地底世界のターザン

[題名]:地底世界のターザン
[作者]:エドガー・ライス・バロウズ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 巨大な地底世界を舞台とする冒険活劇、〈ペルシダー・シリーズ〉の第四巻です。
 前巻ではデヴィッド・イネスがコルサール人の虜囚となり、ペリーが〈グリドリー波〉(謎の無線媒体(^^;))を使って地上に助けを求めたところで物語が中断しています。本巻はそれを受け、地上からペルシダーへ救出隊が出発することになります。
 そして、その隊長に選ばれることになった人こそが、バロウズ世界の英雄にして英国紳士、〈ジャングルの王者〉ターザンです。

 老技術者アブナー・ペリーからの無線通信により、ペルシダー帝国連合の皇帝デヴィッド・イネスがコルサールの地下牢に捕えられていることが地上へと伝えられました。その通信を受けた〈グリドリー波〉の発見者ジェイスン・グリドリーは、デヴィッド救出のための探検隊をペルシダーへ送ることを決意します。
 しかし、ペルシダーは巨獣や原始人の跋扈する危険な地です。その探検隊を率いる隊長に相応しい人物を求め、ジェイスンは友人であるERBのつてを頼ることにします。それは野生児にして偉大な冒険家グレイストーク卿、猿人ターザンその人でした。
 ペリーを通じて伝えられたデヴィッドの報告により、地球の両極にペルシダーへ通じる巨大開口部が存在するらしいことが判明していました。新型飛行船O‐二二〇号が建造され、探検隊はそれに乗り込み北極経由で地底世界へと向かいます。
 無事ペルシダーへと到着し、休息のため開けた土地へ係留したO‐二二〇号。その地の文明世界に蝕まれていない森に魅了されたターザンは、供も連れず一人で探検に出かけました(勝手過ぎ(^^;))。けれども、油断したせいで彼は何者かが仕掛けた動物用の罠にかかってしまうのです。
 待てど暮らせど戻らないターザンを心配したジェイスンは、捜索隊を率いてターザンを捜しに出かけます。ところが、百頭を超す巨大な剣歯虎に囲まれた彼らもまた二重遭難してしまいます。
 それぞれ仲間とはぐれてしまったターザンとジェイスン、行方不明の捜索隊メンバー、探検のしょっぱなから二人のリーダーを失ったO‐二二〇号クルーの命運やいかに。そして、コルサール人とは無関係なところで早くも救出作戦が頓挫しかける状況下、果たして囚われのデヴィッドに救いの手は差し伸べられるのでしょうか(笑)

 本書の注目ガジェットは、飛行船O‐二二〇号です。
 O‐二二〇号は全長二百九十九メートル、直径四十五メートル(この数字は一フィート=三十センチメートルきっかりで計算しているようなので、やや忠実ではないです。原文では"997 feet / 150 feet")の硬式飛行船で、左右に空冷式モーターが計八基装備されています。探検隊員三十八名を乗せ、時速百六十八キロメートルで航行可能です。
 特徴は何と言っても気密室にあり、その内部は水素でもヘリウムでもなく真空です。真空タンクは、ターザンの知り合いの科学者がとある原住民族から入手した非常に軽く頑丈な金属・ハーベナイトで作られていて、一気圧の大気に逆らって中を真空に保っているようです。
 O‐二二〇号は巨体ながら、総重量は七十五トンと軽く、これに対して真空タンクの揚力は二百二十五トンもあります(原文でも"75 tons / 225 tons"なので、本来はおそらくメトリック・トンではなく米トン。換算するとそれぞれ約六十八/二百四メトリック・トンに相当)。
 ではここで、少し計算をしてみることにしましょう。示されている数字が真空タンクに加わる純粋な浮力だとして、タンク容積を求めます。
 浮力の計算はとても簡単で、アルキメデスの原理が使えます。ある物体に加わる浮力は、物体に押しのけられた流体(この場合は空気)の重さと等しくなる訳ですね。従って、摂氏二十度での空気密度約一・二キログラム毎立方メートルから逆算すると、およそ十七万立方メートルと求まります。
 O‐二二〇号は悲劇の飛行船ヒンデンブルク号より若干大きいサイズ(体積比では一・五倍程度)ですが、ヒンデンブルク号のガス容量は二十万立方メートルとされていますので、船内には若干余裕がありそうです。あるいは、真空タンクの静止揚力にタンク自体の重量が加味されていて、実際の浮力はもう少し大きいのかもしれません。
 もっとも、O‐二二〇号で使われている真空飛行船というアイディアは、実のところ揚力にはさほど寄与していなかったりします(^^;) 普通の飛行船で使われる水素やヘリウムは既に十分に軽いので、真空にするメリットは小さいのです。仮に十七万立方メートルのタンクがガスで満たされた場合、水素で約十四トン、ヘリウムでも約二十八トンですから、浮力に対するパーセンテージとしてはそれほどでもありません。
 作中では浮力よりむしろ、ガスの補充が必要ないことをメリットとしているようです。危険な水素や高価なヘリウムを必要とせず、漏出も気にしなくていいという点ですね。とは言え、本当にハーベナイトのような超軽量で頑丈な金属があるなら、ガスの漏出が問題にならない程強固に密閉された気嚢を作れますから、やっぱり真空の出番はなさそうですけど(笑)

