リプレイ

[題名]:リプレイ
[作者]:ケン・グリムウッド


 人は誰しも、生きていく中でいくつもの失敗を犯すものです。多くの方が、「もし人生をやり直せたなら……」という空想をしたことがあるのではないでしょうか。
 本書『リプレイ』は、まさにその「人生をやり直す(リプレイ)」というシチュエーションを扱った時間SFであり、数奇な運命を辿ることになる一人の男性を描いた物語です。

 一九八八年十月十八日・午後一時六分――ニューヨークのラジオ局に勤務するニュース・ディレクターのジェフ・ウィンストンは、妻リンダと電話している最中に起きた心臓発作により命を落としました。
 ところが、次の瞬間ジェフは大学の寮で目を覚まします。時は一九六三年、彼の肉体も十八歳に若返った状態で。
 何が起きたのかさっぱり分からないジェフでしたが、やがて現実を受け入れ、人生をやり直す機会を得たことを十二分に活用することにしました。彼はこの後に起こるはずの未来を知っており、競馬や野球賭博で財を成すことに成功します。
 かつての妻リンダとの出会いは失敗に終わったものの、資産家の淑女ダイアンと結婚し、愛娘のグレッチェンを得てそれなりに幸せな人生を過ごしたジェフでした。しかし、再び一九八八年が訪れたとき、彼は前と同じく心臓発作を起こして死亡し――またもや一九六三年に目を覚ますのです。
 愛するグレッチェンが、死どころか存在すら消滅したという事実に絶望するジェフ。それでも、悲しみから立ち直った彼は三度目の人生を始めます。前のリプレイの反省から、あまりお金を儲け過ぎないように注意しつつ、今度は程々に裕福で幸せな人生を送ることになりました。
 そして、一九八八年十月十八日を前にして、ジェフは医者に健康体だと太鼓判を押されながらも、病院へ入院し万全の態勢で臨みます。しかし全ては徒労に終わり、彼は死とともに一九六三年へと連れ戻されます。
 自暴自棄になり、しばらくは酒や女、麻薬に溺れて日々を過ごすジェフでしたが、ふとしたきっかけで我に返り、北カリフォルニアで農作業に打ち込む隠遁生活を始めるのでした。
 そんなある日、ジェフは立ち寄った商店で主人から新しいポピュラー映画の話を聞きます。その『星の海』という題名の素晴らしいSF映画は、彼のこれまでのリプレイで一度も見たことがない、存在しないはずの映画でした。
 疑問を解き明かす為に映画製作者に接触したジェフは、そこでもう一人のリプレイヤー、パメラ・フィリプスと運命の出会いを果たすのです。

 本書の注目ガジェットは、リプレイです。
 作中でジェフの意識は、四十三歳の記憶を保ったまま二十五年の時間を巻き戻し、十八歳の肉体に宿ることになります。世界も同じく一九六三年に戻り、ジェフの持つ記憶以外に、何か特別なことが起きたことを示す証拠は一切ありません。
 ジェフは最初に、自分が「過去に戻った夢を見ているのではないか」と考えますが、世界が実際に一九六三年であることを認めると、次に「自分が体験した二十五年の方こそが夢だったのではないか」と疑います。しかしながら、世界は彼の記憶している通りに動いていき、決して夢ではないことが分かります。
 この「記憶を持ったまま人生をやり直す」というシチュエーションは、物語としては珍しいものではありませんが、本作で面白いのはそれが一度きりではない点です。ジェフの思いを無視して、リプレイは幾度も幾度も繰り返されることになります。
 興味深いのは、巻き戻った時点での元の記憶が上書きされてしまうという部分です。ジェフの場合は単に一度目の人生における当人と同じ記憶ですが、もう一人のリプレイヤーであるパメラとは巻き戻しにタイムラグがあり、パメラの記憶が戻る前にジェフと接触する場面が幾度かあります。けれども、戻ってきたパメラはこの期間のことを記憶していません。上書きされることで消えてしまったこのパメラは、もう一つの消滅と言えるかもしれません。

 ストーリーは俯瞰的な視点を取ることなく、あくまでジェフ個人の目線で進んでいきます。死と巻き戻しの間で幾度も人生を繰り返すジェフは、成し遂げたこと一切合切がリセットされ無に帰することで、絶望を深めていくわけです。この描き方が非常に秀逸ですね。
 物語半ばで、ジェフは同じ悲しみを共有するパメラと出会い、その孤独はわずかに和らぐことになります。しかしながら、パメラもまたリプレイに翻弄される者であり、それに抗う術を持ちません。また、その後に彼等が出会う三人目のリプレイヤーの存在も、二人を苦しめることになります。
 文字通りの「人生のやり直し」というファンタジー風の設定を核に据えながらも、そのストーリーは非常に冷厳です。また、設定こそ突飛ですけれども、展開は地に足の着いたものであり、それ故にジェフとパメラに対し強い共感を覚えることでしょう。
 リプレイを通じて一人の男性の人生を描き切った、タイム・スリップものの名作です。

この記事へのコメント

  • むしぱん

    さっき読み終えました。よかった。大変よい小説でした。
    「過去の人生をやり直せたら・・・などと愚考するより、これからの人生をより良くすることを目いっぱい考えろ!」という前向きなテーマですね。

    主人公のジェフが厭世的な気分になった場面では、『愛に時間を』のラザルス・ロングを連想しました。ラザルスは過去に戻るわけではないけれど、長命なことから人生の色んなバリエーションを全て試し尽くした結果、やはり厭世的な気持ちになってしまい物語冒頭で自殺を試みたわけですが、この時の二人は同じような気持ちなんだろうなあと思ったものです。

    3月に終了したアニメ『僕だけがいない街』が素晴らしい出来で、3話目あたりから毎回涙なしでは観られなかったのですが、いわゆるリプレイものでした。リプレイもの元祖といわれているこの作品を読んでなかったので、積ん読くの山から掘り出して読んだものです。SFってやっぱり楽しい!
    2016年04月24日 20:55
  • Manuke

    初読のときは止めどころが見つからず、徹夜しました。
    こういう作品に出会えるから、活字中毒はやめられないです(笑)
    いわゆる〈ループもの〉は近年でも人気のあるサブジャンルで、優れた作品も少なくないですが、本書がなければ時間SFの一角を占めるまでには至らなかったかもしれませんね。

    『僕だけがいない街』は、アニメは見ていないのですが原作は読んでいます。
    このお話も良いですよね。どういう結末を迎えるのか気になって仕方がありません。
    (電子書籍版なので、最終巻は未発売。このタイムラグがもどかしい(^^;))
    2016年04月26日 01:33

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