スター・ウィルス

[題名]:スター・ウィルス
[作者]:バリントン・J・ベイリー


 奇才バリントン・J・ベイリー氏の処女長編に当たるお話です。
 後の作品では、様々なネタを詰め込んだ闇鍋のごとき超奇想天外な作風を特徴とされる氏ですが、さすがに初期の本書ではそこまでSFガジェット満載とまでは行きません。しかしながら、物語のトーンや壮大なクライマックス、異様な価値観から生ずる居心地の悪さ、決してコメディではないのにニヤニヤ笑いを禁じ得ない皮肉なユーモア(^^;)といったテイストが既に見て取ることができるのは興味深いですね。

 時は未来、地球人類が宇宙へ進出し、銀河の〈中心核(ハブ)〉までその版図を広げた時代。
 人類はいくつかの知的生物と遭遇していましたが、その中で恒星間への進出を果たした種族はたった一つ、ストリールと呼ばれる異星人のみでした。ストリールは人類よりも遥かに古い歴史を持つ種族で、数学的論理体系を尊重しており、いい加減でまとまりのない地球人類を嫌悪していました。しかし、接触当初は武力的対立があったものの、現在はストリール側が軽蔑のあまり距離を置いたことで諍いは回避されています。
 そして物語は、宇宙海賊ロドロン・チャンとその手下が、ある通信を傍受したところから動き始めます。辺鄙な惑星に隠された商業ギルドのコンピュータをクラックし、貨物宇宙船の位置を突き止めようとしたロドロンは、偶然その情報を手に入れたのです。
 それは、ある積み荷を引き渡すようストリールが貨物船に要求しているという内容の通信でした。自由を好みストリールを嫌うロドロンは、その眼前からお宝を奪い取ってしまおうと考え、それを実行します。
 貨物船から荷物を奪取した後、ストリール船の追撃をからくも逃れたロドロンは、早速獲物の検分の為にクレートをこじ開けます。中から現れたのは、差し渡し百二十センチメートル程の透明なレンズ状の物体でした。
 ストリールが躍起になって取り戻そうとしているこのお宝の正体は何なのか――ロドロンはそれを究明することに取り憑かれてしまうのです。

 本書の注目ガジェットは、ストリール("The Streall")です。
 ストリールはアルマジロに似た固い表皮を持つ軟体動物(むしろ外骨格?)型種族です。垂れ下がった表皮の下には、脚が六本と腕が一対隠されています。
 ストリールの社会は全体主義的な傾向が強く、完全に調和された世界を理想としています。作中の歴史において、人類社会では〈ハブ〉進出後に中央集権的な政府組織が消滅しており、各自が好き勝手自由気ままに振る舞っています。この辺りもストリールの癇に障るようです。
 ストリールは自分達こそが銀河系の覇者として唯一選ばれた存在であり、地球人が恒星間へ進出したこと自体がイレギュラーだと考えています。この信念が、ロドロンの奪ったお宝と関っていることが後半で明かされます。

 ロドロンが入手した謎の物体は、単にレンズと呼ばれることになります。レンズ自体は透明ですが、中に光の渦が浮かんでいます。
 レンズは覗き込む角度により様々な映像劇を見ることができます。銀河の各所に棲息する知的生物を映したもので、時間は数分~数時間、いずれも悲劇的な結末で終わるようです。但し、地球人の僧侶らしき人物の映像だけは例外で、ロドロンがレンズを手に入れてからずっと、続き物のストーリーを映し続けています。このレンズの正体はなかなかに意味深で、アナーキストの海賊ロドロンが抱く思想と相まって、独特の世界観を作り上げています。
 また、後の作品程ではないにせよ、性欲減退と引き換えに知力を増大させるドラッグDPKL-59、盲目で肩に取り付けたカメラを目の代わりにする科学者マルド・シント、厭世的かつ刹那的な宇宙船乗り・デッドライナー達といった小ネタも刺激的で、その悪趣味さで読者を翻弄してくれます。
 レンズというパンドラの箱から解き放たれたのは“スター・ウィルス”に留まらず、ベイリー氏の奔放な想像力もまたそうだった――と言ってしまうと奇麗に纏め過ぎでしょうか(^^;)

この記事へのコメント

  • nyam

    わーい ベイリーだ!
    と言っても、本作はちょっと地味目。
    たしかベイリーの処女作で、おとなしめですかね。

    こんな名作が手に入りにくいのは残念です。

    2009年07月18日 19:14
  • Manuke

    後の作品と比べると、弾け具合はやや控えめですね(^^;)
    ストーリーの纏まりは良いですし、一見スペースオペラ風の設定ながら少々ひねくれた展開も好きです。
    2009年07月19日 02:01
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