地底世界ペルシダー

[題名]:地底世界ペルシダー
[作者]:エドガー・ライス・バロウズ


 E・R・バロウズ氏は二十世紀初頭、SF及び冒険小説作家として絶大な人気を博した方です。そのお名前は知らずとも、ターザンなら知っているという方も多いのではないでしょうか。
 SF界においてもその影響は大きく、特に娯楽性の強いサブジャンル、スペースオペラとヒロイック・ファンタジーの成立はバロウズ氏抜きには語れません。一説によると、最盛期にはバロウズ氏の模倣者が数百人いて、その中の有力な方にも更に数百人の模倣者がいた、などとも言われています(^^;) 現実にこの数字通りだったのかは分かりませんが、スペースオペラの大家ドク・スミスを始めとして、バロウズ氏の影響を受けたとされるSF作家さんは少なくないようです。
 そのバロウズ氏の代表的作品と言えば、前述の野生児ターザンの活躍する冒険小説〈ターザン・シリーズ〉、火星を舞台としたヒロイック・ファンタジー〈火星シリーズ〉、そして本書から始まる〈ペルシダー・シリーズ〉ですね。
 近代SFの嚆矢、ジュール・ヴェルヌ氏の『地底旅行』と同じ地底の大空洞を扱いつつも、本シリーズのペルシダーはスケールでは遥かに上回り、科学考証では遥かに下回ります(笑) いささか荒唐無稽ではあるものの、冒険譚としてとても面白い点は見逃せません。
 ストーリーはバロウズ氏がサハラ砂漠で白人青年と出会ったところから始まります(本書の内容は青年からの伝聞であり実話、という設定)。青年はバロウズ氏に、到底信じがたいような、しかしながら信じざるを得ない驚くべき冒険を語って聞かせました。その内容とは……。

 コネチカット州生まれの青年デヴィッド・イネスは、十九歳のときに鉱山主の父が亡くなり、成年に達するまでの二年間、事業に関する勉強に打ち込むことになりました。
 採掘や事務といった様々な仕事を学んでいた頃、デヴィッドは地下試掘機の老研究者アブナー・ペリーと、その新しい試掘機に興味を惹かれます。設計図や模型を吟味し、十分に納得したデヴィッドは、ペリーの試掘機建造にゴーサインを出しました。
 完成した新型試掘機「鉄製もぐら」("iron mole")は、先端が回転ドリルになった全長三十メートルの円筒形で、岩石の間を縫って掘り進めるよう関節で連結された機械でした。二人は早速「鉄製もぐら」に乗り込み、実用テストを行うことにします。
 けれども地面をかなり掘り進んだ時点で、「鉄製もぐら」の舵輪が全く動かないということが判明してしまいます(どうして逆進できるよう作らなかったのでしょう?(^^;))。温度はどんどん上昇していき、機内の空気も残り少なくなりました。
 ところが、ある点を通過後に温度は次第に低下していき、やがてドリルの先端は大地の上へ飛び出しました。デヴィッドは、「鉄製もぐら」がいつの間にか方向転換して地上へ戻ったのだと思い、空気を求めてキャビンの外へと出ます。
 しかし、そこは地上ではありませんでした。あろうことか、地球の内部は超巨大な空洞になっていて、「鉄製もぐら」は地殻を突き抜けてその内側へと飛び出していたのです。
 恐ろしい古代の巨獣が跋扈し、翼竜型種族マハール族に支配された地底世界、ペルシダーの物語がここから始まります。

