キャメロット最後の守護者

[題名]:キャメロット最後の守護者
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 流麗な描写が高く評価されるゼラズニイ氏の自薦作品集です。
 本書では各短編にゼラズニイ氏ご自身の簡単な解説が付けられています。さすがに解説好きなアイザク・アシモフ氏ほど饒舌ではありませんが(^^;)、それぞれの作品の執筆経緯等が軽く触れられています。
 また、アメリカ本国で出版された"The Last Defender of Camelot"から一部差し替えがある点も特徴的かもしれません。"He Who hapes"(『ドリームマスター』短編版)及び"Damnation Alley"(『地獄のハイウェイ』短編版)の代わりに、『心はつめたい墓場』及び『復讐の女神』が収録されています。両作の長編版が既に和訳されていることから、日本側より差し替えのお願いをしたところ、快く応じてくださったとのことです(新規収録作の解説も書き下ろし)。

◎受難劇

 ゼラズニイ氏のデビュー作です。
 主人公は、ある聖地で開催される伝統行事へと参加する栄誉を得ました。
 古代の偉大な創造主たちが行った神聖な決闘を完全再現すべく、祈りを捧げつつ〈儀式〉を開始します。
 聖地の名はル・マン、そして主人公が乗るのはナンバー4のフェラーリ・アナログです。

◎騎士が来た!

 ある夜、未開の村に奇妙な男がやってきます。
 彼は村人達が見たこともない白い動物に乗り、道具を手に持ち、金属の服を着ていました。男はそれを馬・剣・鎧だと言い、村長に尋ねます――自分と良く似た仲間はどこにいるか、と。

◎吸血機伝説

 主人公(わたし)は魔物ロボットと呼ばれていました。
 魔物ロボットは、セントラル・コントロールと自分をつなぐ回路を切った自由ロボットです。動力源を内蔵しておらず、他のロボットを襲いエネルギーを得ることから、ロボット達からは伝説として恐れられています。
 人間は遥か昔に滅びていましたが、ローズウッド公園の墓地は神聖な場所と考えられていました。魔物ロボットは、もう一人の伝説の怪物と共にそこに潜んでいたのです。
 もう一人の怪物の名はフリッツ、最後の吸血鬼でした。人間が滅んだ今、彼は糧を得ることもできず、棺の中に横たわって昔の夢を見ています。
 そしてある日……。

◎おそろしい美

 主人公(わたし)は遍歴の審美家であり、他生物の精神の中に入り込んでは、ただ観客として過ごすということを繰り返していました。宿主の生活には基本的に干渉せず、その言動を演劇のように鑑賞することのみが目的です。
 大劇評家フィリップ・ディヴァーズを宿主として十年を過ごした後、審美家がそこを離れる最後の晩、ディヴァーズはふいに鏡に向かって「こんばんは」と語りかけました。彼は何者かが自分の中に潜んでいることに気付いていたのです。
 審美家は挨拶を返し、長らく頭を悩ませてきた問題に関してディヴァーズへ尋ねることにします。

◎復讐の女神

 ワラビー号艦長ヴィクター・コーゴは、かつて宇宙警備隊の一員として宙賊や銀河法違反者達と戦った英雄でした。
 あるとき、彼は宙賊要塞の攻略に失敗して部下を失い、半死半生のところを知的四足生物ドリレンに命を救われます。しかし、ドリレンは統一銀河法のもとで死を運命付けられていました。それを知ったコーゴはインターステルに反旗を翻し、殺戮を繰り返す裏切り者へと変じたのです。
 死と破壊をもたらす「心臓のない男」コーゴに対し、保険会社が三人の男を集めます。驚異的な記憶力と、体に先天的な障碍を持つサンドール・サンドール、銀河にも数少ない超能力者(いわゆるサイコメトラー)でゴシップ好きのベネディック・ベネディクト、そして元秘密情報部員で殺人のスペシャリストのリンクス・リンクスは、一致団結してコーゴを滅ぼすべく行動を始めます。

