木星プロジェクト

[題名]:木星プロジェクト
[作者]:グレゴリイ・ベンフォード


 本書は木星の衛星軌道上に作られた研究所を舞台とする、少年の成長を描いた作品です。
 ベンフォード氏が科学者ということもあり、作中の物事に関しては緻密な考証が行われているのは興味深い点です。また、氏の作品ではしばしば、人間と(非人間的な)宇宙の関わりが織り成すシビアな世界が描かれますが、本書にも若干そうした傾向があります。もっとも、作品の傾向はややジュブナイル寄りで、読後感はむしろ爽やかな印象です。

 木星に生物がいるかどうかを探るため、その衛星軌道上に置かれた木星天文生物軌道研究所、通称〈ブリキ缶〉。そこで科学者の両親と共に暮らす少年マット・ボウレスは、ちょっとしたトラブルに悩まされていました。同じ年頃の少年ユーリ・サグダーエフが、何かと言うとマットに突っかかってくるのです。
 ゼロGスカッシュのトーナメントでユーリとぶつかったマットは、ユーリが行った紳士協定違反の為に負けを喫してしまいました。友人達は同情しつつも、マットがユーリに対してムキになり過ぎていると指摘します。しかし、マットはユーリを上手くあしらうことができません。
 やがて、研究所の規則により休養を取ることになったマットは、親友のザック・パロンスキと共に氷の衛星ガニメデへと向かいます。ところが、ザックはスキー中に怪我をしてしまい、二人で参加する予定だった定期巡回検査に加われなくなってしまいます。
 そして、ザックの代わりとしてマットのパートナーに決まったのは、他ならぬユーリでした。マットは五日の間、六本脚の地上歩行機械・ウォーカーの中でユーリと二人っきりで過ごすことになるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、〈ブリキ缶〉("The Can")です。
 正式名称は木星天文生物軌道研究所で、頭文字を取ってJABOLとも呼ばれますが、住人はその見た目から〈ブリキ缶〉という通称を付けています。その名の通り中空の円筒形をしたスペースコロニーで、シリンダーの開口部には氷でできたパンケーキ型の蓋(放射線遮蔽物)がそれぞれ一つずつ浮かんでいます。
 円筒の内側は真空のままで、ここに宇宙船やシャトル機が格納されています。蓋とシリンダーの間には隙間があり、小型艇はその間から、大型の船は蓋自体をスライドさせて出入りします。
 〈ブリキ缶〉は木星の四大衛星の一つガニメデと同じ軌道上のトロヤ点(いわゆるラグランジュL5)にあり、常にガニメデから一定の距離を保っています。住人は千人程度で、士官・研究所の職員及びその家族からなるようです。

 このお話はベンフォード氏の別作品『アレフの彼方』と世界観を共有しています。『アレフの彼方』に登場しマヌエル少年を導くマット・ボウレス老人が、本書の主人公です。
 作中の最後で、マットはある衝撃的な物事に立ち会います。本書の中では幼さを残す少年だった彼が、いかなる経緯を経て、謎の存在アレフを追い求めることになるのか、その辺りを想像してみると感慨深いですね。

この記事へのコメント

  • X^2

    「木星の生命」の可能性については、10--20年ほど前にはかなり議論?が盛り上がっていろいろSF作品も書かれたと思うのですが、最近はあまり聞かない気がします。もっともこれは私自身がSF読みから遠ざかっているために、そう感じているだけかもしれませんが。
    ガニメデのL5ポイントだと、他のガリレオ衛星からの摂動がかなり大きそうですが、安定にステーションが留まっていられるのでしょうか。
    2009年07月04日 14:07
  • Manuke

    最近のSFとなると、私もちょっと分かりません(^^;)
    現実の方の科学だと、意外にも土星の衛星エンケラドスが注目されてますねー。惑星探査機カッシーニの観測から、どうやら海が存在するらしいことと、熱源があるらしいことが判明してきていますから。
    この成果を取り込んだSFが登場してくれることを期待してます。

    摂動の影響は特に言及されていないようです。ガニメデはイオやエウロパと軌道共鳴の関係にあるようですが、〈ブリキ缶〉にどの程度影響を及ぼすのかは不明ですね。
    まあ、それほど巨大ではなさそうなので、いざとなったらロケットで加速してしまえばなんとかなるのかも。
    2009年07月05日 02:00
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