歌う船

[題名]:歌う船
[作者]:アン・マキャフリー


 柔らかな絹の代わりにチタニウム製の船殻を身に纏い、FTLシステムを使って銀河を翔る歌姫――サイボーグ宇宙船の織りなすドラマをロマンチックに描いたのが、本書『歌う船』です。
 アン・マキャフリー氏はSFファンタジー〈パーンの竜騎士シリーズ〉で知られる方ですが、本書もかなり人気がある作品のようです。設定自体は少々ハードではあるものの、ヘルヴァという感情豊かな主人公のせいもあって、非常に爽やかな物語に仕上がっていますね。
 絵的には無骨な宇宙船(^^;)のはずの彼女ですけど、読み進めていくとたちまち違和感は消し飛んでしまいます。うら若き乙女であるヘルヴァは喜び、悲しみ、歌い、そして恋をするのです。

 人類が超光速航法を手に入れて宇宙へ進出し、他の異星人と交流を持つようになった遙かな未来――。
 一人の女の子がこの世に生を受けました。しかし、彼女は肉体に重い障碍を負っていたのです。脳の機能は申し分ないと知らされた両親は、赤ん坊を殻人プログラムの手にゆだねることを決意します。
 殻人プログラムとは、彼女のように先天的・後天的に障碍を持つ子供を頑丈な殻(シェル)の中に保護し、生けるコンピュータとして宇宙船や都市管理を行う殻人(シェルパーソン)となるべく育てる機関のことです。殻人の育成には莫大な費用がかかるため大きな借金を負うことになるものの、決して奴隷でも機械扱いでもありません。
 かくしてヘルヴァという名を与えられた赤ん坊は、殻人としての教育を受け、成長していきました。そして、その過程でヘルヴァは類い希な才能――歌を歌う能力を開花させたのです。
 十六歳に達したヘルヴァは、実験学校を無条件で卒業し、宇宙船の頭脳として組み込まれることになりました。そして気の合う青年ジェナンをパートナーに選び、頭脳船JH-八三四号として任務へと旅立ちます。
 その二人の有能さと、船が歌うことの珍しさから、彼等は“歌う船”として次第に名を馳せていきます。ヘルヴァとジェナンは愛情と信頼で結ばれた名コンビとして、一流の称号を得るに至りました。
 けれども、程なくして二人に悲しい別れが訪れます。任務中の事故により、ジェナンが命を落としたのです。悲嘆に暮れ、もう二度と歌わないと心に決めるヘルヴァですが……。

 本書の注目ガジェットは、頭脳船(ブレイン・シップ)です。
 耐久チタニウムの殻に収められた殻人は、単体では自力で動くこともできません。しかしながら、神経に直結した回線を通じて様々な機器を自由自在に制御することが可能です。その特性を活かし、殻人が頭脳として埋め込まれた宇宙船を頭脳船と呼びます。
 サイボーグである頭脳船は人間の操縦する宇宙船よりも敏捷、無人AI船よりも柔軟であることから、かなりのエリート的存在と見なされているようです。多くの人々は敬意をもって頭脳船に接しますが、中には差別的偏見を抱く者もいます。
 殻人は頭脳船に組み込まれていることから、船を離れることができません。このため、任務に当たっては人間のパートナーが必要とされます(単独で行動する頭脳船もあり)。殻人のパートナーとなるべく特別な訓練を受けた者は筋肉(ブローン)と呼ばれており、文字通り殻人の手足として働くことになります。コンビを組んだ場合はBB船(頭脳・筋肉船:"Brain-Brawn Ship")と呼称されます。
 頭脳船の識別番号は殻人と筋肉のイニシャルが使われるようです。パートナーが決まっていない段階では、ヘルヴァはXH-八三四号と呼ばれていますが、ジェナンを相棒としてからはJH-八三四号へと名称が変化します。

 頭脳船ヘルヴァの物語は本書一冊のみですが、同一世界の続編がいくつか存在し、〈歌う船シリーズ〉を構成しています。
 興味深いことに、続編はいずれもアン・マキャフリー氏お一人で書かれたものではなく、それぞれ別の作家さんとの共著という形で発表されています。その理由の一つとして、マキャフリー氏が多忙だったということがあるようです(^^;)
 もっとも、別の方が執筆を担当されたということにより、各話にバリエーションが生まれているという良い側面もあります。かつ、全体としてのテーマ(殻人とパートナーの結びつき)にぶれがないため、決してちぐはぐな印象はありません。
 やや風変わりな形のシリーズ化ではありますが、それもやはり本書が多くの人に愛された故なのでしょう。魅力的なサイボーグ船を主人公に据えた、優しく素敵な物語です。

この記事へのコメント

  • Kimball

    おおお!!
    これは、オヤジ好みの作品かも...\(^o^)/

    ご紹介ありがとうございました!!
    これから、ちょっと探してみます。
    ----------------
    はは、数年前はよくスカパーの
    AXNでやっていた「アンドロメダ」
    なんてのを観ていましたが...
    (最近でも再放送でよくやってますが)

    「私は戦艦よ!」なんていうAI(人工
    知能)がでてくるやつです。

    ほかの米国製ドラマ同様シーズンが
    進むにつれ、あんまりにもお子ちゃま
    むけの荒唐無稽さが鼻につくようになり
    観るのをやめちゃいましたが...
    2009年10月31日 10:50
  • Manuke

    主人公の殻人達がポジティブで、読後感が良いシリーズだと思います。
    個人的にお気に入りは、次の巻『旅立つ船』のティアです。

    『アンドロメダ』は視たことがないですけど、『スタートレック』の原作者が関わっているんですね。ちょっとチェックしてみようかな……。
    2009年11月01日 00:24
  • Kimball

    >>個人的にお気に入りは、
    >>次の巻『旅立つ船』のティアです。
    あは!
    アマ損で2冊ともに即決購入しちゃいました!!
    -----------
    「アンドロメダ」....
    シーズン4以降はまったくダメかと...\(^o^)/

    2009年11月01日 07:25
  • Manuke

    おお、既に購入されましたか。楽しんで頂けると良いのですが……。

    『アンドロメダ』は、機会があったら最初の方だけでも見てみることにしますね(^^;)
    2009年11月01日 23:41
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