ファウンデーションの彼方へ

[題名]:ファウンデーションの彼方へ
[作者]:アイザック・アシモフ


※このレビューには〈銀河帝国興亡史〉及び〈銀河帝国もの〉に属する作品群のネタバレがあります。ご注意ください。

 SFビッグ・スリーの一人にして、ライティング・マシーンの異名を持つ程に執筆好きであるアイザック・アシモフ氏は非常に多作な方です。その諸作中でも代表格と言えるのが、『ファウンデーション』/『ファウンデーションと帝国』/『第二ファウンデーション』の三冊からなる〈銀河帝国興亡史〉三部作ですね。
 『ファウンデーションの彼方へ』は、実にそれから三十年ぶりに書かれた続編になります。三部作の人気が高かったことに加え、内容が第二銀河帝国形成への道半ばで終わっていることから、続編を望む声が多かったそうで、それに応えた形になります。
 本書の執筆にあたって、アシモフ氏はこれまで執筆された別々のグループの作品を統合するという方針を立てました。二十一世紀初頭のロボット工学者スーザン・キャルヴィンを軸に据えた〈ロボットもの〉、人口過密時代の地球とスペーサー(宇宙へ移住した地球人の子孫)の対立をロボットと絡めたSF推理小説〈イライジャ・ベイリもの〉、銀河帝国の形成前からその滅亡・復興を描いた一連の〈銀河帝国もの〉、そして異色時間SF『永遠の終り』を含めた、数万年に及ぶアシモフ未来史の誕生です。

 心理歴史学者ハリ・セルダンが銀河帝国の滅亡を予言し、その期間を最小限にとどめるべく惑星ターミナスにファウンデーションを設立してから四百九十八年。道半ばに達し、ファウンデーション連邦の力も強まりつつあります。
 そんな中、ターミナス議員の青年ゴラン・トレヴァイズは、ファウンデーションの強大さは見せかけに過ぎないと考えていました。〈セルダン・プラン〉があまりにも順調に進んでいるのは、壊滅させられたはずの第二ファウンデーションが未だ存在し、影から操っているのに違いないと推測したのです。
 しかしトレヴァイズの主張は、友人のコンパーによりターミナス市長ハーラ・ブラノに密告されてしまいます。そして、ブラノ市長はトレヴァイズの身柄を反逆罪で拘束しました。
 自分の主張は間違っていないと憤るトレヴァイズですが、実はブラノもまた第二ファウンデーション存続を信じていたのです。トレヴァイズがそれを喧伝することは第二ファウンデーションの注目を集めることになりかねない、と彼女は考えていました。
 ブラノはトレヴァイズに対し、人類の故郷・地球(この時代には伝説と化しています)を追い求める歴史学者ジャノヴ・ペロラットに同行し、ターミナスを離れることを命じました。ペロラットに協力する振りをしながら、第二ファウンデーションを捜索せよ、と。
 そして、時を同じくして第二ファウンデーション発言者の青年ストー・ジェンディバルもまた、良く似た結論に達していました。長らく〈セルダン・プラン〉に逸脱が見られないのは、何者かが第二ファウンデーションを裏から操っているに違いないと考えたのです。そして、いくつかの紆余曲折の後、ジェンディバルの推測が正しかったことを第二ファウンデーションも認めることになります。
 ジェンディバルがアンチ・ミュールと名付けた第三勢力は何で、どこにあるのか――トレヴァイズとペロラット、ブラノら第一ファウンデーション、そしてジェンディバルら第二ファウンデーションは見えざる手に導かれ、謎に満ちた惑星ガイアへと集結するのです。

 本書の注目ガジェットは、ガイア(またはゲイア)です。
 作中で、トレヴァイズ達は地球を探索する為にセイシェル星系へ赴き、そこで謎の惑星ガイアの噂を知ることになります。ガイアはセイシェル同盟の星域内にありながら同盟には属さず、一切の外交を絶っています。のみならず、かつてファウンデーションを屈服させたミュールですらガイアに手を出そうとしなかったという伝説が、セイシェルではまことしやかに伝わっている状態です。
 名前が地球の別名(ギリシア神話の地母神)ではありますけど、作中のガイアは地球とは異なる惑星です。その由来はむしろ、ジェームズ・ラヴロック氏のガイア仮説に由来するものですね。ネタバレになってしまう為に詳細は伏せますが、惑星環境の持つ恒常性に注目した本来のガイア仮説とは異なり、集合知性的な存在です。
 このガイアは、前々巻『ファウンデーションと帝国』及び前巻『第二ファウンデーション』に登場したミュールの故郷です。彼はたった一人で〈セルダン・プラン〉を崩壊させ、第一ファウンデーションを支配した超人ですけれども、その登場はガイアにとってすら予想外だったようです。その能力故に孤独を強いられた悲しき超人ミュール。彼はどのように成長し、何を思って行動を起こしたのでしょうか。

