二十四時間、決して休むことなくそれは動き続けているのです。
 ところが、動く道路の責任者であるゲインズ技師長がオーストラリアから来た政治家を接待していたそのとき、突如として最も速く動いていた動路帯が止まってしまいます。

◎爆発のとき

 増加する電力需要を賄うべく稼働し続ける原子力発電所――しかし、そこでは緊迫した状態が続いていました。いつ原子炉が爆発するかもしれない恐ろしさに、技師達が精神的に参ってしまっていたのです。
 ハインライン作品世界では、原子炉の核分裂がどのように連鎖反応を起こすのか、完全な解明がなされていません。技術者達がミスをして核反応が制御不能に陥ったとき、どこまで被害が拡大するのか誰も知らないのです。
 自分の失敗が人類に破滅をもたらすかもしれないという恐怖に常時晒され、精神に異常を来してしまう技術者が続出します。しかも、それに対応するために技師に対して精神科医の監視を付けることで、状況は更に悪化していました。
 この事態をなんとかするため、所長のキングは高名な心理学者のレンツを発電所へ招くことにしたのですが……。

◎月を売った男

 米国有数の資産家で、数多くの新規事業を立ち上げてはことごとく成功させてきたD・D・ハリマン――彼の究極の目的は、月世界旅行でした。
 壮年の域に達し十分な資金を手にしたハリマンは、遂に自らの夢を実現するために行動を始めます。親友の共同経営者や同僚達が無益だと諭し、あるいは失望して離れていっても、それに耳を貸そうとしません。彼は一度として資産を望んだことはなかったからです。ハリマンはとってそれは、宇宙へ行くために必要な前振りでしかなかったのです。
 ハリマンはそれまで経営してきた数々の企業を売り払い、そして新たに様々な事業や取引を始めます。多くの規制をかいくぐり、皆が仰天するアイディアを出し、裏取引し、時には卑劣な手段を取り……。そして同時に、自らが月へ行くためのロケットの制作を始めるのです。
 強引で身勝手、独善的で狡猾、驚くべき実行力を持ち、夢のために邁進する愛すべき年老いた少年、D・D・ハリマン。その行動は果たして何を彼にもたらすのでしょうか。

◎デリラと宇宙野郎たち

 宇宙ステーションの建設現場では、少々トラブルが絶えませんでした。建設に携わる者達の多くが高給と冒険に心惹かれた荒くれ男どもであり、しばしば面倒事を起こしては首になるという事態が発生していたのです。
 そうした中、ある無線技師が無重量環境で機能するサイコロ(と、偶然の要素を省く方法(笑))を生み出した咎で地球に送り返されることになりました。ところが、その代わりの要員として現場に送り込まれてきたのは、若くて美しいグロリアという女性だったのです。
 総監督のタイニイは憤慨し、彼女を送り返そうとするのですが……。

 本書に含まれる作品の時代は比較的若いため、我々の知る歴史とは食い違う部分がいくつか見られます(『爆発のとき』はその傾向が顕著)。けれども、決して時代遅れの物語などではなく、IFの歴史として今でも十分に楽しむことができます。
 注目したいのは、氏のデビュー作『生命線』ですね。当初は雑誌の新人賞向けに書かれたものらしいのですが、新人時代からこんなに文才を見せてくれるというのは本当に驚きです。
 また、特に素晴らしいと言えるのが『月を売った男』です。〈未来史〉に属する別の作品『鎮魂曲』の前日談として書かれたこの中編、あくまで個人的な評価としてですが、SF作家ロバート・A・ハインライン氏の最高傑作だと感じています。是非『鎮魂曲』と併せてお読みください。

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