旅立つ船

[題名]:旅立つ船
[作者]:アン・マキャフリー&マーセデス・ラッキー


 サイボーグ宇宙船の物語を綴った、〈歌う船シリーズ〉第二弾です。
 最初の作品『歌う船』とは異なり、本作以後はアン・マキャフリー氏単独の執筆ではなく、別の作家さんとの共著の形を取ります。作品の方向性はそれぞれの巻で若干バリエーションがあり、読者を楽しませてくれます。
 本作の主人公は、前作のヘルヴァとはまた異なる意味で魅力的な女の子です。病のせいで閉ざされた未来の代わりにティアが掴んだのは、頭脳船XH-一〇三三として星々の世界へ旅立つことでした。

 考古学者夫婦の娘ヒュパティア・ケイド(ティア)は、まだ七歳の年齢ながら早熟であり、その才能を開花させつつありました。
 父母の発掘調査に同行し小型の惑星へ来ていたティアは、ある日一人で発掘ごっこをしている最中、本当に人工遺物を発見します。両親はティアの聡明さを喜び、そして新たに発見された大遺跡の調査にかかりっきりになりました。
 ところがこのとき、ティアの肉体は異星のウイルスに体を蝕まれていました。両親が遺跡に夢中になっていたことが災いして発見が遅れ、ようやく気付いたときにはティアの四肢には麻痺が進行していたのです。
 〈中央諸世界〉の病院へ移送されたティアですが、もはや手の施しようもなく、首から下は動かせなくなっていました。治療の見込みが薄いと聞かされながらも、明るく利発に振る舞うティア。しかし、彼女は誰もいない病室で、失われた未来を思い一人涙します。
 ティアの主治医ケニーは、同じく足の麻痺で医者になる道を断念しかけた過去の自分とティアを重ね、いてもたってもいられなくなります。そしてティアのために、殻人プログラムへアプローチすることにしました。
 殻人プログラムは乳幼児、遅くとも四歳程度の子供から教育を始める制度で、本来ならば七歳のティアは大き過ぎました。けれども、誰もが認める彼女の聡明さが注目され、ティアは無事〈実験学校〉への入学を許されることになったのです。
 そして数年後、期待に応え優秀な成績で学校を卒業したティアは、頭脳船として生まれ変わりました。相棒の筋肉(ブローン)に少々変わり者の青年アレクサンダー・ジョリ=シャントゥ(アレックス)を選んだ彼女は、BB船AH-一〇三三の名を与えられます。
 波乱に満ちたティアの冒険が、ここから始まります。

 本書の注目ガジェットは、殻人(シェルパーソン/シェルピープル)です。
 通常では、体に障碍を持ち普通の人生を送ることができない赤ん坊のみが、殻人へと生まれ変わることになります。殻に体を封じ込めた後は二度と外へ出ることはできず、成長した後の大人はそれに耐えられないからだとされています。ティアの場合は高い順応性がその変化に耐えうると判断されたためで、例外中の例外ですね。
 殻人は五感全てを捨て去った代わりに、シナプスに外部装置を直結することで高い制御能力を得ることになります。しかも、記憶領域としてコンピュータメモリを利用可能であるため、知力でも生身の人間より遙かに有利です。基本的に睡眠を必要とせず(本書のティアは眠る描写がありますが、彼女だけの特性なのか、設定の不整合なのかは不明(^^;))、定められた寿命もありません。
 殻人は必ずしも頭脳船になるとは限らず、宇宙ステーション等の施設管理者として活躍する者もいます。本書中では、〈中央諸世界〉の医局ステーション管理者ラーシュがこれに該当します。殻人は上記の通り非常に優秀な存在ですから、様々な職種で引っ張りだこのようです。

 ティアが頭脳船となった経緯も絡み、物語は伝染病との戦いと、遺跡の盗掘といった要素が関わってきます。
 もっとも、本作で一番大きく扱われるのは、そのものずばり恋愛要素ですね。頭脳船ティアと、その相棒アレックスのラブストーリーがエピソードの核となります。
 何しろティアは頭脳明晰で機転が利き、心優しく、そして勇敢な娘です。その上優れた頭脳船なのですから、アレックスが心を奪われてしまうのも無理はありませんね。:-)
 本書のラストでは、殻人の在り方に関して一つの回答が示されます。これで全てが解決する訳ではないものの、殻人と非殻人の間に存在する断絶が技術の進歩とともに消滅していくのかもしれないことを予感させてくれます。

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