マン・プラス

[題名]:マン・プラス
[作者]:フレデリック・ポール


 『マン・プラス』は、リアリティ溢れるサイボーグ物のSFです。
 本書の基本ストーリーは非常に単純で、不毛の世界である火星に適応したサイボーグを生み出す、ただそれだけのお話です。けれども、その過程の随所にポール氏のイマジネーションが発揮され、緻密な描写により迫真の物語へと昇華していると言えましょう。
 地球の危機を回避するために発案された人間のサイボーグ化計画。しかしその第一号被験者は実験中に死亡してしまいます。第二号に選ばれたロジャー・トラウェイは、様々な困難と苦悩にぶつかりながら、今までとは違った存在へと変化していくのでした。

 西暦二〇二四年、地球は大きな危機に直面していました。
 世界人口の増加は留まることを知らず、食料不足は深刻です。しかも、国際情勢は悪化する一方で、いつ最終戦争が起こっても不思議ではない状態なのです。
 全世界的な破滅の影が忍び寄る中、アメリカでとある計画が実行に移されることになりました。人類が火星へ移住することを目指すためのマン・プラス計画です。
 火星は薄い大気と極寒の厳しい環境で、かつ地球から遠く離れています。そこに生身の人間が恒久的な植民地を作るのは困難を極めるはずです。
 そこで、人体を改造して火星環境に適応したサイボーグを作り出し、そのサイボーグに開拓を行わせるというアイディアがコンピュータにより出されたのです。その案に従い、宇宙飛行士ウィル・ハートネットが第一号サイボーグに選ばれ、人体改造を受けることになりました。
 ところが、手探りで実験を続けていく中、ハートネットが死亡してしまうという事態が発生します。計画を続行させるため、英雄的宇宙飛行士のロジャー・トラウェイが第二のサイボーグに選ばれたのです。
 手術により、ロジャーの外見はハンサムな男性から怪物的な存在へと変貌していきます。血と肉でできた手足は取り除かれ、モーターで動く強靭なものに置き換えられます。更に、視聴覚もより優れたセンサーへと代替されるのでした。
 自分の体になされる改造を事前に承知していながらも、それはロジャーにとって大変な苦痛をもたらします――肉体的にも、そして精神的にも。その上、妻ドリーや周囲の者との人間関係も彼を悩ませます。
 そうした様々な障害を乗り越え、ロジャーは人以上のもの――マン・プラス・ハードウェアへと変貌を遂げていくのです。

 本書の注目ガジェットは、サイボーグそのものですね。
 マン・プラス計画におけるサイボーグは、火星に適応した存在です。酸素を含まない希薄な大気と、氷点下四十五度という寒冷さ、そして〇・四Gの重力という環境で活動する必要があります。
 機能優先のため、外観は非常に恐ろしげです。皮膚はサイのように固く、目は丸く膨れ上がった赤い複眼、両肩からは太陽エネルギーを得るためのコウモリのような黒い羽根(ソーラー・ウィングス)が広がります。某特撮の怪人バッタ男・リアル版といった容貌ですね(^^;) ただし、『マン・プラス』のサイボーグは変身能力などありませんから、その苦悩たるや想像を絶するものでしょう。
 過酷な環境に耐えるために、元の肉体で不要な部分はことごとく切除されてしまいます。生体部分は最小限に抑えられ、ごくわずかな濃縮食料だけで体が維持できるようになっているようです。(酸素は呼気を再利用しているもよう)
 第二号サイボーグであるロジャーの場合、ハートネットの死亡原因を受け、更に脳の情報入出力に関して改良が行われます。この設定がなかなか興味深く、サイボーグという存在の在り方を考えさせられるものがあります。

 この作品には主題であるサイボーグの他にもう一つ、面白い仕掛けがなされています。
 ネタバレになってしまいますので、残念ながらこのレビューでそれを紹介することはできませんけど、オーソドックスながらも思わずニヤリとさせられるものがありますね。
 本書の読後における切れ味の良さはここにあると言っていいかもしれません。

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