ジョナサンと宇宙クジラ

[題名]:ジョナサンと宇宙クジラ
[作者]:ロバート・F・ヤング


 ロマンチックなSFの求道者、ロバート・F・ヤング氏の紡がれるお話を集めた短編集です。ヤング氏の作品は非常にピュアでセンチメンタルなラブストーリーが多く、読者の心を揺り動かしてくれます。
 ロマンチックなお話というのは時代を超えて愛されてきたものであり、逆に言うと少々手垢がついた手法とも言えるかもしれません。しかしながら、ヤング氏の手によりSF的設定と結びつけられた物語は切なくも美しく、感動を覚えずにはいられないでしょう。

◎九月は三十日あった

 ダンビーは会社帰りの途中、古道具屋のショーウィンドウに学校教師が置かれているのを発見しました。
 アンドロイド教師はかつて教員不足を解決する為に学校へ導入された人間そっくりのロボットですが、今ではテレ教師(テレビによる通信教育?)へと置き換えられ、学校自体が消滅しています。しかし、田舎でアンドロイド教師の教育を受けた最後の世代であるダンビーはテレ教師を快く思っておらず、子供の教育用と妻の手伝いをさせるために大枚をはたいてアンドロイド教師ミス・ジョーンズを購入してしまいます。
 ミス・ジョーンズを家に持ち帰ったダンビーに対し、妻のローラも息子のビリーも不満を表明します。ダンビーは二人をなだめつつ、ミス・ジョーンズの立ち居振る舞いを大いに気に入るのですが……。

◎魔法の窓

 主人公(名前不明、「わたし」とのみ表記)はふと、道ばたの画廊に陳列している娘とその絵に目を留めます。それは星を散りばめた夜空、なだらかに起伏する草原、湖面に星を映す湖、雪をいただいたエキゾチックな山脈の尾根が描かれた絵でした。
 彼が作品を見つめていると、娘は目を輝かせて「あのう――見えるんですか? 見えるのね、星が?」と尋ねてきました。主人公は頷きますが、結局絵を買うことなくその場を立ち去ります。
 しかしその後、彼は主人公のことが忘れられずに気もそぞろとなってしまいます。別の日、彼は仕事を終えた後、家へ直帰する代わりに画廊の開かれていた通りへ寄り道するのです。

◎ジョナサンと宇宙クジラ

 青年ジョナサン・サンズはいくつかの職業を遍歴した後、新地球宇宙軍へ入隊し、砲手になりました。
 そんなおり、太陽系に驚くべき生物が侵入してきます。それは全長千六百キロメートルもの超巨大生物、伝説上の存在と思われていた宇宙クジラでした。小惑星を一つ丸呑みした宇宙クジラに対し、宇宙戦艦ファーストスターはジョナサンの乗る砲撃カプセルを発進させ、熱核弾の発射を命じます。
 しかし、ジョナサンはその大きな宇宙クジラに同情を覚え、命令を実行することができません。熱核弾は狙いをそれ、そしてジョナサンの乗る砲撃カプセルは宇宙クジラに飲み込まれてしまったのです。
 ところが、クジラの体内には空気に満たされた空洞があり、緑がかった空には小さな太陽まで浮かんでいました。戸惑う彼に、宇宙クジラ(雌で、後にジョナサンがアンドロメダと名付けます)がテレパシーで語りかけます――自分に同情したジョナサンの命を救う為に、体内へ取り込んだのだと。
 クジラの中には、かつて彼女に吸収された宇宙船乗員の子孫である人間が暮らしており、二十世紀レベルの文明を築いていました。人々は自分の住む世界が宇宙クジラの腹の中であることを知らずに生活しています。
 ジョナサンはある農家で作男として雇ってもらうことになり、次第にクジラの中の世界に順応していくのですが……。

