ペルシダーに還る

[題名]:ペルシダーに還る
[作者]:エドガー・ライス・バロウズ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 地球空洞説に基づいた架空の地底世界を舞台とする〈ペルシダー・シリーズ〉第七巻にして最終巻です。
 前巻『恐怖のペルシダー』が原点回帰的にデヴィッド・イネスの一人称視点で綴られたのに対し、本巻では三人称かつ複数のキャラクタ視点でお話に広がりを持たせているのが最も大きな違いでしょうか。メインとなるのは皇帝デヴィッド、その妻・美女ダイアン、デヴィッドの部下でサリ人青年ホドン、そして本作でのヒロインとなるオー・アアの四人です。
 また、ダイアンとオー・アアの女性二人が冒険を繰り広げるという点も、男性主体だったこれまでの〈ペルシダー・シリーズ〉と比べて特徴的です(デヴィッドとホドンは、二人を助けに行こうと四苦八苦する役割(笑))。
 冒険内容はあまり代わり映えしないのですが(^^;)、この二つの違いにより前巻のようなマンネリ感は和らぎ、最後まで飽きさせないテンポの良いお話になっています。

 ペルシダー帝国を形成する連盟王国のうち、帝国首都サリの北東にある国カリは、連盟から離脱したスヴィの侵攻を受けていました。皇帝デヴィッド・イネスはスヴィを懲らしめるため、軍勢を率いてカリへと向かうことにします。
 軍艦サリ号がカリ近くの海岸へと辿り着いた後、デヴィッドは伝令として〈疾風のホドン〉をカリ王ウースの下へ向かわせます。ホドンは健脚かつ勇猛な若者で、猛獣のひしめく森を抜けて目的地へ到達しました。
 王に会いデヴィッドが近くまで来ていることを伝えたホドン。ところが、実は彼が報告した相手はカリ王ウースではなく、スヴィ王ファシュでした。カリは既に征服されており、ファシュはウースに成り済ましていたのです。
 ホドンは一旦は捕縛されたものの持ち前の脚力を使って脱走し、同じようにスヴィから逃れてきたウース王の娘で大ボラ吹き(^^;)のオー・アアと合流しました。しかしながら、デヴィッドへの警告は間に合わず、率いる戦士共々囚われの身となってしまいます。
 一方、首都サリでは老技術者アブナー・ペリーが、気球を完成させていました。デヴィッドの身を案じつつ待つ美女ダイアンは、気球に乗ればデヴィッドの乗る船が見られるかもしれないと聞き、その搭乗第一号に志願します。ところが、ペリーのミスで気球は宙に解き放たれてしまい、ダイアンは空を放浪する羽目になってしまうのです。
 ホドンは果たしてデヴィッド救出を成し遂げることができるでしょうか。そして、風前の灯となったダイアンの運命やいかに。

 本レビューでは、〈ペルシダー・シリーズ〉に登場する人類種族について説明しておきましょう。
 ペルシダーには複数の知的種族が存在しますが、そのほとんどが比較的狭い地域にのみ棲息しているようです。例外はゴリラ型種族のサゴス、そして我々と同じ人類です。(作中に出てこないだけで、実際には勢力を広げた種族は他にも存在するのかも)
 ペルシダーにおける人類の位置付けは、万物の霊長ではなく、未だその多くが旧石器時代レベルの文明に留まっています。道具は石のナイフや槍、衣服は毛皮といった原始的なものに留まり、弓矢はまだ発明されていません。(このため、地上人のデヴィッド/ジェイスン/ターザン/フォン・ホルストは、いずれも弓矢の所持がペルシダー人に対するアドバンテージになっています)
 しかし、巻が進むにつれてこの枠組みに当て嵌まらない民族も登場するようになってきました。
 地底世界において文化的に最も進歩しているのは、ペルシダー帝国とコルサール人の二グループですが、両者は共に地上文明をルーツとするもので、厳密にはペルシダーの文明とは言えないかもしれません。ペルシダー帝国の方が若干技術レベルでは上回っているものの、それをリードしているのはペリーただ一人であることから、社会の安定度はコルサール人の方が上だと思われます。
 一方、ペルシダーで独自に生まれたらしき文明で一番進歩的なのは、本巻登場のクセクソット族です。石器時代を終えて青銅器時代に入っており、都市を築き、貨幣や宗教の概念も生まれています。また、前巻登場のジュカン族も、クセクソット族ほどではないにせよ都市らしきものを形成していました。(ジュカン族は民族全員頭がおかしいという設定でしたが(^^;)、これは現代文明への風刺と思われます)
 その他にも、竜脚類ディプロドクスを飼いならしたスリア族、マンモスを使役するマンモス族など、狩猟・採集を脱して家畜の飼育や農耕を行う民族も少なくないようです。総合的に見ると、文明レベルは地上世界での紀元前八~七千年頃に相当するでしょうか。
 言語に関しては、全ての人類は共通の言語を使っており、ペルシダーのどこへ行っても言葉が通じます。ペリーの考えでは、「同じ環境に暮らしている人間が、自分の考えを表現するために自然に開発された基本的、原始的な言語」とのことですけど、それにしては非人類種族(ホリブなど)にも通じてしまうのは謎です(笑)
 人種はほとんどが白人のようですが、前巻に登場した〈浮遊群島〉の住人達は黒人種、そして本巻のクセクソット族は黄色人種と、例外もあるようです。ペルシダーはどこへ行っても日射量がほとんど変わりませんので、人類の肌の色が数万年ほどで変化すると言われることから考えて、いくつかの人種は古くとも数万年以内にペルシダーへ到来したと推測できそうです。また、白人の数が優勢であることに注目すると、ペルシダー上空の太陽(実際には地球の中心核)は紫外線照射量が少なく、白い肌の方がビタミンD不足解消に有利だったとも考えられます。
 多くの民族が未だ石器時代レベルではあるものの、ペルシダーはデヴィッドの影響で急激に文明化されつつあります。文明の進歩は人類各民族間、そして非人類種族との摩擦を生じさせるはずです(本書におけるスヴィとの対立のように)。この先、果たしてペルシダーはどのように変化していくことになるのでしょうか。

 架空の地底世界・ペルシダーの物語は本書でおしまいです。
 科学的にかなり難があるのは否定できないところですけれども、しかしながら純粋に面白く魅力的な舞台であることも事実です。むしろ、ツッコミどころは考証して楽しむ格好の題材と言えるかもしれません(^^;)
 細かい理屈は少し脇にどけておいて、ERBの紡ぐ胸躍る冒険譚を思う存分堪能してしまいましょう。

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