前哨

[題名]:前哨
[作者]:アーサー・C・クラーク


 本書はSF界の巨匠A・C・クラーク氏の初期作品を集めた短編集です。
 デビュー作を執筆された時期が第二次大戦直後ということもあり、戦争に関連するお話が多く含まれるのが特徴と言えるでしょうか。また、短いながらも科学考証にこだわったお話が既にいくつか見られる点も興味深いところです。

◎第二の夜明け

 三本足のユニコーン型知的生物アセレナス族とミスラニア族は、同系の種族でありながら食料を巡って対立し合い、戦争を続けてきました。
 彼等は自由に動かせる手を持たないため、数学・哲学の思索に特化した文化を築き上げ、テレパシー能力を発達させています。技術は存在しないことから、その戦いはあくまで肉弾戦に留まっていました。
 ここで、アセレナス族は複数人の精神を一つにまとめ、テレパシーで相手を攻撃するという手段を開発しました。その「〈狂気〉の作戦」は敵の精神を破壊するというむごたらしいものであり、勝利の後には痴呆状態となった多数のミスラニア族戦士達が残されました。生涯面倒を見なければならないその者達の一団を目にして、兵士エリスの妻ジェリルはショックを隠しきれません。
 そこへ、二人の旧友であるアレテノンが姿を見せます。アレテノンは〈狂気〉の作戦に関っており、その結果に責任を感じていました。そしてエリスとジェリルを、恩師セロディマスの下へ連れて行きます。
 セロディマスはこれまでアセレナス族が知らなかった、別の文明の在り方を発見していたのです。

◎おお地球よ……

 月の〈植民地〉で暮らすマーヴィンは、十歳になったある日おとうさんに連れられ、生まれて初めて〈外界〉へと出ることになりました。胸を躍らせるマーヴィンは、父親と共に小型偵察車へと乗り込み、エアロックを抜けて真空の月面へと出ます。
 そこで彼は、空に輝く巨大な銀色の月を目にし、悟ります――これまで考えたことがなかった、その意味を。

◎破断の限界

 金星へ向かう貨物宇宙船〈スター・クイーン〉号で、ある恐るべき事態が発生しました。普通なら起こり得ないはずの偶然の悪戯で、船の酸素冷却コイルに隕石が衝突し、予備の酸素が失われてしまったのです。
 金星までの残り旅程はあと三十日。しかし、酸素の残りは二十日分しかありません。機関士マクニールは取り乱し、もう一人の乗員グラントはあくまで冷静に対処方法を探します。しかし、状況を好転させる要素は何一つ存在しませんでした。
 そうした中、積み荷のワインを勝手に飲んで泥酔したり、無神経に煙草を吹かすマクニールに対し、グラントはいらだちを募らせていきます。それが憎悪に転じた頃、彼は気付いてしまいます――二人分には足りない酸素も、一人分であれば間に合うことに。

◎歴史のひとこま

 寒冷化しつつある故郷を旅立ち、シャンの一族は暖かい南の国を目指していました。
 山脈を乗り越えて肥沃な大地へ辿り着いた彼等でしたが、そこには同時に絶望が待っていました。南極からの氷河が、遥か遠くからその地へと迫りつつあったのです。(全球凍結?)
 世界が氷に閉ざされてしまう直前、一族は聖なる宝物を山頂の地下聖堂へと収めます。それは彼等には理解することのできない、世界地図や交響曲の楽譜、宇宙船の点火装置といった過去の文明の遺物でした。
 そして、人類が滅んだ五千年後――太陽の放射熱の変化は金星に爬虫類の文明をもたらしました。金星人が宇宙船を建造して地球探検にやってきたとき、彼等は山頂に収められた宝物を発見します。

◎優越性

 宇宙戦争に負けた国の最高司令官が、監房の中から出した声明書です。
 彼は、自分達が戦争に負けた本当の原因は「敵の科学がわれわれの科学よりも劣っていたため」だと言うのです。そして、新たに兵器研究所長に任命されたノーデン教授の生み出す、数々の新兵器に関するエピソードを綴っていきます。