◎サンタ条項

 原題は"Santa Clause"、つまり"Santa Claus"の駄洒落です(^^;)
 青年ロスは魂と引き換えに願いを叶えてもらう為、悪魔を呼び出しました。現れた悪魔に対して彼が願ったのは、サンタ・クロースが自分にだけ本当に存在するようにしてもらうことです。発想の独創性に感心した悪魔は、サンタ・クロースに付随する全てを受け入れ、そのルールに従うことを条件に契約を結びました。
 ロスは上手くいったことにわくわくし、早速次の手紙をサンタ・クロースにしたためます。
『つぎのものをお贈りください。一九五九年型キャデラック・ド・ヴィル、ボディ・サイズ40ー24ー40のジェーン・マンスフィールド型美女、最高級ウィスキー五十二箱、シュリッツ・ビール三百六十五箱、ウィスパー誌の年間購読権――』(欲張り過ぎ(笑))
 願いは叶えられ、ロスはその全てを手に入れました。しかし、その契約には落とし穴があったのです。

◎ピネロピへの贈りもの

 一九五六年二月一日の朝、年金生活者のミス・ハスケルは、ミルク箱の中に代金の請求書が入っているのを見つけます。ミルクは彼女の飼い猫ピネロピの為に必要なものでしたが、年金が支払われるのはまだ先の話で、それはピネロピの死亡届けに等しいものでした。
 ミス・ハスケルが雪の降りしきる窓の外に目をやると、コートも着ていない少年が丘の上から海を眺めているのが見えました。彼女は慌てて少年を呼び、家の中へ招き入れます。
 オテリスと名乗る大きな目をした少年は、どこか風変わりなところがありました。オテリスはピネロピを目にすると、最初はまるでサーベル虎でも見たかのような顔つきになりますが、大人しく優美な猫をすぐに気に入ります。

◎雪つぶて

 いなか町に空飛ぶ円盤が着陸したとの知らせを受け、二人の陸軍将校とトラック二台に分乗した兵士がやってきました。超大型のアラジンのランプに似たその円盤は、夜陰に乗じてレーダーをごまかし、野原に着陸していたのです。
 兵を展開させ、空飛ぶ円盤に対して銃を構えるよう命令するブレア大尉に、シムズ中尉は円盤に必ずしも敵意はないのではないかと進言します。しかし、大尉はそんな気弱な戯れ言に耳を貸そうとはしませんでした。

◎リトル・ドッグ・ゴーン

 テレシアターで人気俳優を務めていたニコラス・ヘイズは、同時に重度のアルコール中毒者でもありました。泥酔して出演を頻繁にボイコットするヘイズに堪忍袋の緒を切らした雇い主は、彼をクビにしてしまいます。
 職を失ったヘイズは飲んだくれ、何処とも知れぬ場末の惑星へと辿り着きました。彼は人気のない畑の中で、犬に似た奇妙な動物を見かけます。ヘイズが餌をあげたせいですっかり彼に懐いたその動物は、テレポーテーション能力を持っているようでした。ヘイズはそれにバー・ラグ(ぼろ雑巾)という名前を付けます。
 酒場に赴いたヘイズは、ウェイトレスのモイラ・ブレアからバー・ラグは本当にテレポーテーションができるドッゴーン("doggone")という生き物だと教えられました。酒を要求するヘイズに対し、その身を案じたモイラは拒否し、ヘイズはそのまま気を失ってしまいます。
 目を覚ますと、そこはモイラの部屋でした。彼女はかつて女優として子供向けテレビ番組に出演していたこともありましたが、今は夢破れ酒場でウェイトレスをしており、ヘイズの素性を知っていたのです。彼を崇拝するモイラと、無条件の愛情を向けるバー・ラグを見て、ヘイズはふと閃きます――男女の交際をテレポートで邪魔するドッゴーンを使い、コメディ劇が作れないかと。モイラは同意し、バー・ラグも劇に協力的でした。
 ヘイズの狙いは大当たりし、興業は大成功します。しかし、ヘイズの意図は別のところにあったのです。

◎空飛ぶフライパン

 原題は"Flying Pan"、これも駄洒落ですね。:-)
 歌手として成功することを夢見て田舎から出てきたマリアン・サマーズ。しかし、世間の風は冷たく、マリアンは自分に才能がなかったことを思い知らされます。
 マリアンは今、フライパン工場で来る日も来る日もフライパンの柄を取り付ける仕事をしています。田舎の両親やかつての恋人からは戻ってくるよう手紙が届くものの、踏ん切りを付けることができません。
 そんなある夜、ハロウィーンのダンスの誘いを全て断ったマリアンが自宅で泣きくれていると、寝室の窓から音が聞こえてきました。彼女が窓を開けると、そこには柄のないフライパンそっくりの物体がうかんでいました。そして、窓べりには宇宙服を来た小さな宇宙人が立っていて、自分は地球を侵略しにきたと言うのです。

