魔法の船

[題名]:魔法の船
[作者]:アン・マキャフリー&ジョディ・リン・ナイ


 〈歌う船シリーズ〉第五弾です。
 障碍を抱えた肉体をチタニウムのシェルに封じ、宇宙船(または宇宙ステーション)を新たな肉体として手に入れた殻人達(シェルピープル)が、パートナーと共に様々な事件に立ち向かう本シリーズ。執筆の経緯もあって、各巻がバリエーションに富んでいるのが一つの特色かもしれません。
 しかしながら、その中でも本巻は特に異色ですね。キャリエル&ケフのBB船コンビが遭遇するのは、これまでの未来宇宙とは打って変わって、魔法に支配された世界なのです(^^;) とは言うものの、いきなりSFがファンタジーに変じた訳ではなく、あくまで科学的説明が付けられています。いわゆるサイエンス・ファンタジーに類するお話になります。

 十四年の間コンビを組んできた、頭脳船(ブレインシップ)CK-九六三ことキャリエルと、筋肉(ブローン)のケフ。二人は〈異星探検局〉の命により、未だ知られざる異星生命、中でも知的生命体との接触を図るという任務を続けています。
 彼等が二つの異星生命を発見し、その報告と補給の為に宇宙ステーション・SSS-九〇〇-Cへと立ち寄ったとき、折悪しくマクスウェル=コリー博士がそこへやってきていました。
 キャリエルは十六年前、ある任務中のサボタージュにより当時の相棒ファニンを失い、心に大きな傷を負うことになりました。その後の治療により辛い過去を克服したとキャリエルは認識していましたが、心理学者で大監査官のマクスウェル=コリーは未だ彼女がトラウマを抱え、治療の必要があると考えていたのです。
 ステーション管理人のシメオンに連絡を受けたキャリエルとケフは、ろくに休息する時間も取れないまま、補給半ばでSSS-九〇〇-Cから脱走を図りました(笑) そして、マクスウェル=コリーから逃れ、かつ任務を遂行する為、次の未確認惑星へと向かうことにします。
 辿り着いた惑星オズランで、二人は驚くべき発見をします。そこには、顔つきこそ犬や羊に似ているものの、それ以外は人間によく似た知的生物が存在したのです。青銅器~鉄器時代の技術レベルでしたが、かつては高度なテクノロジーを有していた形跡もありました。
 彼等を〈高貴なる野蛮人〉と命名し、コンタクトを取る為に農村の一つへ着陸したCK-九六三。ところが、〈高貴なる野蛮人〉は唐突な異星人(彼等からすると)の来訪にもまるで驚く様子を見せません。その内の一人、好奇心を見せる唯一の青年ブランネルと対話を試みていたケフですが、突然雷に打たれて気絶してしまいます。
 それはオズランに住むもう一つの種族、支配階級である魔術師の仕業でした。人類とうり二つの姿をした魔術師達は、空の彼方から飛来した銀の円柱(頭脳船のこと)を我が物にしようと、互いに争い始めたのです。
 謎の力で大地に縛り付けられ、オズランを離脱できなくなったキャリエル達。果たして彼等は、無事〈中央諸世界〉へと帰還することができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、魔法の惑星オズランです。
 オズランの魔術師達は様々な魔法の力を持ち、農民(〈高貴なる野蛮人〉のこと)の上に君臨しています。椅子に腰掛けたまま空を飛び、雷を落とし、スパイ・アイと呼ばれる球体を飛ばして遠くの物事を見聞きし、果ては瞬間移動まで行うこともできます。
 もっとも、ここでの魔法は「種も仕掛けもない」という類のものではありません。魔法の行使にはあくまで〈力の品〉と呼ばれる道具が不可欠です。〈力の品〉は魔術師が作り出したのではなく、「古き者」と呼ばれる先住者から受け継いだものであり、その「古き者」も同じく「太古の者」から受け継いだ、という少々ややこしい設定がなされています。
 惑星の支配者である魔術師はさながら貴族のごとく権力闘争に明け暮れ、隙あらば他者の持つ〈力の品〉を奪おうとしています。力の強さによりある程度の序列はありますが、野心的な者達は虎視眈々と下克上を狙っているようです。
 一方、農民達は魔術師から粗末な食事を与えられ、抗うでもなく奴隷として働かされています。搾取を受けながらも反乱を起こす気がないのは、魔法の力が恐ろしいというだけでなく、魔術師の施したある仕掛けによるものです。想像するとかなり大がかりな施設が必要なようにも思われるのですけど、あまり詳細な説明がない点は残念ですね(^^;)

 あらすじにある通り、本書ではまたシメオン君がチョイ役で登場です。『戦う都市』の六ヶ月後に相当するようで、先の事件の傷跡を残しながらもキャリエル達を陽気に出迎えてくれます。
 お話はその後、宇宙から魔法世界へと舞台が一変します。SF的な枠組みとファンタジー風世界観の融合が面白いですね。後半はやや急ぎ足になってしまいますけど、「サイボーグ宇宙船と魔法」という、他ではあまり見られない取り合わせの妙を味わうことができます。

この記事へのコメント

  • X^2

    オズランの魔術師の設定は、Babylon5に登場するTechnomageにかなり近いですね。「科学の力により、一見魔法のような効果を生み出す」種族自体はおそらく色々なSFに登場しているのでしょうが、その能力を自力で開発したのではなく、古の種族からの遺産である、という点もTechnomageと同様です。もっとも彼らの場合は仲間同士での争いや他種族からの搾取といった事は行わず、ひっそりと隠れている感じなのですが。
    2009年11月28日 17:26
  • Manuke

    ふむふむ、そんな設定のものがありましたか。
    本書の方の魔術師は、もっと俗っぽいです(^^;) 彼等は〈力の品〉が科学の産物であることを知らず、その原理に興味を持つ者もめったにいない様子です。
    被支配階級の〈高貴なる野蛮人〉よりも野蛮な印象でしたねー。
    2009年11月29日 23:51

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