◎心はつめたい墓場

 冷凍睡眠を繰り返し、数年の内わずかな期間のみを覚醒して過ごしながら未来へと向かっていく一握りの人達、〈パーティー・セット〉。彼等はタレント並みに人々の注目を集める存在であり、一般大衆とは縁遠い存在でした。
 電気技術者アルヴィン・ムーアは、紀元二〇〇〇年を衛星軌道上から祝う〈軌道上ニュー・イヤー〉に招待され、そこで出会った〈スリーパー〉の一人レオータ・マチルド・メースンに恋をしてしまいます。しかし、相手は雲の上の存在でした。ムーアは自分も〈パーティー・セット〉に加入することを決心します。
 〈パーティー・セット〉の一員となるには、金や知名度が十分であるだけでなく、その長老である老女メアリー・モード・マレンの面接に合格する必要がありました。ムーアは懸命に自己研鑽を重ねて富と名声を手に入れ、マレン夫人との面会に臨みます。

◎いまこそ力は来たりて

 ミルト・ランドは超能力者でした。彼はテレパシー能力で他の人間や動物の心を読み取ることができたのです――二年前までは。
 しかし、その力はトラウマによる阻害現象により今は失われています。これ以前にも同様の状態に陥ったことはあったものの、今回ほどそれが長続きしたことはありませんでした。彼は自分が超能力者であることを隠しており、誰にも相談することができないでいます。
 別の超能力者と心を接触すれば力を取り戻せるかもしれませんが、あいにく同類の知人は今、身近にいません。かくして、ミルトは気の狂うほど腹立たしい思いを抱えながら、なんとか超能力を取り戻そうと無駄な努力を重ねていました。
 そんなある日の午後、彼の心に接触してくる女性がいました。ミルトは名も知らないその超能力者に、助けてくれるよう懇願するのですが……。

◎異端車

 マノーロ・スティジューテ・ドス・ムエルトスは〈機闘士〉(メカドール)でした。
 二年前、彼は二度目の死により引退したと思われていましたが、今また〈闘車場〉(プラーサ・デル・アウトス)に戻ってきたのです。
 そしてマノーロは、金糸の縫い取りと刺繍が施された青い作業服を纏い、ケープとモンキーレンチを手にし、観客達の前で自動車と死闘を繰り広げます。

◎フロストとベータ

 人類滅亡後のはるかな未来――。
 地球には衛星軌道上に浮かぶコンピュータ・ソルコンと、その敵対者で地下に埋設されたディヴコンの二つの勢力がありました。ソルコンは人類亡き後も地球再建を続けており、そのバックアップとして作られたディヴコンはソルコンに代わって支配権を得ようと画策しています。
 そして、ソルコンの配下には北半球の管理者フロストと、南半球の管理者ベータ・マシンが存在しました。中でも、フロストはどこか特異なところがある機械で、彼が建造されるよりも前に滅んだ人間というものに興味を抱いていたのです。フロストは時折発掘される遺品を集めては、人間とはどのようなものだったのかを理解しようと試みています。
 ある日、そんなフロストの下へ見慣れない小さな機械が現れます。モーデルと名乗ったその機械は、自分もまた人間に関心を持つ者であると言いました。そして、人間の情報提供と引き替えに、対価を求めようとするのですが……。

◎生と死の浜辺

 安楽死コロニーの海辺に、ボルクと呼ばれる者が暮らしていました。半分人間、半分機械の彼は渚を散策し、汀に打ち上げられたものを棒でつついたりして日々を過ごしています。
 あるとき、ボルクは海岸で少女を見かけるようになります。少女はボルクに話しかけ、引き留めようとしますが、彼はそれを無視していました。
 しかし、三度目に少女と会ったとき、彼女の近くには若者と処理機械がいたのです。助けを求める少女に応え、ボルクは若者を追い払いました。そして、ノーラと名乗った彼女を自分の住む小屋へ連れ帰ります。

◎血と塵のゲーム

 彼等は漂うように地球へとやってきました。二つの存在は、地球のラグランジュ点(L4とL5)にそれぞれ腰を落ち着け、二十五億人の住人がいる地球を観察します。
 そして二人は〈血〉と〈塵〉に分かれ、交互に三手ずつ、過去の歴史に干渉するゲームを始めるのです。

◎賞はない

 主人公(わたし)は、大統領の演説を聴きに来ていました。
 ステージの左にはテレパシー・ボディーガードがいて、会場に注意を払っています。テレパシー能力を持つ彼等は、異常な殺人傾向の思念を察知でき、暗殺を未然に防ぐことが可能なのです。
 そこで主人公はふと、このホールに入ってくる前の記憶があやふやであること、そして自分が頭に怪我を負っていることに気付きました。訝しむ主人公は、更に奇妙なことを目撃します。
 自分の左手が、意思とは無関係にポケットからピストルを取り出そうとしているのを。

