ウは宇宙船のウ

[題名]:ウは宇宙船のウ
[作者]:レイ・ブラッドベリ


 レイ・ブラッドベリ氏は、華麗な文章にたっぷりの情感を込めた作品を手がけられる作家さんです。壮大なスケールや複雑なガジェット、科学的な正確性とは比較的無縁で、ある意味ハードSFの対局に位置するのかもしれません。
 けれどもその分、ノスタルジックな切なさを秘めた物語はストレートに読者の胸を打つこと請け合いです。SF界で最も詩的な物語を紡がれる方だと言っても良いのではないでしょうか。
 本書『ウは宇宙船のウ』は、そのブラッドベリ氏の短編十六編を集めた短編集です。原題は"R Is for Rocket"ですが、翻訳されたタイトルも良い響きですね。(但し、対となる短編集"S Is for Space"のことを考えると、少々マズい単語選びだったようにも感じますけど(^^;))
 イメージの魔術師とも評されるブラッドベリ氏の、珠玉の作品群です。

◎「ウ」は宇宙船の略号さ

 原題は書名と同じく"R Is for Rocket"、つまり表題作です。
 フロリダに住んでいる二人の少年クリスとレイフは、他の少年とは少しだけ違うところがありました。二人は宇宙船というものに取り憑かれていたのです。
 しかし、彼等が宇宙船に乗るためには宇宙航行委員会に選抜してもらわねばなりません。いつか自分の元へ宇宙航行局のヘリコプターがスカウトにやってくるのを、二人は心待ちにしていたのでした。

◎初期の終わり

 二人の老夫婦のお話です。
 彼等の息子が宇宙飛行士として、人類初の宇宙ステーション建設に向かおうとしている夕暮れ、二人は自宅の庭にいました。
 やがて近づく打ち上げの時間。二人は庭へ置いた揺り椅子へ腰掛け、互いに手を握り合いながら、宇宙船が空へと飛び立つその瞬間を今か今かと待ち続けるのです。

◎霧笛

 海が濃霧に覆われた夜、信号灯を明滅させ霧笛を鳴り響かせている灯台の頂上で、年長の灯台守マックダンはジョニーにある話をします。霧笛に誘われて、年に一度海から現れるものの話を。それが灯台を訪れるのは、ちょうど今日だと言うのです。
 そしてマックダンの話通り、古く巨大なそれが姿を現します――孤独に苛まれて。

◎宇宙船

 宇宙に憧れるスクラップ業者のボドニは、一生懸命働いた結果、なんとか一人だけ宇宙旅行ができるぐらいのお金を貯めることができました。ボドニは妻や子供達と相談し、くじ引きで誰が宇宙旅行へ行くのかを決めることにします。ところが、誰もが宇宙に行きたいのに、他の家族を差し置いて自分だけ行くことを後ろめたく感じてしまい、結局選ぶことができません。
 翌日、ボドニのスクラップ置き場へたまたま廃品の宇宙船が持ち込まれます。衝動的に貯め込んだお金をはたいて宇宙船を買ってしまい、妻に非難されるボドニでした。が、その夜ボドニはあることを思いつくのです。

◎宇宙船乗組員

 少年の父親は宇宙船の操縦士でした。その職業は危険かつ多忙で、数ヶ月に一度しか家へ帰ってくることはありません。そして少年の母はそれを良く思ってはいませんでした。父親が戻ってくる前の晩、母親は少年に、父が二度と宇宙に行かないよう引き止めることをお願いします。
 父親もまた、帰ってきた当初は家でゆっくりすることを楽しみ、何ヶ月も放っておかれた芝生を刈ったりして過ごします。ですが、一日二日と経つうちに……。

◎太陽の金色のりんご

 太陽表面へと近づき、その上層を一すくいして地球へと持ち帰ろうとする宇宙船の物語です。
 短くも、非常に詩的で美しいお話ですね。
 ただ、一部の地域に住む方は今ひとつ共感できないかもしれません(^^;)

◎雷のとどろくような声

 動物狩りタイムトラベル社は、タイムマシンで過去へ向かい絶滅した動物を狩猟するというサービスを提供していました。エッケルズはそこを訪問し、陸上最大の肉食獣ティラノソウラス・レクスを狩る時間旅行を申し込みます。
 案内役の隊長トラヴィスは、くれぐれも勝手な行動をしないようエッケルズに釘を刺します。ほんのわずかな行動でさえ、未来を変えてしまうかもしれないからです。
 ところが、実際に中生代に辿り着き暴君竜を目にしたエッケルズは、あまりの恐ろしさに怖じ気づいてしまうのです。

◎長雨

 延々と雨が降り続ける金星世界。そこに不時着した宇宙船に乗っていた三人は、近くにあるはずの太陽ドームまで避難することにします。
 しかし、絶え間なく降り注ぐ雨に打たれ続ける彼等は、次第に正気を失っていくのでした。