 本作では、登場するキャラクタ達も非常に魅力的です。
 このうち、青年議員トレヴァイズと壮年学者ペロラットの凸凹コンビが、主役かつ狂言回しの役割を果たします。トレヴァイズは聡明ですが生意気で無鉄砲、ペロラットは研究肌で内省的と、性格はずいぶん異なるものの、やがて互いに親友となります。
 二人の目的は、表向きは人類のルーツ・地球の発見ですけど、ブラノ市長からの密命は第二ファウンデーションの探索、ブラノの真意は第二ファウンデーション向けの囮、ジェンディバルの目論みはアンチ・ミュールを発見する手がかりと、当人達の与り知らぬところで幾重にも利用されてしまいます(笑) しかも、その肩には更に大きな役目を負わされることになるのです。
 第二ファウンデーション発言者のジェンディバルはトレヴァイズと対をなす人物で、傲岸ですが優秀さは周囲の認めるところです。彼は、とある経緯からトランターの農民(ヘイム人)の娘スラ・ノヴィと行動を共にするようになります。(本書の恋愛要素担当かも(^^;))
 しかし、作中人物で最も有能なのは、どちらかと言えば脇役のブラノ市長かもしれません。彼女はトレヴァイズ達のように現場に立ち会う訳ではなく、ジェンディバルのように超常能力や心理歴史学知識を有する訳ではないにも拘らず、ほぼ独力で事態の真相に迫ります。齢六十三歳ながら大変なバイタリティを有する老婦人で、ファウンデーション連邦の頂点・ターミナス市長の名は伊達ではないようです。

 冒頭の通り、複数のアシモフ作品世界を結びつける試みは、本作から始まることになります。
 これ以前の〈銀河帝国もの〉では、ロボットはおろかコンピュータの類いすら作中にほとんど登場しません。これはアシモフ氏が〈ロボットもの〉との差別化の為に行ったものではないかと推測されますけど、両作品を統合するに当たって齟齬が生じてしまうことになります。
 氏はそれを逆手に取り、未来であるはずの銀河帝国時代においてロボットが人間社会から姿を消していることに理由を与えています。これにより、刑事イライジャ・ベイリの世界と銀河帝国の世界が一続きの歴史であることが示された訳です。
 また、もう一つ興味深い設定として、時間SF『永遠の終り』との統合も挙げられますね(アシモフ氏は統合が完全でないと考えていらしたようですが)。本作中では、時間管理機関〈永遠〉の設立がロボットにより行われたのではないかとの推測が、あくまで伝説として語られています。仮にこれが正史として取り込まれていたとしたら、そのロボットとはもしかすると「彼」のことだったのでしょうか。

この記事へのコメント

  • X^2

    ファウンデーションシリーズはこれも含めてアシモフ本人が書いた作品は全て読んでいるのですが、その後の別作者の分は読んでいません。従ってもしかすると的外れな意見なのかもしれませんが、この作品の評価は、三部作と比べるとやや微妙です。
    ロボットものとの統合を目指した点は高く評価したいのですが、「ガイア」の登場はややSFから外れた妙な世界に入り込みかけている感じがします。本来は千年計画がどのように進行してゆくのかが焦点だったシリーズが、別の話になっていくように思えました。
    2009年12月13日 23:05
  • Manuke

    同じく、新三部作の方は未読で積んでます。特にベンフォード氏は原作とかけ離れたお話になっていそうな気がして(^^;)

    それはともかく、私も物語の完成度という意味では、旧三部作のところまでが最も高いと感じますねー。ラストがびしっと決まってますし、ストーリーの主眼もぶれがないですし。
    ただ、ガイア及びギo○○○アは「彼」の出した答えではあっても、アシモフ氏にとっての最終回答ではなさそうです。あくまで途中経過であって、何か隠し球があったんじゃないかと。
    この辺り、『ファウンデーションと地球』のレビューで(あまり暴走しない程度に)考察してみる予定です(笑)
    2009年12月14日 00:10
  • nyam

    こんにちは nyamです。
     >ややSFから外れた妙な世界
    X^2さんと同意見です。想像するに、
    「ソ連もだめだな」→「計画経済、だめだわ」→「やっぱエコロジーだよね」
    「第二ファウンデーション、だめかな?」→「ガイア誕生!!」
    みたいな安易な流れを感じます。
    さて、わたしの考察もそのうち...(かなり暴走してるけど)。
    2009年12月17日 21:20
  • Manuke

    nyamさんもやはりそう感じられますか(^^;)
    〈銀河帝国興亡史〉は完結していたのに、圧力に抗しきれず続編を執筆することになったそうなので、前巻の流れをそのまま続けることに抵抗があったのかもしれませんね。
    2009年12月18日 00:47
  • 織田秋葉

    こんばんは。

    確かに、ガイアは微妙ではありましたが、個人的には、ファウンデーションものとロボットものが融合していったラストは、大好きです。
    (確かに、完成度としては、最初の三部作で終わってたほうが良かったのかもしれませんけど。)

    アシモフ作品、割と最近はまったので昔の作品とかが手に入らなくてもどかしかったりします。
    「永遠の終わり」も未読ですし・・・。
    2010年02月19日 00:38
  • Manuke

    作品世界の統合は、ちょっとわくわくするものがありますよね。
    設定の不整合部分も、逆にファンとしては補完する材料にできますし(^^;)

    アシモフ氏は大好きな作家さんなので、膨大な数の著作がもっと復刊/翻訳されるといいなと私も思います。
    SFに限らず、推理ものや科学エッセイ辺りも面白いですから。
    2010年02月20日 00:20

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