何かが道をやってくる

[題名]:何かが道をやってくる
[作者]:レイ・ブラッドベリ


 イメージの魔術師レイ・ブラッドベリ氏による、少年達と謎のカーニバル団を描いた幻想物語です。(あまりSF的ではないのですが、気にせず紹介してしまうことにします(^^;))
 ブラッドベリ氏はSF作家の中でも屈指の詩的な文章を書かれる方で、本書ではその技量が遺憾なく発揮されています。切なくなる程に繊細な表現で綴られる文章は、時にカーニバル団の不気味さを盛り上げ、時に父子の交流を通じ読み手の心を温めてくれます。

 生まれた日が一日違いで、家が隣同士の仲の良い少年ウィル・ハロウェイとジム・ナイトシェイドは、あと少しで十四歳の誕生日を迎えようとしていました。
 二人が芝生の上で寝転んでいると、そこへ避雷針を売り歩く男が通りかかります。セールスマンは当初二人に避雷針を売ろうとしますが、家人もおらず少年達がお金を持っていないことを知ると、自分の避雷針を無料で譲ると言いました。彼はジムの家に雷が落ちるという予感があったのです。
 それは三日月型と十字型を組み合わせ、様々な国の言葉や昆虫の絵等が彫り込まれた奇妙な避雷針でした。二人は避雷針を受け取り、それをジムの家の屋根に取り付けますが、その後ジムは好奇心に駆られて避雷針を取り外してしまいます。
 そして夜中の三時、不思議なものが彼らの住むグリーン・タウンへやってきました。古い機関車と暗緑色の気球が、不気味な巡回カーニバル団(いわゆるサーカス)を運んできたのです。列車の音を聞きつけ、夜中に家を抜け出したウィルとジムは、その一部始終を目撃します。
 翌朝、二人が天幕のところまで行ってみると、それはごく普通のカーニバル団のように見えました。グリーン・タウンの人々はカーニバルが街へやってきたことに喜び、それを楽しもうと集まってきます。
 けれども、クガー・アンド・ダーク魔術団はただのカーニバル団ではありませんでした。その秘密を垣間見てしまったことで、ウィルとジムは彼等から追われる羽目になるのです。

 本書の注目ガジェットは、カーニバル団の有する回転木馬です。
 回転木馬に乗った者は肉体の年齢が変化します。通常回転の場合は一周回る毎に一歳年を取り、逆回転の場合は一歳若返ります。対象者の記憶等には影響を及ぼさないようですが、知能は肉体年齢に引きずられている節があります(小さな子供に若返ると、思考も子供っぽくなってしまう)。
 木馬と連動してカライアピー(蒸気オルガン)が音楽を奏でますが、これがショパンの葬送行進曲というのが意味深ですね。年齢を重ねることが死へ近づくことを暗示している訳です。逆に回転する場合には、葬送行進曲も逆再生されます。
 まだ歳若い二人の少年は早く大人になることを望み、逆に大人達は若さを取り戻すことを願います。しかし、その誘惑に負けてしまうと、知人達からは同一人物と認めてもらえなくなり、孤独になってしまいます。そうなったら最後、カーニバル団の思うつぼです。
 面白いのは、魔術団の異様さはこの機械が中心となっているらしい点です。ダーク氏ら団員は悪人ではあるものの、決して悪魔のような存在ではないとされています。先に回転木馬ありき、だったのかもしれません。

 主人公はやや慎重派の少年ウィルと、少々無鉄砲なところのある少年ジムの二人ですが、同格の人物としてウィルの父チャールズ・ハロウェイが登場します。チャールズは図書館の管理人で、晩婚の為ウィルとはかなり歳が離れています。ウィルは自分の父親が年老いていることに戸惑いを感じていますが、二人がカーニバル団から追われることになったとき、チャールズだけが彼等を信じ手を差し伸べることになります。年長者ながらも子供の心を失っていない、もう一人の少年と言えるでしょう。
 一方、カーニバル団のメンバーは妖しいキャラクタ揃いです。全身に入れ墨を施している謎めいた男ダーク、回転木馬を利用して子供の姿になり人々を陥れようとするクガー、盲目の老魔女、機械じみた一寸法師(その正体はショッキングです)と、悪夢から抜け出してきたかのように奇怪かつ魅力的ですね。
 日常が非日常に侵される様を繊細で鮮やかな表現で描き出した、幻想小説の名作です。

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