木星強奪

[題名]:木星強奪
[作者]:ドナルド・モフィット


 太陽系に来襲した異星人との接触を描いた、いわゆるファーストコンタクトSFであり、ドナルド・モフィット氏の処女作です。
 本作の特に面白い点は、光速度を超えるようなことがないハードSF的世界設定の中で、異星人侵略ものを描いているところです。白鳥座星人やその宇宙船に関して真面目に考察しつつも、ストーリー中にはアクションシーンが少なくありません(人間同士の諍いが主ですけど(^^;))。SF科学考証とエンターテイメント性の両方を詰め込んだ、欲張りな作品ですね。

 時は二十一世紀半ば、月面〈裏側〉のコロレフ盆地に設置されたX線望遠鏡が、白鳥座X-1の近くに新しいX線源を発見しました。
 やがて〈白鳥座の天体〉と呼ばれることになるそのX線源は、驚くべきことに太陽から一光年以内に存在し、光速の九十八パーセント以上の速さで太陽系へと接近しつつありました。それは膨大なX線をまき散らしながら、六ヶ月後に地球から四天文単位以内を通過することが分かったのです。
 それは全人類及び地球生物の滅亡を意味しました。たちまち天文台関係者に対して箝口令が敷かれ、中でも老天文学者エルナンド・ルイスはワシントンの国家情報局に拘束されてしまいます。
 しかし、程なくして〈白鳥座の天体〉は減速を始め、それが単なるX線源ではなく人工物だったことが判明しました。地球は破滅を免れ、〈白鳥座の天体〉は木星の近辺に留まるらしいとの推測がなされます。
 ここで、学術目的で木星へ向かう予定だったアメリカ・中国共同の木星探査船が、〈白鳥座の天体〉調査の為に徴用されることになりました。ルイスと〈白鳥座の天体〉発見者のシャール・メイベリー、核兵器を携えた兵士達、そして急遽人員交代になった備品管理担当者のエメット・クラインらを乗せ、木星探査船は謎の天体を目指して出発します。
 彼等が目的地に辿り着いたとき、そこで目にしたのは……。

 本書の注目ガジェットは、異星船と恒星間移動手段です。
 〈白鳥座の天体〉を生み出した異星人は白鳥座星人("Cygnan")と名付けられますが、彼等の乗る異星船と、それが星々の間を移動する方法には非常に面白い設定がなされています。
 異星船は中心軸に三本の腕が付属する、ちょうど骨が三本の破れ傘のような形状をしており、実際に腕を折り畳むことができます。腕の先端には楔形の居住区がそれぞれ一つずつ付いているようです。
 腕の付け根側の中心軸(傘の石突きの部分)には駆動部があり、それを使って航行するときには腕が中心軸に沿うよう折り畳まれます。船が停止しているときには、腕は軸に対して垂直に広げられ、異星船の回転による遠心力で居住区には重力が生まれます。いずれの場合でも放射線をまき散らす駆動部が居住区から遠くになるよう作られているわけですね。
 白鳥座星人は恒星間を移動する為に、更に無人の小型探査機とガス惑星を用います。詳細は伏せますが、非常にダイナミックかつ途方もない無駄遣いです(笑) 本書の題名(原題:"The Jupiter Theft")の意味が判明するくだりは、なかなかに圧巻ですね。

 異星人である白鳥座星人も興味深い存在です。
 白鳥座星人は地球人類とは異なり、左右相称ではなく放射相称の生物から進化したトカゲ的な外観の種族です。目は三つ、手足も元々は三本ずつで上下二カ所に付いていたようですけど、進化の過程で二本ずつ三組に分かれた結果、人間からは非対称に見えます。上の一対は手、下の一対は足ですが、中央の一対はどちらにも使われます。
(この「放射相称/三つで一組」という特徴が彼等の文化に影響しており、異星船の形状にもそれが現れています)
 白鳥座星人の言語は音楽的で、音素が絶対音高により定まります。使われる音域は二オクターブ半で、一オクターブを四十八分割する為、音素は百二十程となります(更に和音も使用)。言語構造自体は単純とのことですが、音感が優れていない限り聞き取ることすら困難そうです。
 性格的にはかなり大雑把かつ自己中心的な種族らしく、来訪者としては迷惑な存在ですね(^^;)
 その他、異星船の中には動物園のようなものがあり、白鳥座星人が訪問した星系の生物が囚われています(木星探査船のメンバーも、捕まって入れられてしまいます)。中でも、ピンク色の羽毛を持つ小型ヒューマノイドが物語の後半で活躍することになります。テディベアのように可愛らしく愛嬌のある知的生物ですが、なかなかどうして侮れない力を持っているようです。

 ストーリーは主に、主人公の木星探査船副船長トッド・ジェイムスンの視点で綴られます。勇敢なだけでなく知性派でもあり、絶対音感を有することから白鳥座星人とのコミュニケーションに唯一成功します。
 作中の世界ではアメリカと中国が覇権を競っており、その対立が木星探査船の中にも持ち込まれています。どちらの国も全体主義色が強く、自主性を重んじるジェイムスンのような人間にとって、あまり暮らしやすい社会ではないようです。
 異星人との対峙を迫られながらも人間同士の内紛を止められないグダグダ感が、何ともリアルな未来かもしれません。:-)

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