 本巻には新たな知的生物として、蛇人間ホリブ("Horibs")が登場します。
 ホリブはその異称通り蛇に似たヒューマノイドで、フォルムこそ人間に似ているものの哺乳類ではなく爬虫類であり、収斂進化と思われます。非常に冷酷で、愛情や哀れみといった感情を持ち合わせていません。彼らにとって人間は食料ですが、自種族の共食いに対しても全く抵抗はないようです。
 ホリブ達は三畳紀の大型爬虫類パレイアサウルスに騎乗し、移動や狩りを行います。人語を解し意思疎通可能で、長槍や前掛け状防具の他は道具をほとんど持たず、文明レベルはペルシダー人と大差ない模様です。

 物語はターザンとジェイスンのダブル主人公により進行していきます。
 バロウズ世界有数の英雄ターザンはサバイバル能力に長けた人物で、未開の地ペルシダーでも臆することなく(むしろホームグラウンド(笑))突き進んでいき、原住民ともたちまち仲良くなってしまいます。本作登場の時点では亡き父の跡を継いでグレイストーク卿となっていますが、英国紳士よりも野生児でいる方が肌に合っているようです。
 ただ、探検隊の隊長としては少々無責任なのが玉に瑕ですね。そもそも単独行動を取って罠にかかることがなければ、探検隊一行がバラバラになってしまうこともなかったはずですから。(いっそO‐二二〇号でターザンをコルサール近くへ降ろし、あとは彼一人に任せておけば、単身でデヴィッド救出を成し遂げてくれたんじゃないかと(^^;))
 一方、ジェイスン・グリドリー君は頭が良くハンサムな青年です。捜索隊が剣歯虎に襲われた後、一旦は一人だけO‐二二〇号へ帰還するものの、その後にまた遭難してしまいます(笑) その際、たまたま助けたペルシダー人の娘ジャナと行動を共にすることになります。
 本作はメジャーな〈ターザン・シリーズ〉の主人公を迎えたエピソードということで、安易なクロスオーバー作品と受け取られがちのようですけれども(実際そうなのかも(^^;))、個人的には〈ペルシダー・シリーズ〉で一番面白い巻ではないかと感じます。二人の主人公の視点が随時切り替わることでストーリーが単調になるのを防いでいますし、何よりターザンというキャラクタが非常に魅力的ですから。

この記事へのコメント

  • X^2

    > O‐二二〇号で使われている真空飛行船というアイディアは、実のところ揚力にはさほど寄与していなかったりします

    いっそ、タンクに火星の第八光線を詰めれば、もっと揚力を得られたのに・・・。

    > 蛇人間ホリブ

    レムリアン・サーガの「ヴァルーシアの蛇人間」を連想しますが、実際にそこから借りてきたアイディアなのかも。
    2010年04月24日 22:57
  • Manuke

    > いっそ、タンクに火星の第八光線を詰めれば、もっと揚力を得られたのに・・・。

    あはは。クロスオーバー的にはそれも面白いですね。
    ただ、そうなってしまうと考証不能に……(^^;)

    > レムリアン・サーガの「ヴァルーシアの蛇人間」を連想しますが、実際にそこから借りてきたアイディアなのかも。

    なるほど……。
    リン・カーター氏の〈Callistoシリーズ〉はバルスームに、〈Zanthodonシリーズ〉はペルシダーに捧げられているそうなので、大いにあり得るかもしれません。
    2010年04月26日 00:31
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