ジーリー・クロニクル1 プランク・ゼロ

[題名]:ジーリー・クロニクル1 プランク・ゼロ
[作者]:スティーヴン・バクスター


※このレビューにはシリーズ全般のネタバレがあります。ご注意ください。

 超種族ジーリーに関る壮大な物語を地球人の視点から描いた一大宇宙史、〈ジーリー・シリーズ〉の連作短編集です。
 原作は"Vacuum Diagrams"の名前で刊行され二十一編の短編が収められていましたが、日本語版では前の十二編が本巻『プランク・ゼロ』、後ろの九編が第二巻『真空ダイヤグラム』として分冊されています。ちょうどこの部分で作中の時代に境目が存在しますので、内容的にも良い区切りと言えるでしょう。
 各々のエピソードは年代順に並べられ、ある登場人物に対して宇宙の歴史を教えるという形で提示されます。〈ジーリー・シリーズ〉の根幹に関るお話が多数含まれますので、ネタバレが気になる方はシリーズの他作品(『天の筏』/『時間的無限大』/『フラックス』/『虚空のリング』)を先に読んでおいた方が良いかもしれません。

◎プロローグ:イヴ

(連作短編の導入部として、ジャックとイヴのエピソードが置かれています。また、各短編の間にも、それ映像として見た二人の会話が挟まれています)
 銀色の丸い球体状をした異星人シルヴァー・ゴーストは、かつて恐るべき事故を起こしたクォグマ(原初の物質)関連の危険な実験を再び行おうとしていました。地球人大使ジャック・ラウールはシルヴァー・ゴースト達に釘を刺そうとシンク大使に面会しますが、シンクはそれが必要なことだと主張します。
 そしてジャックの前に、彼の亡き妻イヴそっくりの姿をした何かが現れました。イヴはジャックに、人類と宇宙の関わりを様々なエピソードを通じて提示し始めるのです。

◇第一部:人類、拡張の時代

 地球人類が太陽系外の知的種族と接触し、ジーリーの存在を知るより前の時代です。
 この時点で、人類は早くも別の知的生命体と接触を果たします。

◎太陽人

 スカルプター472は、生まれ落ちたその瞬間から危機的状況に直面していました。彼らの住む丘に、妙な形をした熱く燃えて輝く者達――太陽人が空からやってきて、その居住環境を破壊してしまったのです。父スカルプター471にせかされ、スカルプター472は仲間達と共に安息の地を求めて旅立ちます。
 一方、地球人マイケル・プール(『時間的無限大』の主人公)達は奇妙な事態に遭遇していました。冥王星の外側にあるカイパーベルト天体、直径百六十キロメートルの岩と氷の塊を恒星船基地にしようとしていたところ、その上であるものが発見されたのです。

◎論理プール

 物理学者マーズデンは、人里離れた海王星の衛星ネレイドで隠遁生活を送っていました。
 内惑星系政府職員ハッサンと仲間達は、インターフェース・コロニー接近の警告に応答を返さなかったマーズデンの動向を調べるためネレイド上のドームへと向かい、光のプールの上でマーズデンの死体を発見します。頭骨のてっぺんに取り付けられたインプラントより流れ込んだ電流が、彼のシナプスを破壊したのです。
 マーズデンは自殺を行うようなタイプではなく、不注意で事故を招くような人間でもありませんでした。一番近くにいる人間が百五十万キロメートルの彼方という状況にありながら、それは殺人事件だったのです。
 マーズデンを殺したものとは……。

◎グース・サマー

 大気調査の為に冥王星へと向かった女性研究員リヴォフは、女性パイロットのコーヴと共に軽宇宙艇(フリッター)に乗り、ワームホール・インターフェースを潜ろうとしました。ところが、ワームホールの不調のせいでフリッターは破損し、二人は冥王星へ島流し状態になってしまいます。
 幸い、食料は一ヶ月分もあり、救助のGUT船が到着するまでは二十日程です。不便はあるものの、命の危険はないことから、リヴォフは少し冥王星を調査してみることにしました。
 ところが、ここで二人は思わぬ発見をしてしまいました。冥王星には生命が存在したのです。もしこれを内惑星に伝えたら、環境保護の為に救助は中止され、彼女らは死ぬことになります。しかし、秘匿すれば冥王星の生態系は破壊されます。
 自分達の命を優先するか、あるいは冥王星生命を救うか――このジレンマに、リヴォフ達はどう臨むのでしょう。