◎ここにも悪魔を愛するものが

 十一月の霧深い都市。
 その男は、新聞紙にくるんだ小さな包みを抱え、夜道を歩いていました。
 やがて、〈リージェント・ストリート〉という名の劇場へ辿り着いた彼は、隣にやってきたニキビ面の医学生から、『猟奇! 死の接吻』なるスナッフ映画(本物の殺人を娯楽目的で撮影したもの)が上映されることを聞かされました。男は気を引かれ、医学生と共に劇場の中へと入ります。

◎キャメロット最後の守護者

 サンフランシスコの夜の路地で、身なりの良い老人の前に三人の辻強盗が立ちはだかりました。しかし、老人は歯牙にもかけず強盗達を昏倒させてしまいます。
 その後、裏通りを歩いていた老人は、ふと〈運勢判断〉をしている占い師の女と目が合いました。店の中に入った彼は占い師と言葉を交わし、互いが旧知の間柄であることを悟ります。
 老人の名はランスロット、アーサー王に仕えた円卓の騎士。そして占い師はアーサー王の姉にして魔女、モーガン・ル・フェイだったのです。
 他者よりもゆっくりと年を取りつつ聖杯を探し続けてきたというランスロットに、モーガン・ル・フェイは真相を告げます。円卓の騎士達が見た聖杯は、魔術師マーリンの見せたまやかしだったのだと。そして、狂えるマーリンは程なく目覚めようとしており、この大量殺戮兵器の時代に大破壊をもたらしかねない、とランスロットに警告します。
 長い長い時を経て、騎士の中の騎士ランスロットの最後の戦いが始まろうとしていました。

◎そのままでいて、ルビー・ストーン

 主人公(わたし)とクイブ、そして二人の最愛の彼は結婚について合意しました。婚約のしるしとして最愛の彼の額にルビー・ストーンが埋め込まれ、以後彼はルビー・ストーンと呼ばれるようになります。
 ルビー・ストーンの傷が癒えた十二日後が結婚式の日でした。主人公とクイブはルビー・ストーンの羽をむしり取った後、彼を新居へと連れて行きます。
 そして二人が婚礼の最後の儀式へ向かう途中、クイブは主人公に提案します。途中で地球人の交易者ホーキンズの店へ寄り、体のほてる飲料を飲んでいかないか、と。

◎ハーフジャック

 ジャックは懇願するキャシの求めに応じ、右半身を覆うかつら、そして人工筋肉を剥がしてみせます。下から現れたのは、精密に仕上げられた暗色の金属とプラスチックでした。
 宇宙船パイロットのジャックは、体の左半分が生身、右半分が機械のサイボーグだったのです。

 本書に収められた作品を見渡してみると、いくつかのお話で機械への感情移入が感じられる点が興味深いです。機械知性を人間とは異なるものと位置付けつつも、それらは理解不能な怪物ではなく、むしろ無邪気な存在として描かれているようです。
 デビュー作である『受難劇(原題:"Passion Play")』はおそらく人類滅亡後の話で、後に残された機械達が自らの創造主の行動を模倣しているらしいのは健気ですね(^^;) 吸血鬼というホラー要素をロボットに置き換えた『吸血機伝説』、そしてコンピュータ版創世記の名作『フロストとベータ』にも良く似た構図が伺えます。
 また、氏の代表的作品群である神話SFに通じるお話もあります。ヨハネ黙示録の四騎士をSF的に捉えたデビュー二作目『騎士が来た!』、アーサー王伝説のストレートな解釈である表題作『キャメロット最後の守護者』辺りがそうですね。デビュー作もおそらくイエス・キリスト受難劇を意識しているのでしょう。(もっとも、ゼラズニイ氏はご自分が神話SF専門と認識されることに苦言を呈していらしたようですけど(^^;))
 その他、個人的には神経学的要素が見事な『賞はない』、もの悲しい後味の『生と死の浜辺』の二作もお勧めです。
 作者本人が自薦されるだけあって、ゼラズニイ氏のエッセンスが凝縮された、珠玉の短編集です。

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