風前の灯! 冥王星ドーム都市

[題名]:風前の灯! 冥王星ドーム都市
[作者]:野田昌宏


※このレビューにはシリーズ全般のネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の番外編的作品です。
 本書はシリーズ全てを日本語へ翻訳された野田昌宏氏が、エドモンド・ハミルトン氏の没後、遺族の了解を得て執筆された作品ですね。元々複数の作家さんによって書かれたシリーズではありますが、オリジナルは英語で執筆された小説ですし、野田大元帥のべらんめえ調も原作にはない部分でしょうから、正史と言い切れないのは残念です。
 もっとも、翻訳者直々のエピソードですから、キャラクタも世界観も本編日本語版と比較して違和感はありません。それどころか、ヒロインの扱いに関しては本書の方が上手いと個人的には感じるところです(^^;)

 太陽系最外郭の惑星、冥王星。極寒の地であるこの星にはドーム都市が建設され、他の惑星からやってきた者はその中で温かな生活を送っていました。
 ところが、その冥王星首都タルタロス市近辺では、通信施設の送信所が爆破されるというテロ事件が続発していたのです。人的損害はないものの、通信が困難になることで冥王星社会は混乱を来し始めていました。タルタロス市住人は野蛮な冥王星人の仕業だと噂し、逆に冥王星人は濡れ衣だと反発するという対立まで生まれています。
 事態を調査するため冥王星へやってきた惑星警察機構のエズラ・ガーニー警視正とジョオン・ランドール特別捜査員(二人とも昇進?)は、気風の良い冥王星人のタクシー運転手キキと親しくなります。キキの話によると、冥王星には死人が蘇って祟りをなすという伝説があり、冥王星人は爆破騒ぎが死人のせいだと恐れているというのです。
 その後、事件現場を訪れた二人は、その場でミイラの破片を発見してしまいます。冥王星人の言う通り、本当に死人が爆発事件の犯人なのでしょうか。エズラ達は太陽系政府主席を通じ、キャプテン・フューチャーの出動を要請することにしました。
 恐るべき怪事件を陰から操る者――それこそは、カーティス・ニュートン最大のライバルであることを、まだ彼は知りません。

 本書の注目ガジェットは、催眠指令波を発する特殊な微生物です。
 作中では、催眠術師の指先から電磁波や音波、放射能(?)のいずれとも異なる、催眠波なるものが投射されていると説明されます。詳細は不明ですが、何かテレパシーっぽいものなのでしょうか(^^;)
 カーティスは事件現場に残されたミイラの表面から増殖力の高い微生物を発見し、サイモンの助言を受けて微生物が催眠波を発していることを突き止めます。この催眠指令波が、本来死んで動かないはずのミイラを動かしていたというわけです。
 死体であるミイラに催眠術がかかるのかとか、エネルギー源は何なのかといった疑問はとりあえず気にしないことにしましょう。ゾンビ映画やゲームではしばしば「人間がゾンビ化するウイルス」みたいなものが登場しますけど、多分あれと同じようなものだと思われます。:-)
 興味深いことに、この微生物は生きている人間(人造人間のオットーを含む)にも使うことができるようです。自爆テロにはミイラのように異常な存在でなく人間を使った方が、真相は発覚しにくいようにも感じるのですけど……(^^;)

 冒頭で触れた通り、本書はキャラクタ描写が秀逸です。中でも、ダブルヒロインのジョオンとヌララが魅力的に描かれているのは瞠目に値するでしょう。
 メインヒロインの影が薄いのは〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の問題点ですが(^^;)、野田氏はジョオンの性格設定を本編から逸脱させることなく、しっかり存在感を持たせているのは素晴らしいです。ヌララに対して焼きもちを焼くシーンは、サイモンの朴念仁さと相まって非常に楽しい場面に仕上がっていると言えるのではないでしょうか。
 また、ウル・クォルンの恋人であるヌララに関しても、その猫のように気まぐれな性格が嫌味のないタッチで描写されています。ウェルマン氏の『小惑星要塞を粉砕せよ!』にもヌララは登場しますけど、あちらの作品ではかなり性格の悪さが強調されていた印象がありますね。私個人としては、野田大元帥に軍配を上げたいところです。

 〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉は大衆向け娯楽小説として書かれたパルプ・ヒーローものであり、お世辞にも高尚さとは無縁です。科学考証はどこへ吹く風、展開にもご都合主義が満載です。
 しかし、それでもなお本シリーズはスペースオペラならではの面白さに満ちあふれています。胸躍る冒険の時代は主人公の名に載かれた〈未来〉、そして舞台は広大無辺の〈宇宙〉なのですから。スケールの大きさという点で、スペースオペラに比肩する物語は多くありません。それこそ、このジャンルの決定的なアドバンテージですね。
 荒唐無稽上等、むしろ褒め言葉です(笑) キャプテン・フューチャーとその仲間達が繰り広げる数々の大冒険を、思う存分楽しんでしまいましょう。

この記事へのコメント

  • X^2

    「番外編的な長編一作」というのが判らなかったのですが、なるほどこの作品だったんですね。このシリーズで「メインヒロインの影が薄い」というのは確かにその通りに感じますが、何が原因なのでしょう。「スターキング」を見る限り、ハミルトン自身がヒロインを描けないというわけでもなさそうですが。

    > 自爆テロにはミイラのように異常な存在でなく人間を使った方が、

    おそらく「テロはやっても人の命は奪わない」というウル・クォルンの美学ではないですかね。まあ、以前の彼の行動とは矛盾しますが。
    2009年05月02日 17:58
  • Manuke

    『スターキング』もそれほど〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉とは時期的に離れていないのに、こちらのリアンナ王女はしっかり描かれていますね。
    何かシリーズ上の縛りがあったのかもしれません。

    美学というのは、言われてみればありそうです。
    作中で人が殺されるシーンもありますから殺人への抵抗はないと思われますが、クォルン先生は色々変なこだわりを持っていそうな印象ですし。
    だからカーティス君に勝てないのかも(^^;)
    2009年05月03日 01:13
  • ちいさいおおかみ

    テロは暴力武力に依らずとも出来るのは御存知でしょうか?実は言葉のテロもあるのです。有名かつ歴史的に恐ろしいのが"言葉狩り"ですね。後、"虐め"もこちらは有形無形に関わらず暴力を用いる実質的なテロですよ。
    2016年07月21日 00:56
  • Manuke

    「言葉狩り」は往々にして「言葉の暴力」への対抗手段でもあるので、双方の言い分を見極めた方がいいですね。
    2016年07月24日 01:30
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