危機のペルシダー

[題名]:危機のペルシダー
[作者]:エドガー・ライス・バロウズ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 地底の空洞世界ペルシダーを舞台とした〈ペルシダー・シリーズ〉の第二巻です。
 前巻では、未開の地ペルシダーに迷い込んだデヴィッド君が蛮族を纏めて皇帝となり、いよいよマハール族と対決――の直前、狡猾な男フージャの奸計にかかり、マハール族との二人連れで地上へ戻ってしまいました(元々デヴィッドは妻ダイアンを連れて戻る予定だったので、あまり変わらないような気もしますが(^^;))。美味しいところで終わってしまい、先が気になる展開ですね。
 本巻はその直後、デヴィッドがペルシダーへ戻ったところから始まり、ストーリー的に一区切りが付くところまでが描かれます。実質的には前後編と捉えるべきかもしれません。
 砂漠で出会った青年を援助した後、彼とは没交渉になってしまったバロウズ氏。事の顛末を書いた『地底世界ペルシダー』を出版した後、読者の一人から驚くべき情報が寄せられます。
 その情報とは、砂漠に埋もれた電信器を見つけたというものでした。それこそが、ペルシダーへ旅立っていたデヴィッド・イネスが残した、二つの世界を繋ぐ通信手段だったのです。デヴィッドは電信器を通じ、その後の顛末をバロウズ氏に伝えます。

 砂漠で出会ったERBの助けを得て、ペルシダーへ持ち帰るべき書籍や火器、火薬、実験器具類をに積んだ後、デヴィッド・イネスは再び「鉄製もぐら」を地底へ向けました。
 ペルシダーの海岸端に到着したデヴィッドは、捕虜としていたマハール族をその場で解放し、自分は再び愛する妻ダイアンや親友のペリーと合流すべく「鉄製もぐら」を後にします。しかし、地上との往復によりデヴィッドは現在位置がどこなのかが分からなくなっていました。文明の存在しない広大なペルシダーで、果たして仲間達と再会することはできるのか――不安に思いながらも、デヴィッドは旅を続けます。
 人っ子一人見かけない土地を彷徨い続けた後、ある日彼は、マハール族の手下のゴリラ型種族・サゴス族が人間の老人に襲いかかろうとしているところに出くわしました。なんと、その老人はデヴィッドの旧友ペリーだったのです(ちょっとご都合主義(^^;))。
 デヴィッドが拳銃でサゴス族を撃退した後、再会を喜ぶ二人。そしてデヴィッドは、彼が去った後のペルシダー情勢をペリーから教えてもらいます。
 元凶である狡猾な男フージャは、デヴィッドが地上へ逃げたのだと言いふらし、その結果彼の民達は部族同士で対立する事態に陥っていました。その上、デヴィッドの最愛の人であるダイアンも姿を消し、その行方は杳として知れません。連盟は崩壊し、マハール族が再び勢力を増していました。
 恐るべき翼竜型種族の支配から人間を解き放ち、美女ダイアンをその手に取り戻すために、デヴィッドはペリーと共に新たな冒険の旅へ身を投じるのです。

 本書の注目ガジェットは、ペルシダーにおける時間の経過です。
 ペルシダー上空に輝く太陽は恒星ではなく、地球がどろどろに溶けていたときの名残りとされています。この太陽は地球中心に位置しますので、ペルシダー上ではどの場所/どの時間でも常に天頂にあり、決して動きません。従って、ペルシダーには昼夜の区別もない訳です。
 面白いのは、時間を刻む客観的な基準がないことで、ペルシダーでは他人同士の主観時間が大きく食い違うことがしばしば起こる点です。例えば、デヴィッドがペリーと(デヴィッドの主観で)何ヶ月もの間別行動を取った後に再会したとき、ペリーはその期間を(ペリーの主観で)一時間以内と感じていた、という具合です。
 このことから、ペルシダーに住む人間(マハール族のような非人類種族も?)は、時間というものをあまり意識していないようです。また、地上の人間のように定期的に睡眠を取ることもありません(「寝だめ可能」というのがうらやましいところ(^^;))。
 デヴィッド君はこうした状況に直面し、そもそも時間という概念自体が地上人の頭の中にしか存在しないものなのではないか、と疑問を呈しています(^^;) やや強引ではあるものの、哲学的には面白い考察ですね。
 さすがに時間そのものがないというのは想像し辛いですけど、「ペルシダー内部では何らかの理由により生物の代謝速度が一定でなくなり、主観時間が個人個人で大きく変化する」みたいな解釈は可能かもしれません。(十分に強引?(笑))

 本作では新たに、獣人("brute-men")という種族が登場します。獣人は羊とゴリラのあいのこのような顔をした、大柄なヒューマノイドです。見てくれは恐ろしげなものの比較的温和な生物のようで、自己防衛や刑罰以外で他者を殺すことはありません。しかしながら力は強く、敵に回すと厄介な相手となります。
 前巻に登場の人猿とサゴス族は明らかに霊長類ですが、獣人はペルシダーで独自の進化を遂げた種族らしく、その祖先は不明です。
 獣人はペルシダー人と類似した言語を使っており、更には原始的な農具を用いて農耕を行っています。未だ食料を狩猟・採集で調達しているペルシダーの人間よりも進歩した文明を持っていると言えますが、その生息域は一つの島内に留まっているようです。
  
 『地底世界ペルシダー』及び『危機のペルシダー』の二巻で、ひとまずデヴィッド・イネス君の冒険に区切りが付きます。次巻『戦乱のペルシダー』は本書からおそらく数年ほど後(客観時間がないので不明(^^;))、ペルシダーの若者が主人公を務めるお話です。

この記事へのコメント

  • むしぱん

    切りのよい2巻まで、かつ武部氏のイラスト目当てなので創元版の『翼竜の世界ペルシダー』までを読みました。

    一巻でディヴィッドがゴリラたちに捕まるシーンは、ピエール・ブールの『猿の惑星』を思い出し、「あれはこれが土台だったのかな」と感心しました。

    私が思う本シリーズの注目ガジェットは、主人公デヴィッド君の技「会った人は誰でも自分の味方にしてしまう不思議な力」です(笑)。
    とにかく彼の誠実さのおかげ(?)で会った人々は皆、彼に敬服し次々と味方になっていくところが微笑ましく、彼の強力な武器ですね。凶暴な狼犬の手当てもしてあげた結果、その狼犬だけでなく相方の牝狼までも味方にしてしまうところなどは、犬を飼っている私としては「いいエピソードだなあ」と胸が熱くなりました。(その狼犬が実は群れのリーダーで、マハール族との戦い時には狼犬の大群を引き連れてくるなどのエピソードをちょっと期待しましたが、そこまではなかったですね)

    火星だけでなく、金星、月、ターザンなどの各シリーズも、少しつまみ読みしてみようかなと思いました。
    2015年08月17日 01:23
  • Manuke

    バロウズ氏は他の作家さんに大きな影響を残していますから、ありそうな気がしますね。>『猿の惑星』
    シチュエーションも類似している部分がありますし。

    狼犬ラジャのエピソードはほほえましいです。
    デヴィッド君の方も最初は警戒しつつ、次第に信頼し合っていく辺りとか。
    肉歯目のヒエノドンが犬のような生態だったかは不明ですが、現生種・絶滅種ごった煮状態(笑)なのもペルシダーという舞台の魅力ですね。
    2015年08月20日 01:02
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