戦う都市

[題名]:戦う都市
[作者]:アン・マキャフリー&S・M・スターリング


 〈歌う船シリーズ〉第三弾です。
 体をチタニウムの殻に封じ込めた殻人(シェルパーソン)と人々の交流を扱うという枠組みは共通ですが、本作は他の巻とは異なる部分がいくつか見られます。
 一つは、主人公が男性であること。また、ヘルヴァやティアが新米頭脳船から出発しているのに対し、本作の主人公シメオンは物語冒頭で既にベテランというのも見逃せない差異です。
 しかし、最大の違いはそのボディですね。彼の肉体は宇宙船ではなく宇宙ステーションです。サイボーグ化された巨大な宇宙ステーション・SSS-九〇〇、それがシメオンに与えられた呼び名です。

 銀河系外辺部に浮かぶ鉄アレイ型の宇宙ステーション・シメオン-九〇〇-X。ここは鉱石交易路の交差点に位置しており、数多くの宇宙船が補給や休息を行う場所です。
 その管理者である殻人シメオンは、以前の筋肉(ブローン)であるテル・レイドンが年齢の為引退を余儀なくされたことから、新たな相棒を迎えようとしていました。ところが、彼が気さくな調子で口にした出迎えの言葉は、新任筋肉のシャンナ・ハップにけんもほろろに拒絶されてしまいます。
 その理由の一端は、シメオン自身にありました。レイドンが引退を強制されたとき、シメオンはあちこちの部署に対してそれを回避するよう働きかけを行ったのですが、それが思わぬ誤解を生んでいたのです。高名なシメオンがこれほど嫌がるということは、後任者のシャンナになにか問題があるのではないか、と(^^;)
 かくして二人の関係は最悪の形で始まりました。その後も、ステーションの立入制限区域に住み着いた孤児少年ジョート(後に女の子と判明します)をシメオンの養子にする話が持ち上がったりと、トラブルが続きます。
 しかし、それらが些事に思えるほどの大事件がSSS-九〇〇-Cへ襲いかかります。制御不能に陥った老朽宇宙船が、ステーションへ猛スピードで突っ込んできたのです。
 シメオンを含む人々の努力と幸運のおかげで激突は回避され、ほっと胸をなで下ろす一同。しかし、老朽船の生き残りから、絶望的な情報がもたらされます。彼等は海賊の襲撃で故郷の星を追われ、逃げてきたのだと。そしてその海賊は彼等を追いかけ、程なくステーションに襲来するだろうと。
 住人一万五千人を擁するSSS-九〇〇-Cに武器らしい武器はなく、海賊に武力で立ち向かうことは不可能です。彼等に残された道はただ一つ――海賊を受け入れるフリをし、〈中央諸世界〉から援軍が到着するまで謀り続けること、です。
 果たしてシメオン達は、暴虐な海賊集団から住人を守ることができるでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、海賊種族のコルナー人です。
 コルナー人は地球をルーツとする人類ですが、特殊な環境下で独特の進化を果たしています。元々コルナー星が生存に適さない惑星だった上に、民族同士で核・化学・生物兵器を駆使した戦争を繰り返しており、しかも病弱な子供を間引く伝統を持つといったことが淘汰圧を高めたとされています。
 彼等の免疫機構は強力で、多くの人類に感染する病原体もコルナー人にはほとんど影響を及ぼしません。これは体内に重金属や汚染物質を蓄積しているため、毒素がバクテリアを殺してしまうとのことです(笑) 強力なDNA修復メカニズムを有し、放射線にも抵抗力を持ちます。
 但し強靱さの代償として、寿命が短い・食物にダイオキシンと砒素化合物が不可欠という弱点もあります。
 コルナー人の性質は非常に残虐であり、自分達以外の者全てを下等種族/屑虫と呼んで蔑んでいます。他の惑星等からの物資略奪は行うものの、支配して年貢を取り立てるといった長期的な展望は持たず、〈中央諸世界〉のような大規模勢力に目を付けられるのを恐れて惑星住人をあっさりと皆殺しにしてしまうようです。強い武力は有しますが、軍事国家のように統率の取れた集団ではなく、あくまで海賊の寄せ集めのような存在です。
 ただ、そんなやり方のみで糧を得るのは恐ろしく非効率なように思えますね。種族として成り立つのか、やや疑問ではあります。:-)

 本巻の主人公シメオンは、宇宙ステーション管理人という設定もあって、他の巻にもいくつか登場シーンがあります。気さくで頼りになるベテラン殻人といった役所です。
 一方、本書内では内面が描かれることもあるせいか、逆に少し子供っぽい部分がクローズアップされています。冒頭でシャンナと衝突するのもシメオンに少々非がありますし、調子に乗りすぎて人を怒らせてしまうこともあります。他の巻の主人公が精神的にはかなり早熟(特に『旅立つ船』のティア(^^;))なのと比較してやんちゃな部分を残しているのは、シメオンが男性だからでしょうか。
 なお、作中では間接的ながら、シメオンがヘルヴァとティアの二人と知り合いであることが示されます。二人とも頭脳船として現役活躍中のようで、シリーズのファンとしては嬉しい限りですね。

この記事へのコメント

  • X^2

    このシリーズは「歌う船」以外は読んでいないのですが、コルナー人の描写を読んで連想したのが"Andromeda"に登場する種族であるニーチアンです。遺伝子操作された優性人間といううたい文句とは裏腹に、単なる宇宙のゴロツキにしか見えない彼らとコルナー人とは、かなり似ているような気がします。「歌う船」自体がAndromedaの戦艦であるロミーに類似している事も合わせると、"Andromeda"はこのシリーズにかなりの影響を受けているのかもしれませんね。
    2009年11月14日 10:32
  • Manuke

    ちょっとGoogleで検索してみましたけど、ニーチェ氏の超人思想を信奉しているという設定なんですね。
    コルナー人は精神的には超人とはほど遠い連中のようですが(^^;)、設定のベースになったのだとしたら興味深いです。
    2009年11月15日 00:35
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