竜を駆る種族

[題名]:竜を駆る種族
[作者]:ジャック・ヴァンス


 異世界の構築に定評のあるジャック・ヴァンス氏が描く、遠未来のとある惑星を舞台としたファンタジー風味のSFです。
 SFに登場する異星人は、得てして中身が地球人と大差ないものだったりします。結局のところ我々は自分達以外の知的存在と接触したことがなく、それがどういうものであり得るのかは想像するしかない訳です。その手本として人間が用いられるのは、まあ無理からぬ部分ではありますね(^^;)
 そうした中でも、本書登場の「とかげ」と呼ばれる異星人の思考構造にはかなり異質な印象があります。また、同じ人間でありながら波羅門と呼ばれる一派にも独特の様式やロジックが存在し、物語に厚みを与えてくれます。ジャック・ヴァンス氏の本領発揮といったところでしょうか。

 地球が人類の故郷であることすら忘れ去られた、遥かな未来。惑星エーリスでは、かつて星間戦争に破れた者の子孫が、テクノロジーを失いながらも暮らしていました。その中でも幸いの谷を統べるカーコロ一族の軍勢は、勇猛さと残忍さで周囲一帯に一目を置かれていました。
 加えて、エーリスには求道者の一派・波羅門("Sacerdotes")が存在しました。彼等は気候を問わず素裸で行動していますが、決して野蛮人ではありません。独特の哲学を有し、我欲を持たず、その実態は謎に包まれています。
 そのエーリスへ突如、爬虫類型異星人「とかげ」("grephs")が来襲し、カーコロ一族の全盛期は終わりを告げます。「とかげ」は殺戮と住人の拉致を繰り返しますが、バンベック平の長カーガン・バンベックの自殺的作戦が功を奏し、逆に「とかげ」二十三匹を捕らえることに成功したのです。
 そして時は流れ、エーリスの人々は竜を手なずけ、品種改良を繰り返して使役するようになっていました。バンベック一族とカーコロ一族は対立しつつも、危うい休戦状態にあります。
 その状況下で、バンベック平の領主ジョアズ・バンベックには一つの懸念がありました。遊星コラリンがエーリスへと接近し、再び「とかげ」の襲来があるのではないかと彼は考えたのです。これに対処するため、ジョアズは敵対する幸いの谷の領主アービス・カーコロに警告を発するのですが……。

 本書の注目ガジェットは、ベイシックと竜("Dragon")です。
 惑星エーリスを襲った異星人「とかげ」は、かなり人間とは異なるロジックで物事を捉えているようで、自らの想定する状況から外れた事態を認識できないようです。カーガン・バンベックに捕らえられた「とかげ」は、自分達の敗北が避けられない状況となった時点で、知性を失った動物と化してしまいます。エーリスの住人はこれを様々な竜の品種に改良し、騎乗や戦争に用いています。また、「とかげ」は竜の素体であることから、後の時代ではベイシックと呼ばれることになったようです。
 ベイシックは二本の脚で直立し、二本の中央肢に加え、首の付け根に一対の多関節肢を持つ爬虫類型種族です。その改良された品種として、羅刹("Termagant")/金剛("Jugger")/青面夜叉("Blue Horror")/韋駄天("Striding Murderer")といった、様々な特徴を持つ竜が作中に登場します。(ちょっと訳語に力を入れ過ぎているような気もしますが(^^;))
 また、ベイシック側も同様に、捕獲した人間を改造(遺伝子改良?)して使役している模様です。二つの知的生命体が、互いを家畜の素体と見なしているという構図が実におぞましいですね。

 一方、作中に登場する波羅門も、通常の人間とは異なる価値観を持った独特のグループとして描かれます。
 波羅門は洞窟の中で生活している民で、外に出てくるのは男性のみです。独特の哲学を信奉し、バンベックとカーコロの対立はおろか、ベイシックの侵略に対してすら不干渉を貫いています。常に受動的かつ虚心であろうとし、肉体的な脅迫には屈しません。
 その一方、受けた質問に対しては決して嘘をつかないという特徴があります。しかしながら、曖昧さの含まれる問いかけには真っ当な答えを返さない為、波羅門に対する詰問はかなり大変なようです(^^;)

 本書では、意思疎通の断絶が中核的なテーマになっているものと思われます。人類が将来、異星の知性体と接触を果たしたとき、コミュニケーションが不可能だとしたら――なかなか考えさせられるものがありますね。
 もっとも、作中では対等の存在であるはずのジョアズ・バンベックとアービス・カーコロの間でもコミュニケーションが成り立たないという皮肉な構図になっています。実際、私達も身の回りの隣人と本当に意思疎通が図れているのか定かではありません。
 仮に意思疎通不可能な生物がいたとしても、案外なんとかなってしまうものなのかも。:-)

この記事へのコメント

  • nyam

    こんにちは

    >仮に意思疎通不可能な生物がいたとしても、案外なんとかなってしまうものなのかも。:-)
    最近、言語を使った情報ネットは限界に達したので、次は非言語(?)ネットがでてくるんじゃーと思ってます。
    ラーメンマニアとか痛車とかはその前兆なのでは?

    すいません。ヴァンスの久々の新刊が出て、興奮気味なもんで・・・・・・。
    2009年08月30日 22:17
  • Manuke

    今はまだ言語が付随しないコミュニケーションは難しそうですけど、画像認識技術が進歩すれば、類似した絵や写真同士がリンクするようなシステムが近い将来出てくるかもしれませんね。

    > すいません。ヴァンスの久々の新刊が出て、興奮気味なもんで・・・・・・。

    『ノパルガース』でしょうか。私は積ん読スタックにキープしてあります(^^;)
    2009年08月31日 23:31
  • nyam

    『ノパルガース』です!

    ほんと、すいません。もう、ヴァンスの新作は読めないと思ってたもので。
    2009年09月02日 21:05
  • Manuke

    嬉しい驚きですよね。私も本屋さんの店頭で作者名を見てびっくりしました。
    最近ハヤカワ文庫は名作SFの復刊にも力を入れているようですし、色々と楽しみです。
    2009年09月03日 23:26
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/126703309

この記事へのトラックバック