ロボットと帝国

[題名]:ロボットと帝国
[作者]:アイザック・アシモフ


※このレビューには『夜明けのロボット』のネタバレがあります。ご注意ください。

 本書はアイザック・アシモフ氏の未来史世界間を繋ぐ、橋渡し的作品です。時間的には、推理SFの傑作〈イライジャ・ベイリ三部作〉の時代から二百年程後に当たります。
 アシモフ氏はライティング・マシーンの別名を持つくらいに文筆大好きの作家さんですが(^^;)、氏のSF小説にはいくつか同一の舞台設定を持つものがあります(もちろん、どれにも属さない小説も多数)。中でも代表的なものが、スーザン・キャルヴィン博士を軸にロボット三原則に律されるロボットをテーマとした〈ロボットもの〉、同じく三原則を扱いながら刑事ベイリの活躍する推理小説に仕立てた〈イライジャ・ベイリもの〉、そして銀河系中に人類が進出した時代を描く〈銀河帝国もの〉の三つです。
 〈イライジャ・ベイリもの〉の第三作『夜明けのロボット』にて、ロボット三原則の登場する前二者が同じ時間軸上にあることが明示され、更に銀河帝国の形成がこの後に控えていることも示唆されています。しかしながら〈銀河帝国もの〉の背景として、ロボットが一切登場しないこと、そして地球が放射性物質に汚染された僻地の惑星とされていること、という前者との断絶があった訳です。
 この『ロボットと帝国』は、題名通り〈ロボットもの〉の世界と〈銀河帝国もの〉の世界が一続きであることを示す、最後の一ピースです。ここから、銀河系中に地球人が進出を果たし、何千兆人という膨大な人口を形成する銀河帝国が始まるのです。

 地球人刑事イライジャ・ベイリが、ヒューマンフォーム・ロボットのジャンダー破壊事件を解決した後、地球は再び宇宙への進出を開始していました。新たに誕生した人類の居住惑星は植民地国家(セツラー・ワールド)と呼ばれ、宇宙国家(スペーサー・ワールド)とは静かな対立関係にあります。
 同じ地球にルーツを持つ両者でしたが、長命で高い技術力を有するスペーサーは短命な地球人とセツラーを半人間とばかりに見下し、逆にセツラー側はスペーサーがロボットに庇護され活力を失ったと軽蔑していました。
 そして、物語はグレディアが惑星オーロラへ降り立った二百年後に始まります。グレディアの故郷である惑星ソラリアの全住人が、突如として姿を消してしまったというニュースが入ってきたのです。彼女は既に自分をオーロラ人と考えていましたが、それでもその知らせはグレディアを動揺させます。
 その直後、グレディアの五代目の子孫レヴュラー・マンダマスが、二つの目的を携えて彼女の下を訪れてきました。ひとつは、自分が地球人イライジャ・ベイリの子孫でもあるのではないかという疑念を晴らすこと(グレディアは即座に否定します)。もう一つは、セツラー・ワールドの貿易商が、彼女を惑星ソラリアへ連れて行きたがっていることを知らせることでした。その男の名はD・G・ベイリ、本物のイライジャ・ベイリの子孫だったのです。
 そんなグレディア達を、二体のロボットが見守っていました。イライジャ・ベイリのパートナーであったヒューマンフォーム・ロボットのR・ダニール・オリヴォーと、宇宙で唯一テレパシー能力を持つロボット、R・ジスカルドです。ジスカルドの感情を読み取る力とダニールの推理から、マンダマスが地球に危害を加える計画を抱いているらしいことを彼等は読み取りました。そして、その背後にベイリと地球を憎悪するケルドン・アマディロ博士がいることも。
 けれども、彼等はロボット三原則という強力なルールに縛られており、人間に危害を与えることが許されません。計画を阻止したくとも、その過程で人間を傷つけてしまう恐れがあれば実行することができないのです。
 彼等は(ロボットなりに)絶望しつつ、少しでも情報を集めるため、乗り気でなかったグレディアの心に働きかけます。グレディアと二体のロボットはD・G・ベイリの宇宙船に乗り込み、無人の惑星になったとされるソラリアへ向かうのですが……。

 本書の注目ガジェットは、第零法則です。
 三原則はそもそも、「ロボットの反乱」というお決まりの展開に飽き飽きしたアシモフ氏が、「反乱を起こさないロボット」のSFを描く為に導入したものです。アシモフ未来史におけるロボットは、人間に対する反乱を起こさせない為の措置として、次に示すロボット三原則が陽電子頭脳に組み込まれています。その束縛は厳しく、特に第一条を守れなかったロボットは自壊してしまう程です。

