戦乱のペルシダー

[題名]:戦乱のペルシダー
[作者]:エドガー・ライス・バロウズ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈ペルシダー・シリーズ〉第三巻です。
 本巻の舞台は、一巻及び二巻で語られた物語後やや時間が経過した時点となります。〈ペルシダー・シリーズ〉は「ERBがデヴィッド・イネス他から伝え聞いた実話」という形態を取っていますので、発表年の開きが経過時間とほぼ同期していると考えるなら、前巻から十五年ほど後と類推できます。とは言うものの、ペルシダーには客観的な時間は事実上存在しないので、気にしても仕方がないのかもしれませんが(^^;)
 お話はまず、バロウズ氏の友人である青年ジェイスン・グリドリーが発明した無線機のくだりから始まります。〈グリドリー波〉と名付けられた、他の無線とは相互干渉しないはずの媒体を使った新型無線機は、ある日謎の信号を受信し始めました。
 その信号こそは、デヴィッド・イネスと共に地底へ降りた老技術者アブナー・ペリーによって発信された、ペルシダーからの救援要請だったのです。

 ペルシダーへの帰還後、再び同盟を築き上げて翼竜種族マハール族と対峙し、遂に敵を帝国領土から追い出すまでに至った皇帝デヴィッド・イネス。これでペルシダー帝国の人間は、領土内においてはマハール族に怯える必要もなくなった――かに見えました。
 しかし、人里離れた海岸や湖岸にマハールの小集団が住み着いているという噂がデヴィッドの耳に入るようになります。人食い種族のマハールを相容れない存在と認識しつつも、今のところ面倒を起こしていないという彼らを滅ぼす気にもなれないデヴィッドは、まずは穏便に話し合いで解決しようと考え、通訳のサゴス族(ゴリラ型種族)を交えた軍隊を差し向けました。
 ところが、マハール達は人間を食べるために帝国へ戻ってきたのではなく、別の場で迫害に遭ったせいで逃げてきただけだったということが判明します。デヴィッド率いるペルシダー帝国連合とは無関係にも拘わらず、銃や巨大船を有する人類勢力が存在し、それがマハール族を楽しみのためだけに虐殺していたというのです。
 そして、時を同じくして最北の辺境から、謎の侵略者が略奪を行い、人々を殺害あるいは捕虜としているという知らせが入ります。それこそが、マハール族を迫害したのと同じ野蛮な白人一族・コルサール人でした。
 サリ王ガークの息子タナーはデヴィッドの命を受け、捕虜の釈放と侵略からの撤退を要求するためにコルサール人の元へ赴きました。しかし、タナーもまたコルサール族長エル・シドに捕縛され、捕虜として彼らの本拠コルサールへと連行される羽目になってしまいます。
 けれどもその途中、コルサール船団は大嵐に見舞われて遭難し、エル・シドの娘ステララとタナーの二人だけが生き残りました。果たしてタナーは無事、故郷のサリへと帰ることができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、ペルシダーへの出入り口です。
 デヴィッドとペリーの二人は巨大なドリルを装備した試掘機「鉄製もぐら」で厚さ八百キロメートルの地殻を掘り抜き、ペルシダーへと到達した訳ですが、そこには太古の昔に地上で生息していた様々な動植物、そして人間までもが彼の地で生きています。つまり、それらの生物が行き来する手段があることになります。
 本シリーズの世界では、地球の北極及び南極地方に巨大な開口部が存在し、そこから地球内部へ進入可能だと設定されています。この「両極に穴が開いている」という部分は地球空洞説では比較的ポピュラーのようで、現実にも極地方へ赴いてその存在を確かめようという探検計画もあったようです。(実現しませんでしたが(^^;))
 この開口部に関しては、本書の発表時(初出は一九二九年)既にアムンゼン氏らが南極到達に成功(一九一一年)している等の事実がある訳ですけれども、これに対しバロウズ氏は「開口部が余りに巨大なため、船や飛行機で行っても孔を潜ったことに気付かない」という答えを用意しています(笑)
 今に読むと荒唐無稽過ぎるお話に感じられますけれど、実際のところ二十世紀前半の時点では、地球両極に穴が開いているかどうかを超高々度から観察して確かめる術はなかった、という部分には留意する必要があります。何と言っても、世界初の人工衛星スプートニク一号が打ち上げられたのは一九五九年のことです。二十世紀が、ほんの数年~数十年で様々な常識が覆る激動の時代であったことを改めて気付かされます。

 本巻は、サリ族の若者タナーがヒロインのステララと共に波瀾万丈の冒険を繰り広げるストーリーとなっています。前二巻でのペルシダーは文明人デヴィッドの視点から見て異世界であったのに対し、今回はその住人目線であることが大きな違いでしょうか。
 また、今回は新たな知的種族として地下人間コリピーズ("Coripies")が登場しています。コリピーズは青白い肌で無毛のヒューマノイドで、目がないのっぺらぼうです(眼球は存在するものの、目は開かない)。地下に棲息し、人間はおろか同族すら捕食対象という恐ろしい食人種ですね。詳細は不明ですが、普通に人間と意思疎通可能なところ、そして怪物的ではあるものの人間に似た姿をしているところを見ると、地下に適応進化した人類なのかもしれません。

 タナーの冒険は本巻で一段落し、続いてペリーの要請に応え救出作戦が実行されることになります。
 次の巻ではいよいよ、ERB世界で最も有名なあのヒーローが登場です。

この記事へのコメント

  • X^2

    前話での獣人とこの話での地底人間に関しては、両話とも確かに読んでいるにも関わらず、実はまったく記憶がありませんでした。これに限らず、子供時代の読書内容の記憶はかなりあいまいで、「こんな話だっけ」という事が時々あります。

    > 実際のところ二十世紀前半の時点では、地球両極に穴が開いているかどうかを超高々度から観察して確かめる術はなかった

    それどころか人工衛星の時代でも、「両極の穴が衛星写真に写っていた」事件があったはずです。真相は、極周辺が衛星からは写らないために、写真をつなぐと両極に穴があるように見える、という事でしたが。

    コルサール族の描写からすると、彼らは恐らくスペイン系海賊の末裔なのでしょうね。本来なら、ヴァイキングの方がもっと以前にペルシダーに入り込んでいそうに思いますが。案外、「先住民」と化していたヴァイキングの末裔が、後から来た原コルサール族に滅ぼされたとか、両者の混血が現コルサール族とかいう事情があるのかな。
    2010年04月18日 15:43
  • Manuke

    獣人やコリピーズは、容姿が異なるぐらいで中身は人類と大差ないですから、印象が薄いのかも。ペルシダー人の中にも食人種がいますし(^^;)

    > それどころか人工衛星の時代でも、「両極の穴が衛星写真に写っていた」事件があったはずです。

    ありましたね~。UFOの入り口だとかいう説まであったようで(笑)

    > 本来なら、ヴァイキングの方がもっと以前にペルシダーに入り込んでいそうに思いますが。

    それはとても面白い考察ですね。
    「ヴァイキングのサガにあるヴィンランドは、アメリカ大陸ではなくペルシダーだった!」という解釈もアリかも(^^;)
    2010年04月19日 00:38

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