時間泥棒

[題名]:時間泥棒
[作者]:ジェイムズ・P・ホーガン


 時間の流れがおかしくなるという事件とその顛末を描いた、ちょっと特殊な形の時間SFです。
 作者のジェイムズ・P・ホーガン氏と言えば、異星人ガニメアンとのコンタクトを描いた〈ガニメアンもの〉や、土星の衛星タイタンで生まれた機械生命体を扱う〈タロイドもの〉辺りが代表作ですね。緻密な設定と大掛かりな舞台が特徴と言えるかもしれません。
 その一方、本書は一つのエピソードに特化した短めのストーリーで、ややコメディ寄りです。トンデモ事件に巻き込まれてしまうニューヨーク市刑事コペクスキーは、果たして事態を収拾することができるでしょうか。

 巨大都市ニューヨークはここ数日、奇妙な異常事態が起きていました。市のあちこちで、時間の流れが遅くなるというトラブルが発生していたのです。電波の周波数がずれてテレビやラジオの放送にトラブルが生じ、道路交通は大混乱、管制が上手くできない為に空港は閉鎖されてしまいます。
 そんな日の朝、ニューヨーク刑事ジョー・コペクスキーは上司のエリス・ウエイドにより一人の理論物理学者を紹介されます。ニューヨークで発生している時間異常に関して、そのエルンスト・グラウス博士はこう説明しました――もしかしたら、異次元に住むエイリアンが時間を盗んでいるからかもしれない、と(笑)
 突飛にも程がある話ですが、もしそれが窃盗なのだとしたら警察の仕事だ、とウエイドは調査を命じました。かくしてコペクスキーは五里霧中のまま、パートナーのディーナ・ローゼンベリーと共に謎の“時間盗難事件?”に挑むことになるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、ニューヨーク市の時間を狂わせた犯人、“クロノヴォア”です。
 とは言うものの、あまりネタバレになってもいけませんので、ここではそれが巻き起こす騒動の方に注目することにしましょう。
 ニューヨークで発生している異常事態は、局地的な時間の遅れです(「進み」は起きません)。市のあちこちで、数パーセントから数十パーセントの時間のむらができてしまい、様々な支障が発生することになります。
 交差する道路の信号が食い違っていたら大事故になりかねませんし、目覚まし時計が狂っていたら遅刻者続出です(^^;) 昔と比べて、現代文明が様々な場面で分単位/秒単位での時刻同期が求められることへの風刺となっている訳ですね。
 当初はランダムに思われたこの現象ですが、ストーリーが進展するうちに、何やら電子機器と関連があるらしいことが分かってきます。特に科学電算研究所(サイコンプ)では、、建物の外から内部を見ると、中の人間がスローモーションで動いているのが分かる程です。これに追随し、周波数の赤方偏移により光が赤く見える(逆に中からは外が青っぽく見える)という現象も発生します。
 また、中盤辺りに差し掛かると、時間だけではなく空間にも異常が生じていることも判明してきます。
 これらのシチュエーションはあくまで“クロノヴォア”の引き起こした結果として扱われ、あまりその詳細に踏み込んでいないのは少し残念なところですけど、「時間の遅れが起きた場所では光速度も遅くなっているのか」とか、「時間勾配(?)の大きな場所では人体の新陳代謝に影響が出ないのか」とか、色々と考察してみるのも面白いかもしれません。

 ストーリー中では、コペクスキーはまずオカルト関係者に問いかけをしてみてはことごとく不首尾に終わり、最後にダメ元で教会の司祭に相談します。聖ヴァイタス・イン・ザ・フィールズ教会へ出向いた彼は、そこでバーナード・モイナハン神父と意気投合することになります。モイナハン神父は医師の経験がある知的な人物で、事態の解明に大きく関わるキャラクタです。
 お話としては、「人を食った」と言うか「○○を食った」、かなり無茶な設定なのですけれど(笑)、意外にも筋が通っているように見えるのはさすがと言えるでしょうか(原題の"Out of Time"は「時間がなくなる」の他、「拍子外れ」の意味も)。小粒ではありますが、SFらしい楽しさが味わえる作品です。

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