◎黄金の繊毛

 〈黄金の繊毛〉は、その身を恐るべき〈サグリムシ〉に冒されていました。寄生生物である〈サグリムシ〉に取り憑かれた者は、やがて脳を操られ、地表へ向けた死への旅路を辿ることになります。
 しかし、彼女には一つの義務がありました。彼らの群れが棲む煙突(チムニー)洞窟は枯渇しかけており、別の洞窟を求めて戦う必要があったのです。そして、〈黄金の繊毛〉は群れで最も強く、先頭に立って戦わねばなりません。死への衝動を堪えつつ、〈黄金の繊毛〉は困難に立ち向かいます。

◎リゼール

 リゼールは生まれたその瞬間から高い知能を有する、特別な子供でした。ナノボットを注入されたリゼールは、一日毎に普通の人間の一年という猛スピードで成長していきます。彼女は、太陽内部へ潜りその異常事態を探るワームホール・インターフェースの制御ソフトウェアとなることを運命付けられていました。
 急速に大人になり、そして老化していくリゼールは、人並みの幸せを得ることができません。計画に参加した両親は、これほどの苦しみを娘に味わわせることを全く予期していませんでした。
(『虚空のリング』冒頭、リゼール誕生エピソードの抜粋)


◇第二部:スクウィームによる人類支配の時代

 地球人類が太陽系外知性体とファーストコンタクトした時代です。魚群型種族スクウィームは、無防備な人類を征服し、支配下に収めてしまいます。

◎パイロット

 スクウィームの占領法により、人類の宇宙旅行は禁止されることになりました。それまで人類が使用してきたGUT船やワームホール・インターフェースは、ことごとく破壊されてしまいます。
 宇宙船パイロットのアナ・ゲージにはそれが我慢なりませんでした。彼女は小惑星キロンへ向かい、志を同じくする他のパイロット達と共にそこへ隠れ住むことにします。
 けれども、二年が経過しても、スクウィームの占領が終わる気配はありませんでした。このままキロンにずっと隠れ続けることはできないと判断した彼らは、小惑星そのものを宇宙船と化して他の恒星系へ脱出することを目論みます。
 しかしながら、その行動はスクウィームに察知されてしまいます。そして、小惑星キロンとそれを追いかけるミサイルの、長い逃走劇が始まるのです。

◎ジーリー・フラワー

 スクウィームに雑用として雇われた地球人ジョーンズは、彼らの宇宙船に乗ってグーバーズ星の近くまでやってきました。
 グーバーズ星は間もなく新星爆発を迎えようとしている星です。そして何より重要なことは、グーバーズ星の周りをジーリー惑星が回っていることでした。
 スーパーテクノロジーを有しながら他種族と関わりを持たず、秘密主義な超種族ジーリーですが、新星爆発の直前に住処を引き払って脱出するはずです。スクウィームはジーリーの退去後、惑星上に残されたテクノロジーを入手――要するに火事場泥棒を働こうとしていたのです。そして、ジョーンズはその危険な探索を担わされてしまいます(^^;)
 バトラボット(執事ロボット)を連れ、ジーリーと入れ違いで惑星上へ着陸したジョーンズですが、その住居はもぬけの殻でした。しかし探索を続けた彼は、ある建物の中で奇妙な物体を発見します。
 それはジーリー板金製でできた、花びら状の謎の物体でした。

◎時間も距離も

(『ジーリー・フラワー』の事件を契機に、スクウィームの人類支配は解かれています)
 主人公(女性、名前不明)は、ジーリーの残した遺物を求めて宇宙を駆け巡る山師の一人でした。
 彼女はある超新星残骸を巡る惑星の上で、ジーリーの遺跡を発見します。そこに隠されていたのはジーリーが持つとされる超絶テクノロジーの一つ、どれだけ離れていてもタイムラグなしで通信可能な瞬時コミュニケーション技術でした。
 喜ぶ主人公でしたが、それも束の間、謎の異星人が彼女のいる部屋に姿を現します。その異星人は主人公の後をつけ、彼女の発見したジーリー・テクノロジーを横取りしようと考えていたのです。この危機に対して、主人公の取った行動は――。

◎スイッチ

 ベイリス船長率いる貨物船には、法律に従い宇宙テクノロジストのバレンタインが乗っていました。小柄な男バレンタインはジーリーの遺跡に残されたテクノロジーを調査するという役割でしたが、単なる貨物船には無駄な存在だと乗組員達は考えています。小やかましい性格もあって、バレンタインは男達の多くから軽蔑されていました。
 ジーリーの宇宙船の残骸を調査するようバレンタインが船を止めさせたとき、荒くれ男のクルップは不満たらたらでした。結局、そこではありふれた重力無効化装置らしきものしか見つからず、バレンタインはクルップに酷く虚仮にされてしまいます。
 発見されたものが既知の重力無効化装置とは異なるものだと知っていたバレンタインは、クルップに対してある復讐を実行するのです。

