はだかの太陽

[題名]:はだかの太陽
[作者]:アイザック・アシモフ


 ライティング・マシーンの異名を持つ、SF御三家の一人アイザック・アシモフ氏は、私にとって特別な作家さんです。魂の半分くらいがアシモフ分で構成されるのではないかと感じられるほどに(笑)
 氏の数多い著作中でも、とりわけお気に入りなのが本書『はだかの太陽』です。つまり、私的ベストSFと言うわけですね。
 この作品は『鋼鉄都市』の続編、すなわち〈イライジャ・ベイリ三部作〉の第二作目になります。SFと推理物との見事な融和を果たした傑作であり、そして最上級のセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれる超名作SFでもある、そう言っても差し支えないでしょう(断言)。また、ロボット工学三原則に対する一つの答えとしても、本作は重要な役目を果たしています。
 かつて殺人事件を鮮やかに解決したその手腕を見込まれ、惑星ソラリアに招かれた地球人刑事イライジャ・ベイリ。彼はロボットの相棒R・ダニール・オリヴォーと再びコンビを組み、ソラリアという奇妙な社会で起こった殺人事件の謎を解くべく奔走するのでした。

 前作『鋼鉄都市』から数ヶ月後、ニューヨーク市警所属の私服刑事イライジャ・ベイリは突如ワシントンへ呼び出されます。そこで下されたのは、宇宙国家ソラリアへ出向き殺人事件を捜査せよ、という命令でした。先の事件解決で見せた刑事としての能力の高さを買われてのことです。
 この時代、人類は宇宙人(宇宙へ移民した地球人)と地球人という二つのグループに分かれ、前者が主導権を握っています。地球側は宇宙国家に関する情報を欲しており、ソラリアからの要請は渡りに船だったわけです。
 地球人の常として、ベイリも極度の広所恐怖症であり、安全な巨大都市シティを出て別の惑星を訪れるなどごめんこうむりたいところです。しかしながら、またも彼の意思は尊重されず、問答無用で宇宙船へ乗せられて遥か彼方のソラリアへと送り出されてしまったのです(^^;)
 不安で仕方がないベイリですが、幸いなことに前回の事件で相棒を務めたヒューマンフォーム・ロボット、R・ダニール・オリヴォーが惑星ソラリアで彼を出迎えてくれました。ベイリは再びダニールと組み、ソラリアで起こった殺人事件へ取り組むことにします。
 けれども、惑星ソラリアはベイリにとって異様な社会でした。ソラリア人達は互いに直に対面することを病的に恐れ、交流はほぼ全て立体映像を通じて行われています。更に、屋外へ出ることが恐ろしくてたまらないベイリ自身の問題もあり、捜査は困難を極めます。
 被害者リケイン・デルマーの近くにいたことが分かっているのは、彼の妻グレディア、そして陽電子頭脳に異常を来したロボットだけ。ロボット工学三原則の制約により、ロボットがリケインを殺害するのは不可能のはずです。必然的にグレディアが容疑者ということになるのですが……。
 ソラリア人社会の風習、彼に向けられる嫌悪、そして妨害――様々な壁を乗り越え、ベイリは次第に真実へと近づいていくのです。

 この作品の注目ガジェットは、ソラリア社会ですね。
 惑星ソラリアは地球に良く似た星ですが、その人口はわずかに二万人しか存在しません。その代わりとして、ソラリア上には二億台(一人当たり一万台)もの陽電子ロボットが稼働しています。
 この無数に存在するロボットのおかげで、ソラリア人は一部を除き労働に勤しむ必要がありません。ロボット達が召使いであり、ソラリア人はその主人に相当するわけですね。アシモフ世界のロボットは三原則に縛られますから、反乱を起こされる心配もないのです。
 この人口密度の低さ故か、ソラリア人は他人(夫婦や親子関係も含む)に相見えることを嫌悪します。直接対面することに不快感を覚える、言ってみればソラリア人全員が対人恐怖症かつ潔癖性のようなものです(^^;)
 このため、ソラリア人が互いに交流する場合は三次元映像が使われます。ソラリアの三次元映像装置は素晴らしく、(ベイリにとっては)実際に会っているのと変わらないように思えるのですが、ソラリア人には大違いのようです。彼等は三次元映像越しに会うことを「眺める(viewing)」、実際に会うことを「見る(seeing)」と区別しています。
 非常に興味深いのは、作中のソラリア社会が二十一世紀のネット社会に対する風刺とも読めることですね。無論、アシモフ氏が本作を書かれた時期にはインターネットはおろか、その前身のARPANETすら存在していませんが、こうした未来社会の変貌を見通す慧眼とイマジネーションには感嘆の念を禁じ得ません。

