天使墜落

[題名]:天使墜落
[作者]:ラリイ・ニーヴン&ジェリー・パーネル&マイクル・フリン


 地球が未曾有の災害・氷河期に襲われ、人々が科学技術を憎むようになった架空の近未来(作中の年代はおそらく二十一世紀初頭)を舞台とする物語です。
 本作の特徴は、小説丸ごと特定のグループへのサービスになっていることですね。:-) 全体的に重苦しい設定なのですけど、ストーリーを追っていてニヤニヤしてしまう箇所が多数あり、決して暗いお話とは言えません。三人のSF作家さんの共著ですが、おそらくお三方とも結構ノリノリで書かれたのではないでしょうか。
 氷河期の到来により科学が疎まれる暗黒時代へと突入した世界で、宇宙ステーション居住者の宇宙船が撃墜されるという事件が起きました。不時着した宇宙飛行士に憎悪の目が向けられる中、彼等を救おうと動いた唯一のグループ――それはSFファン達だったのです(^^;)

 環境学者が近い将来やってくると警告した地球温暖化の予測は、しかし空振りに終わりました。彼等の考えとは逆に、地球には氷河期が急激に訪れたのです。あまりの激変に人々は対応できず、氷河が更に拡大するのではないかと怯えています。
 そして、この事態を阻止できなかった科学に敵意が向けられ、必要最低限の技術のみを残し弾圧されることになりました。世界は中世暗黒時代さながらの神秘主義に支配され、科学技術はないがしろにされています。中でもSF作家及びSFファンはテクノロジーの信奉者として迫害され、場合によっては矯正措置により正気をなくしてしまう者もいるほどです。
 この世界情勢下、衛星軌道上に置かれた宇宙ステーション〈フリーダム〉と〈ミール〉は地球からの支援を打ち切られ、自活を余儀なくされていました。彼等には様々な物資が不足しており、補給の為に時折スクープシップで地球の大気上層から窒素をすくい取る必要があったのですが、この行為すら地上の人々から反感を買っています。
 そして、宇宙飛行士アリクス・マクラウドとゴードン・タナーの二人がスクープシップ〈ピラニア〉で窒素を回収しようとしたとき、地上からのミサイルにより宇宙船は撃墜されてしまいます。〈ピラニア〉が不時着したのはアメリカ合衆国。政府の手の者に捕まってしまえばタダでは済みません。
 この危機的状況に立ち上がったのは、SFファン達でした。しばらくSFファンダムから遠ざかっていたプログラマのシェリン・ハートリイ、シェリンの以前の恋人で物理学者のボブ・ニードルトン、雑学の大家マイク・グライダー、黒人ボディビルダーのスティーヴ・ミュウズといった仲間達が集い、宇宙ステーションと連絡を取って〈ピラニア〉の着地点を割り出します。そして、不時着のショックと重力の強さで身動きが取れなくなっていた宇宙飛行士達を無事救出しました。
 彼等の目的は、天空から墜ちてきた二人の〈天使〉を空へ還すこと――いい加減でまとまりがなく変人揃いのSFファン達による、熱いストーリーが動き出します。

 本書の注目ガジェットは、氷河期です。
 作中では地球温暖化の予測が外れ、逆に氷河期が到来してしまいますが、その理由として、太陽の不規則活動期が挙げられています。一九八〇年代、太陽から地球へ到達するニュートリノが予測値よりも少ないことが判明し、ここから太陽内部の核融合が一時的に停止していることが導き出されました。太陽は核融合の停止時期と活動時期を交互に繰り返していて、これが地球の氷河期と間氷期に対応しているという訳です。
 この太陽ニュートリノ欠損問題はフィクションではなく現実のもので、「太陽の核融合が停止しているのではないか」という推測も実際に提唱されています。もっとも、現在この謎はニュートリノ振動と呼ばれる現象により、太陽から輻射される電子ニュートリノが別のニュートリノへ変化してしまった為だと解明されたようです。ほっと一安心ですね(^^;)
 物語中での氷河期の到来自体はあくまで太陽がもたらした自然現象ですけど、これを加速させたのは環境保護運動だったという面白い設定がなされています。本来ならば二酸化炭素濃度上昇による地球温暖化が氷河期の気温低下を相殺していたのが、環境運動により排出される二酸化炭素が減り、逆に寒冷化を呼んでしまったというものです。やや乱暴なロジックではあるものの、環境保護を詠った活動が自然のバランスを崩してしまうというのはなかなかに皮肉ですね。

 本作はSFファンへのサービス的要素が強く、実在の米SFファンをもじった人物が多数登場しているようです。(作者三人らしき人物を含む(^^;))
 中でも興味深いのは、ハッカー集団〈破滅(ドゥーム)の軍団〉を率いるRMSというキャラクタですね。SFファン同様にテクノロジー崇拝者として迫害を受けるコンピュータ・プログラマ達のリーダーで、当局から指名手配され地下に潜伏中の凄腕ハッカーです。イニシャル及びEMACSの作者とされていることから、これはGNUプロジェクト創始者リチャード・ストールマン氏を指しているのでしょう(作中世界ではイニシャル以外は経歴不明)。残念ながら名前のみの登場ですが、ストールマン氏は少々変わり者ですので、作中にそのまま出てきても他のキャラクタと違和感はなさそうです。:-)
 パロディやお遊び要素が多く含まれる作品ではありますけれど、本作の面白さはそれだけに留まりません。テクノロジーが嫌悪される世界で、数々の困難を乗り越えてロケット打ち上げを目指す、非常に感動的な物語でもあるのです。

この記事へのコメント

  • nyam

    こんにちは

     これは、「キリンヤガ」+「オネアミスの翼」みたいな、一風変わった作品ですね。SFファンが活躍する点では「降伏の儀式」にも似ています。

     地球温暖化は難しい問題ですが、本当に二酸化炭素だけが原因なのか疑問に思ってます。都市排熱は?宇宙線の減少は?農畜産業によるメタンは???

     なにごともバランスが大切。おっと、暑いので冷房、いれようっと!
    2009年08月16日 09:42
  • X^2

    実際、今年には本来なら新たな太陽黒点の増加サイクルがはじまるはずなのに、今のところ活動が見られず、一部ではマウンダー極小期以来の小氷河期が起こるのでは、という話もあるようです。その意味でこの作品は決してあり得ない世界ではないかもしれませんね。
    2009年08月17日 04:49
  • Manuke

    To nyamさん
    >  地球温暖化は難しい問題ですが、本当に二酸化炭素だけが原因なのか疑問に思ってます。都市排熱は?宇宙線の減少は?農畜産業によるメタンは???

    「牛のゲップに含まれるメタンガスが馬鹿にならない」という話は聞きますが、あれって野生の反芻動物はどうなんでしょうね。バッファローの群れとか、結構な量になりそうな気がします(^^;)

    >  なにごともバランスが大切。おっと、暑いので冷房、いれようっと!

    寒いのは結構平気なんですけど、暑いのはめっぽう苦手です。クーラーなしに生きられません(笑)


    To X^2さん
    > 実際、今年には本来なら新たな太陽黒点の増加サイクルがはじまるはずなのに、今のところ活動が見られず、一部ではマウンダー極小期以来の小氷河期が起こるのでは、という話もあるようです。その意味でこの作品は決してあり得ない世界ではないかもしれませんね。

    ここ数年が、温暖化が果たして本当なのかどうか見極めが付く分岐点なのかも。もっとも、温暖化であれ氷河期であれ、気候の大変動はあまり来て欲しくはないですが(^^;)
    2009年08月18日 00:02
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