◎亡命した人々

 人類史上初めて火星を目指す宇宙船、その中では奇怪なことが起こっていました。乗組員が悪夢に襲われ、命を落としていくのです。
 実はそれは、火星の住人が宇宙船を来させないように仕向けたことでした。そこには、かつて地球を追われた驚くべき者達が住み着いていたのです。

◎この地に虎数匹おれり

 第八十四恒星系の第七惑星は、緑に覆われた美しい星でした。
 流れる川の水は極上の葡萄酒へと変わり、両手を広げて駆け出せば空を飛ぶこともできる、そこは不思議な楽園です。そこに辿り着いた宇宙船の乗組員達は皆、この惑星を大いに気に入りました。
 しかし、宇宙船の出資者であるチャタトンは、いかに資源を略奪できるかということにしか興味を持ちません。むしろ不審を抱き、大地に穴をあけて掘り起こしてしまおうとするのですが……。

◎いちご色の窓

 火星に植民したボッブ一家は、しかし地球への郷愁に悩まされていました。特に妻のキャリーは、味気ない火星のかまぼこ型宿舎に馴染めず、地球へ残してきた我が家を懐かしんで悲嘆にくれています。
 ボッブはそんな家族に対し、あるプレゼントを用意します。十年かけて貯め込んだ貯金を使い果たして。

◎竜

 夜の荒野で焚火を囲む二人の男。彼等は人々を脅かす竜を退治するべく立ち上がった騎士でした。
 待ち受ける二人の元へ、やがて恐ろしき竜が姿を現します。

◎おくりもの

 男の子とその両親は、クリスマスを宇宙船の中でで過ごすことになりました。男の子にとっては宇宙旅行は初めてのことだったのです。
 ところが、両親が用意していたプレゼントは、重量の問題で税関に差し押さえられてしまいました。男の子はプレゼントのクリスマスツリーをとても楽しみにしていたので、父親は代わりになるものがないか思案するのです。

◎霜と炎

 太陽にほど近い、とある惑星。そこに住む人々は目まぐるしく陰鬱な生を送っていました。
 彼等は不時着した宇宙船に乗っていた人々の子孫ですが、苛烈な太陽光線に含まれる放射線の影響で、異常なまでに新陳代謝が早まってしまったのです。人々は生まれ落ちてわずか八日の後に老衰で死ぬ運命でした。
 刹那の人生に絶望しつつもしがみつく彼等の中に、新たな男の子シムが生を受けます。シムはたちまち赤ん坊から少年へと成長しますが、他の人々のように無為に時を過ごすことを良しとしませんでした。

◎タイム・マシン

 少年チャーリーは友人のダグラスとジョンに対して、タイム・マシンを見せてやると称し、あるお屋敷へ連れて行きます。
 そこはフリーリー大佐が住む家でした。玄関を入ると、椅子に腰掛けた老人がにっこりと笑って彼等を迎えるのでした。

◎駆けまわる夏の足音

 ダグラス少年は、靴屋のショー・ウィンドーに飾られた真新しいテニス靴に心惹かれていました。父親は前の年のゴム底靴があるから新しいものは必要ないと言うのですが、ダグラスにとっては我慢なりません。去年の靴は、なかが死んでしまっているからです。
 テニス靴を買うには足りないお小遣いを補うため、ダグラスは思案をし、靴屋の店主にあることを持ちかけます。

 以上、いずれも素晴らしい短編の数々です。
 本書に収められている作品群には、宇宙に関する愛情に溢れたものが数多く含まれます。中でも『「ウ」は宇宙船の略号さ』は、SF史上に燦然と輝く名作中の名作ですね。
 作品の中には、いわゆるSF的でないものも若干含まれますけど、ブラッドベリ氏ご自身の分身らしき登場人物が数多く登場します(特にレイフ・プライオリ)。お話が心を強く打つのはこのせいもあるでしょうか。

 ブラッドベリ作品は翻訳版でもそのイメージを堪能できますが、本来なら原文を読んだ方がより深く味わえるのかもしれません。残念なことに、私には困難ですけど(^^;)
 但し、我々日本語圏に住む者にはその代わりに一つの特典があります。萩尾望都氏の手による漫画版の存在ですね。
 萩尾氏はブラッドベリ氏の小説をいくつか漫画化されており、その中に本書の短編が含まれます。繊細な線で描き出されたブラッドベリ世界は、原作ファンも満足の出来映えと言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • 手塚治虫先生がレイブラッドベリ紹介してたので挑戦しようと思ってました。面白そうなんで借りてみま~す
    2013年12月17日 21:45
  • Manuke

    ふむふむ、手塚先生も注目されていたんですね。
    特に表題作は非常にストレートで、ブラッドベリ氏の宇宙大好きっぷり(^^;)がダイレクトに伝わって来るの素敵です。
    在りし日のブラッドベリ少年の姿が目に浮かぶような……。
    2013年12月18日 21:40

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