 本書のストーリー中では、ロボット工学三原則が重要な意味を持ってきます。
 ロボット三原則とは、以下の三つのルールからなるもので、アシモフ作品に登場するロボットはほぼ全てがこの規約に従います。

・第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。但し、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない。
・第三条:ロボットは、第一条及び第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

 しばしば、この三原則が「安全・使いやすい・壊れない」という工業製品の目標を表すものだと言われることもありますが、それは少々ニュアンスが異なるように感じられます。何故なら、ロボット三原則はロボット自体の行動に適用されるものであって、その開発者に対するものではないからです。
 三原則の価値はむしろ、状況を制約するという物語上の役割にあると言うべきでしょう。推理小説における密室殺人と同じですね。
 ロボット三原則を用いたミステリーは、幾多のロボット物SFを生み出してきたアシモフ氏ならではのものです。三原則に従って行動するロボットという構図が確立されているからこそ、そこに推理要素を持ち込んでも理不尽さがないのです。

 推理小説として十分に読み応えがある本書ですが、純粋にSFとしても優れた作品です。
 ソラリアという奇妙な社会に放り込まれた主人公イライジャ・ベイリは齢四十三歳の中年刑事であり、広所恐怖症のせいでしばしば気絶したりします(^^;) けれども、不屈の精神で決してへこたれず事件の謎を解き明かす姿は、実に格好いいですね。
 推理と平行して展開する自分自身との対決の末、ベイリが辿り着く結論は、読む者の心に大きな感動をもたらすことでしょう。

この記事へのコメント

  • こんにちは!!

    アシモフ先生作品をはじめて読んだのは小学校の
    図書館にあった「ラッキースター?」シリーズの
    ジュヴナイル版でした!
    (って、そもそも原作からしてジュヴナイル版
     だったのか?:-)

    ああ! 土星の軌道をとびまわるだけで
    ワクワクしていましたっけ。\(^o^)/

    -----
    あ、すみません、超個人的な思い出話を
    はじめてしまいまして。
    -----
    「Manuke Station」を
    通して、今の若い人たちがまたこの素晴らしい
    古典?SFの世界に戻ってきてほしいものです!!

    毎回楽しみにしています!!

    ではでは。
    2006年03月11日 09:34
  • Manuke

    > アシモフ先生作品をはじめて読んだのは小学校の
    > 図書館にあった「ラッキースター?」シリーズの
    > ジュヴナイル版でした!

    私は多分、『鋼鉄都市』のジュブナイル版が最初のアシモフ作品でした。
    『われはロボット』もありましたね。

    > ああ! 土星の軌道をとびまわるだけで
    > ワクワクしていましたっけ。\(^o^)/

    『ラッキースター・シリーズ』は未読なのですー。読みたくなってきた(^^;)
    今でも入手できるのかな?

    > あ、すみません、超個人的な思い出話を
    > はじめてしまいまして。

    いえいえ、全然おっけーです。
    やっぱり学校の図書室でSF入門された方って、私も含めて多いですよね。
    翻訳してくださった先達には、本当に感謝の念が絶えません。

    > 「Manuke Station」を
    > 通して、今の若い人たちがまたこの素晴らしい
    > 古典?SFの世界に戻ってきてほしいものです!!
    >
    > 毎回楽しみにしています!!

    ありがとうございます。
    微力ながらSFの更なる普及に貢献できればと考えています。
    今後ともよろしくお願いしますね。
    2006年03月12日 01:20

この記事へのトラックバック

[SF][ロボット三原則]はだかの太陽〔新訳版〕
Excerpt: はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) 作者: アイザック・アシモフ,Ryan Malone,小尾芙佐 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2015/05/08 メディア:..
Weblog: カレーなる辛口Javaな転職日記
Tracked: 2015-04-30 23:42