友なる船

[題名]:友なる船
[作者]:アン・マキャフリー&マーガレット・ボール


 〈歌う船シリーズ〉第四弾です。
 本シリーズに含まれる作品の題名は、その多くが"The Ship Who 〈動詞〉"(シメオンの回は"Ship"ではなく"City")の形を取っています(『歌う船』:"The Ship Who Sang")。これは、本来人間に対して使う関係代名詞"Who"を用いることで、その船や都市が人であることを暗示しているものと思われます。
 一方、本巻はそのフォーマットから大きく外れています。『友なる船』の原題は"PartnerShip"、文字通り「パートナーシップ(協力)」と「パートナーの船」をかけてあるわけですね(^^;)
 しかしながら、このパートナーシップとは少々キナ臭い内容だったりします。就任早々トラブルに巻き込まれてしまう新米頭脳船ナンシアの運命やいかに。

 〈実験学校〉を目覚ましい成績で卒業し、新たに頭脳船XN-九三五の名を与えられた、ナンシア・ペレス・イ・デ・グラス。彼女は殻人(シェルパーソン)であると共に、支配階級である華族(ハイファミリー)の生まれでもありました。
 家族が卒業式に出席してくれなかったことを寂しく思いつつナンシアが待機していると、弟のフリックスがお祝いを持って船に姿を現します。本当は卒業式にも出るつもりだったのが、女の子と一緒にお酒を飲んでいたところ前後不覚になってしまい、出席しそびれてしまったのだと言うのです(笑)
 フリックスは華族の一員でありながら、歓楽街で楽器を演奏することを生業としたがっており、一族の者からは白い目で見られています。けれども、ナンシアだけはフリックスに小言を言わない為、姉弟の仲は良好でした。
 フリックスが去った後、ナンシアの初任務である人員移送の乗客が姿を現します。それは華族の子女五人をヴェガ宙域まで送り届けるというデリケートな任務であり、ナンシアの父ハヴィエルが華族の若者達とナンシアが交流を図れるよう取りはからったことによるものでした。
 しかし、この若者達はとんでもない不良揃いでした。
 愛嬌はあるものの、少々口先ばかりなガーゴイル似の青年ブレイズ。医学研究のためなら犠牲を厭わない、自分勝手な娘アルファ。小太りで、あまり目端の利かない青年ダーネル。男性をたぶらかしてのし上がろうと目論む、美貌の娘ファサ。そして、コンピュータに通じ、冷酷さと傲慢さで他者を見下す青年ポリオン。薬物を摂取して乱痴気騒ぎを起こす彼等に嫌悪を覚えたナンシアは、(本来は禁じられているものの)無人AI船のフリをして、若者達とは関わるまいと心に決めます。
 ところが出港後、ナンシアが頭脳船であることをブレイズから見抜かれてしまいます。少々ヒネてはいるものの彼は悪い人間ではないと考え、ナンシアはブレイズとだけ会話することにしました。しかしながら、他の四人が共謀する悪事の会話にブレイズが加わったことで、ナンシアは彼も道徳観念のない駄々っ子連中の同類なのだと失望し、ブレイズとも縁を切ります。ブレイズは傷ついた様子ながらも、ナンシアが人間であることを仲間に打ち明けるようなことはしませんでした。
 五人をヴェガ宙域の各目的地へ届けた後、ナンシアは相棒である筋肉(ブローン)に堅物の男性ケイレブを選びました。そして、やくざな若者達のことはきれいさっぱり忘れて、次の任務へ取りかかることにします。
 けれども残念なことに、それで終わりではなかったのです。

 本書の注目ガジェットは、殻人の頭脳強化です。
 殻人はシナプスを外部装置と直結することで宇宙船等を自らのボディ同然とする、一種のサイボーグです。しかし、接続されるものはセンサーやロケット制御といった入出力装置だけでなく、記憶・演算装置も含まれます。
 メモリ・バンクやコプロセッサのような情報処理装置を自分自身の延長と捉えることで、殻人は一般人には及びも付かない高度な記憶力・演算能力を有することになります。要求に応じていつでも即座に引き出すことのできるコンピュータ上の記録は、彼等自身の記憶と何ら変わらないものと認識されているのでしょう。
 但し、殻人は決して頭脳そのものを改造した訳ではなく、シェルの中に封じ込められた生身の肉体を持つ存在です。何らかのトラブルで外部との接続が遮断されてしまうと、殻人はそうした拡張された能力も失ってしまいます。それは通常の人間に等しいレベルなのですが、殻人にとっては知覚力が低下した状態と感じられるようです。

 本書では、前巻主人公のシメオンが脇役として登場する場面があります。但し、『戦う都市』での呼称SSS-九〇〇ではなく、ヴェガ基地の管理頭脳VS-八九五として、です。(頭脳船では、呼称の数字は殻人本人を示しているようですが、宇宙ステーションでは違うのでしょうか?)
 作中の時間は『戦う都市』よりもやや前に相当するようで、ヴェガ基地はシメオンの前任地だと思われます(執筆時期も本作が先)。シメオンはこの時点で既に経験を積んでおり、ナンシアに対して様々な助言を与えてくれます。
 一方ナンシアは、正義感は強いものの、自分にも他人にも少々厳し過ぎるきらいがある少女のようです。そんな彼女が、遭遇した出来事を通じて成長していく様が微笑ましいですね。
 また、本書ではあらすじで述べた五人の若者の視点からも物語が描かれます。どちらかと言うと殻人視点に偏りがちだった〈歌う船シリーズ〉の世界が別の角度から伺えるのも、興味深い部分です。

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