◎永劫のさすらい

 戦争が敗北に終わると判明したとき、〈支配者〉はある決断を下しました。部下達を犠牲にし、自分だけが死から逃れようというのです。
 その方法は、自らを冷凍睡眠し、戦争の責任を問われる恐れのない百年後に復活しようというのもでした。しかし、彼が冷凍された後、一発のミサイルが時間をカウントする装置を破壊し、〈支配者〉の眠りは中断されなくなってしまいます。
 悠久の時が流れ、銀河に哲人トレヴィンダーなる人物が生まれました。彼は銀河系を支配している哲学的な文明と相容れない、しかし高い知性の持ち主でした。その処罰に困った裁判所は、トレヴィンダー自身の提案を受け入れ、彼を文明の痕跡が残らない程の未来へと送り出すことに決めます。
 そして無限に近い時間が経過し、文明の滅んだ遥かな未来世界で二人は出会うのです。

◎かくれんぼ

 「わたし」(名前不明)とキングマン、カースンの三人が狩りをしていたとき、灰色のリスをしとめ損ないました。キングマンはそのことで、かつて第二次木星戦争で起こった事件を思い出したと言います。
 その逸話を聞いたことのなかった「わたし」の求めに応じ、キングマンは語り始めます。諜報機関員K十五号と宇宙巡洋艦〈ドラドス〉号の繰り広げた、滑稽な追いかけっこの話を。

◎地球への遠征

 クリンダーら銀河調査隊の科学者達は、故郷で起きつつある不穏な情勢を気にしながらも、ある恒星系へと辿り着きました。そこで彼等は、自分達の母惑星にそっくりの生命豊かな惑星を発見します。
 更に調査を進めると、そこには驚くべきことに彼等そっくりの未開人が住んでいたのです。故郷から届く悪いニュースに胸を痛めつつ、科学者達はその未開人とコミュニケーションを図ることにします。

◎抜け穴

 クラーク氏のデビュー作です。
 地球を監視していた者達は、地球の住人が原子エネルギーの解放に成功したことを知りました。更に、ロケット研究が進んでいることを嗅ぎ付けた彼等は、危険な地球人類がそれ以上惑星間旅行を企てないよう、恫喝のため宇宙戦艦を派遣するのですが……。

◎遺伝

 A二〇ロケットの打ち上げは失敗に終わりました。しかし、パイロットのデイヴィッドは驚くべき冷静さで事故に対処し、軽傷でその墜落を乗り切ります。
 その勇敢さに感心した仲間達を前に、デイヴィッドは自分が決して大胆不敵な性格ではないと答えます。それは彼が迷信と自覚しつつも信じている、ある夢のせいだったのです。

◎前哨

 地質学者の主人公「わたし」(名前不明)と助手のルイス・ガーネットが、無限軌道車に乗り月面の〈危の海〉を探検していたとき、主人公は山背に金属のきらめきを見つけます。
 そのように光を反射するのはどんな岩だろうかと興味を引かれた主人公達は、宇宙服を着込んで断崖を登攀しました。そして頂上にたどり着いたとき、二人はそこに鏡面仕上げされた小さなピラミッドを発見します。
 それは人類が史上初めて、自分達以外の知的生命の痕跡を見出した瞬間でした。

 本書の収録作品でとりわけ興味深いのは、表題作である『前哨』、そして『地球への遠征』です。両者とも名作『2001年宇宙の旅』と関わりがあります。
 裏エピソードを紹介した半エッセイ作品『失われた宇宙の旅2001』によると、スタンリー・キューブリック監督から新作SF映画の制作協力を打診されたとき、クラーク氏はその出発点として既存の作品の中から『前哨』を選んだそうです。あらすじでお分かりいただける通り、『前哨』(月面でピラミッドを発見)は『2001年宇宙の旅』の冒頭(月面でモノリスを発見)と類似していますね。
 ストーリー決定はかなり難航し、二転三転したようです(^^;) 最終的に、映画でも小説でもモノリスの作成者は登場しないことになりますが、草稿の段階では地球人類とあまり変わらない異星人が出てきます。この人物の名前がクリンダーです。つまり、『2001年』でモノリスがヒトザルを進化させる部分は、元々は『地球への遠征』がベースだった訳ですね。
 面白いことに、『前哨』にはピラミッドを建造した異星人とのトラブルを予感させる文章があります。これは〈オデッセイ・シリーズ〉最終作『3001年終局への旅』に登場する展開を思わせます。『3001年』はクラーク氏の最後の長編かつ、全作品の集大成でありながら、同時に『前哨』への回帰でもあったのかもしれません。

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