◎ジャングル・ドクター

 医学校を卒業した超心理臨床医のサリスは、銀河連邦の中心部からチャルス連星の診療所へ転移するはずでしたが、転移座標を間違えて未開の原始惑星(地球のこと)へ飛んでしまいました。荷物もなく、周囲に人気のない雪の中、彼女は力つきて倒れてしまいます。
 そこへ通りがかったのは、昼は自動車修理工場で血の付いた自動車を洗い流し、夜は酒に溺れる毎日を過ごす男ゴードン・リンゼイでした。彼は雪の中に埋もれたサリス(リンゼイの目には十三、四の子供に映ります)を発見し、彼女を助けます。
 サリスが目を覚ますと、そこはリンゼイの家の暖炉の前でした。彼女はテレパシーで、近くで眠る心を病んだ優しい男が自分を救ってくれたことを知ります。
 この未開の惑星の座標を知ることができれば、転移装置を使って当初の目的地、患者達の待つチャルス診療所へ飛ぶことができます。しかし、サリスはリンゼイの〈心の通路〉に触れ、何故彼がこれほど心を病んでいるのか、どうして全ての乗物に血が付いていると思い込んでいるのか、その訳を知りたいと思ってしまいました。
 転移装置のエネルギーは残り少なく、彼女は早々に決断を下さねばなりません。

◎いかなる海の洞に

 それまで貧乏だったデイヴィッド・スチュアートは、突如転がり込んだ伯父の遺産により大金持ちになりました。彼は根っからの貧乏人で、お金を持て余しつつ自分の居場所を探しています。かつての仲間は大金を手にしたことで疎遠になってしまい、さりとてお金持ちグループからは成金と見なされ相手にされない、そんな状況です。
 デイヴィッドはある日、水泳プールで二人の姉妹と運命的な出会いをします。妹のヘレン・オースティンは金色の髪で女性的ながら筋肉の発達した娘、姉のバーバラ・オースティンはとび色の髪でヘレンよりも背の高い女性でした。デイヴィッドはヘレンに熱を上げ、彼女に交際を申し込みます。ヘレンもデイヴィッドを愛するようになりました。
 やがて二人は結婚し、幸福な生活を始めます。莫大な資産を持つ二人には差し迫った労働の必要もなく、オルガンを習ったり絵画を描いたりといった道楽で日々を過ごす毎日でした。
 ところが、あるときを境にヘレンの態度に変化が起き始めます。外出を嫌い家に引きこもるようになり、更にはデイヴィッドに無断で山のような衣装を買い込んだりしたのです。デイヴィッドが不思議に思い尋ねてみると、ヘレンは怯えつつ答えます――体の成長が止まらず、ドレスが着られなくなる程背が伸びてしまったのだと。
 ヘレンの肉体には何の異常も見られず、医師は巨人症ではないと診断を下しました。しかし、にも拘らずヘレンの身体はますます大きくなっていきます。

 いくつかスパイスの利いた作品もありますが、全体としては甘いタッチのお話が多いですね。人によっては甘口過ぎて受け付けられない方もいらっしゃるかもしれません(^^;)
 ただ、こうしたロマンチックなストーリーというものは物語の王道です。それに加え、単にSF的舞台背景というだけでなく、展開にもSF要素が結びついています。
 例えば『ジョナサンと宇宙クジラ』のアンドロメダは、直径が月の半分程もあり、内部に人の居住環境を持つ知的生命体で、ガイア仮説を連想させてくれます。その巨大生物と青年のプラトニックなラブストーリーときたら、SF以外では成り立ちませんね(笑)
 ヤング氏は古き良きロマンスを愛されるのと同時に、SFというジャンルにも深い愛情を注いでいらっしゃったのでしょう。SFは時として無味乾燥だと批判されることもありますけど、本書はその指摘が必ずしも当て嵌まらないという好例です。

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