◇第三部:クワックスによる人類支配の時代

 スクウィーム支配が終わったのも束の間、再び人類は別の異星人・クワックスに征服されてしまいます。

◎青方偏移

 クワックス支配政策によりその職を失ってしまった、宇宙船パイロットのジム・ボールダー。そんな彼に、クワックスのエージェントが接触を図ってきました。
 驚いたことに、クワックスは宇宙最強・最速の宇宙船ジーリー・ナイトファイターを入手していたのです。大金を投じてナイトファイターを入手したクワックスは、情報収集により利益を得る為に探査を計画しており、そのパイロットとしてボールダーに白羽の矢が立てられたのでした。
 ジーリー・ナイトファイターのハイパードライヴを駆使してボールダーが向かう先は、三億光年の彼方にある重力異常、周囲の銀河を引き寄せ青方偏移を引き起こす〈グレート・アトラクター〉です。遙かな銀河の果てにボールダーが見いだしたのは、超種族ジーリーにとってすら最大のプロジェクトの成果でした。
 後にそれはこう呼ばれることになります――〈ボールダーのリング〉と。

◎クォグマ・データ

(『青方偏移』後、クワックスの人類支配が解かれます)
 遥か百五十億光年の遠方に、宇宙黎明期の物質・クォグマ("quagma"/作中では「クォークのマグマ:"a magma of quarks"」とされていますが、"quark-gluon plasma"のこと?)に関する情報の存在を示すビーコンが発見されました。それを調べることができたら、宇宙創世期の物理を解明できるかもしれません。好奇心旺盛な異星種族シルヴァー・ゴーストは、その地へ向かうべく準備を始めました。
 ここで、統一理論の専門家ルース博士は商売人のワイマンにある話を持ちかけられます。ワイマンは地球人の発明した新型の超光速駆動システム、スージー(超対称)ドライヴをシルヴァー・ゴーストに売り込もうとしており、ルースの協力を必要としていたのです。
 しかし、シルヴァー・ゴーストは効果もあやふやなスージー・ドライヴに興味を示さず、自分達の有するジーリー由来の駆動システムで出発してしまいました。セールスに失敗したワイマンは、スージー・ドライヴ装備の宇宙船でルースを一足先にクォグマの下へ送り込み、ゴースト達を出し抜くことで損失を取り戻すことにします。
 等身大のブリキ缶のような宇宙船に一人詰め込まれ、百五十億光年の旅をシルヴァー・ゴーストに先んじて終えたルース。しかし、そこで彼はスージー・ドライヴが片道飛行だったことを知ります。
 果たしてルースは地球へと戻ることができるのでしょうか。そしてクォグマに秘められた謎とは……。

◎プランク・ゼロ

 ゴースト折衝事業の首席事務官ジャック・ラウールは、銀色の球体型異星人シルヴァー・ゴーストが、何やらクォグマに関連した未認可の秘密計画を実行しようとしているという情報を得ました。
 シルヴァー・ゴースト側のシンク大使は、計画の存在を認めつつも、それは人類から隠していたのではないと主張します。彼らが隠そうとしていたのは、ジーリーに対してなのだと。ゴースト達は不確定性原理を破ろうと試みており、その計画の現場へ案内する為にはジャックの肉体を作り変える必要があると説明しました。
 三年前に亡くした妻イヴのヴァーチャル(コンピュータ上の仮想人格)に相談した後、ジャックはシルヴァー・ゴーストの申し出を受けることにします。彼は人間を模した銀色の強靱な体へと作り変えられ、ゴーストの宇宙船に同乗して計画の実行現場――赤色巨星の中へと突入します。

 収録エピソードはいずれも、ストーリー性よりもアイディアに特化した傾向が見られますね。作風はしばしばラリイ・ニーヴン氏の〈ノウンスペース・シリーズ〉に似ていると言われるようですが、私としては更にそのルーツ、一九五〇年代のアシモフ氏やクラーク氏の短編に通じるのではないかと感じます。
 個人的お気に入りは、冥王星とその衛星カロンの特殊性に注目した部分が面白い『グース・サマー』、そして〈ジーリー・シリーズ〉の中でもとりわけ重要なエピソード『青方偏移』辺りです。
 また、異星人シルヴァー・ゴースト関連も興味深いですね、種族丸ごと学究の徒のような彼らですが、その割にどこか迂闊な辺りがコミカルな印象です(笑)

 本書に収められた最後の短編『プランク・ゼロ』で、ジャック・ラウールが見てきた歴史は彼自身の時間に追いつきます。すなわち、第一巻のエピソードはジャックにとって過去の物語になる訳です。
 これに対し第二巻で綴られるのは、ジャックから見て未来の物語に相当することになります。

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