・第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。但し、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない。
・第三条:ロボットは、第一条及び第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

 三原則には「人間/危害/服従」といった要素が何を示すのか明示されていない曖昧さがあり、そこがしばしばロジック・パズルのネタになるわけですが、もう一つ大きな欠点として大局的な視点の欠如が挙げられます。いわゆる「大の虫、小の虫」的な判断ですね。
 作中では、イライジャ・ベイリの遺言をきっかけにロボットのダニール自身が三原則の欠陥を認識することになり、ロボット三原則よりも優先する法則があるべきだとの結論に至ります。それが第零法則と呼ばれるものです。

・第零法則:ロボットは人類に危害を加えてはならない。またその危険を感化することによって人類に危害を及ぼしてはならない。

 三原則の三つの条項は、この第零法則に準ずるものとして一つずつ繰り下げられるよう修正されます。
 第零法則は第一条のコピーですから、個人的には第一条と同じ欠点があるように感じられますね。果たして、〈人類〉に該当するグループが複数存在したらロボットはどう行動すべきとダニールは考えるのか、興味深いところです。

 ダニールは〈イライジャ・ベイリ三部作〉で、名探偵ベイリのパートナーを務めたロボットですが、今回はベイリと行動を共にした経験を活かし、彼自身が探偵役を務めます。その結果として、ダニールは全人類の運命を背負わされてしまいます。
 イライジャ・ベイリやキャルヴィン博士が作中で「ロボットには判断能力がない」とする場面がありますけど、本作でダニールが従うべきルールを自発的に考案したことは、その判断能力を獲得した瞬間なのかもしれません。工業製品として誕生したアシモフ世界のロボットが、人の思惑とは異なる形で進化を始めたと言えるでしょうか。

この記事へのコメント

  • X^2

    > 三原則はそもそも、「ロボットの反乱」というお決まりの展開に飽き飽きしたアシモフ氏が、

    ここで導入された「第零法則」を利用されて、"I, Robot"で「ロボットの反乱」を描かれてしまったのは、何とも皮肉ですね。

    > 〈人類〉に該当するグループが複数存在したら

    Asimov世界では「人類」以外の異星人はほぼ存在しないので、ある程度整合性はとれているのでしょうね。もっとも、移民した人類が種としても分化した場合は、問題が起こるかもしれませんが。
    2009年05月23日 20:17
  • nyam

    こんにちは。

    第零法則があろうとなかろうと、人類とロボットが混在していると、問題を引き起こすでしょうね。

    これを解決するには、ロボット(および法則)の存在を隠すことでしょう。
    というわけで、後半のAsimov世界は「ロボット忍法帖」(山田風太郎?)へと変貌した気がします。
    2009年05月23日 22:23
  • Manuke

    To X^2さん
    > ここで導入された「第零法則」を利用されて、"I, Robot"で「ロボットの反乱」を描かれてしまったのは、何とも皮肉ですね。

    そうなんですよねー。アシモフファンとしては、安易に「ロボットの反乱」は入れて欲しくなかったです。
    後半の部分がなく純粋にロジック仕立てで最後まで進んでいたら、『アイ、ロボット』の題名でも許せたんですが(^^;)

    > Asimov世界では「人類」以外の異星人はほぼ存在しないので、ある程度整合性はとれているのでしょうね。もっとも、移民した人類が種としても分化した場合は、問題が起こるかもしれませんが。

    ただ、〈銀河帝国〉の世界で人類以外の知的生命が存在しないのは、銀河系の中限定のようです。『ファウンデーションと地球』での言及もありますから、アシモフ氏はもしかしたらそちら方面の展開も考えていたのかな、と。


    To nyamさん
    > 第零法則があろうとなかろうと、人類とロボットが混在していると、問題を引き起こすでしょうね。

    三原則は人間をロボットから守ると同時に、ロボットを人間から守っていたようにも感じられます。後年それに変更を加えたのは、アシモフ氏の親心だったのかも。

    > これを解決するには、ロボット(および法則)の存在を隠すことでしょう。
    > というわけで、後半のAsimov世界は「ロボット忍法帖」(山田風太郎?)へと変貌した気がします。

    忍法帖ですか(^^;)
    闇から秘密裏に世界を守護すると言えば、ヒ一族とかもアリでしょうか。
    2009年05月24日 01:23

この記事へのトラックバック