 本書の注目ガジェットは、地底世界ペルシダー("Pellucidar")です。
 本シリーズにおける地球は中が「がらんどう」の球体です。地殻の厚さが八百キロメートル、空洞の内径が一万千二百キロメートルとの設定ですから、直径二十六センチメートルの地球儀(縮尺五千万分の一)に換算すると厚みは一・六センチメートルに相当します。ペルシダーは球の内側にへばりつくように広がる世界で、このうち四分の三が陸であるために外側よりも陸地面積は広大です。
 内側の世界には空気があり、その中央には太陽のように輝く天体(?)が存在します。大きさは本物の太陽の「たっぷり三倍("Fully thrice")」とのことですから、視直径三倍として計算するとおよそ百六十キロメートルほどのサイズとなります。また、太陽の周囲を衛星が巡っており、公転周期が地球の自転と一致しているため、常に同じ場所へ影を落としています。
 この、地球の内側が空洞になっているのではないかという説は「地球空洞説("Hollow Earth hypothesis")」と呼ばれ、かつては現実に提唱されたものです。もっとも、ニュートン力学に基づいて計算すると、完全に空洞な球体の内側は全方向からの引力が相殺されて無重量状態となります。しかも、ペルシダーの場合はその中心に太陽がありますから、内面地表に外向きの重力が発生するとはなおさら考えにくいです(笑) 物理学的には否定されてしまう世界ですね。
 無理矢理屁理屈をこねてみるとしたら、万有引力の「距離の二乗に反比例」の指数を変化させてしまうという手があるかもしれません。数字を大きくする(例えば二・五乗とか)と、地表では中心向き、ペルシダー表面では外向き、空洞内部(ペルシダー上空)では中心向きの重力という作中の状況が再現できなくもない、かも?(^^;)

 ペルシダーには地上と同じく様々な動植物が棲息しており、太古の昔に滅んだはずの恐竜や首長竜なども生き残っています。中でも翼竜(ランフォリンクス類)から進化したマハール族("Mahars")は高度な知性を獲得して都市を築き、ペルシダーの支配者として君臨しています。
 人間もペルシダー上に存在するものの、その文明は旧石器時代のレベルであり、マハール族からは知性ある生き物と見なされていません。マハール族は聴力を全く持たない(互いは四次元的感覚で会話)ため、人類が言葉を持っていることすら知りません。人間は彼等にとって労働力や食用の家畜に過ぎない訳です。この辺りの逆転の構図が妙ですね。
 また、第一巻では人間とマハール族の他、ゴリラ型種族のサゴス族、猿に似た長い尾を持つ人猿という半知的種族が登場します。
 サゴス族("Sagoths")はマハール族の手下として働いており、力は強いのですが知能はそれほど高くないようです。マハール族とも人間とも意思疎通可能で、通訳の役割も果たしています。
 一方、人猿(マン・エイプ:"man-apes / ape-men")は樹上の小屋で暮らす半人半猿の生物で、(デヴィッドの見るところ)言語はあまり発達していない様子ですが、家畜を飼うなどペルシダー人類よりも進歩した文化を持っている面もあります。

 少々と言うか、かなりご都合主義的なシチュエーションは多いものの(^^;)、エンターテイメントとしては非常に優れた物語であることは間違いないでしょう。
 また、単なる冒険物語に留まらず、SF的エッセンスが感じられる部分も多くあります。細かい粗には目をつぶって娯楽作品として楽しむも良し、逆に色々考察して楽しむも良し、です。

この記事へのコメント

  • X^2

    ついに満を持してバローズ作品登場ですね。キャプテン・フューチャーと共に、バローズ作品は子供時代にSFを読んだ人なら、ほぼ全員が知っているような気がします。

    > どうして逆進できるよう作らなかったのでしょう?

    これに関しては、ペリーがそういう事に気がつかない人だったという説明がシリーズの後の話であった気がします。

    > 太陽の周囲を衛星が巡っており

    この衛星というかに関しては、シリーズであまり使われませんでしたね。火星シリーズの方だと、衛星サリア(フォボス)に行く話がありましたが。
    2010年04月03日 00:39
  • Manuke

    掘削不能な岩盤に当たったらそのまま生き埋めになりそうですし、ペリーは少々迂闊ですねー。
    実際にはERBが……ってのは突っ込んじゃいけないところでしょうか(^^;)
    2010年04月04日 00:44
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