鉄の神経お許しを/他

[題名]:鉄の神経お許しを/他
[作者]:エドモンド・ハミルトン


※このレビューにはシリーズ全般のネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の短編群です。
 長編が一九四〇~一九四六年に書かれたのに対し、これらの短編はやや時間を置いて一九五〇~一九五一年に執筆されています。コメディ作品である『鉄の神経お許しを』を除くと、そのいずれもがビターな雰囲気を醸し出しているのが興味深いところです。

◎キャプテン・フューチャーの帰還

 キャプテン・フューチャーとその仲間達が外宇宙へ旅立って、はや三年――人々はこの偉大な英雄が既に還らぬ人となってしまったのだと考えるようになりました。
 そんな状況に憤懣やるかたないのがエズラ・ガーニーとジョオン・ランドールです。月の研究所に隠された数々の秘密が太陽系政府の手に渡ることを危惧した二人は、その前に秘密を別の場所に隠してしまおうと思い立ち、月へと赴きました。
 ところが、キャプテン・フューチャーは密かに太陽系へと帰還を果たしていたのです。再会を喜ぶジョオン達に、けれどもカーティス以下四名は浮かない顔で、事情も告げずに地球へ戻るよう勧めました。もちろん、二人はそれで収まるはずがありません。
 仕方なしに、カーティスは口を開きます。古代デネブ文明の更なるルーツを求めてアンドロメダ星雲へ向かった彼等が、そこで発見したもののことを。
 それはかつて全銀河を支配していた強大な生命体ライニッド("The Lynid")の、最後の生き残りを捕獲した停滞力場だったのです。

◎太陽の子供たち

 異能の英雄カーティス・ニュートンの数少ない友人の一人、天才科学者フィリップ・カーリンが行方をくらましてしまいました。彼は太陽に最も近い惑星ヴァルカンで調査に取り組んでいたのですが、六ヶ月後に彼を収容しに向かった作業船の前に姿を現さなかったのです。
 カーリンにヴァルカンを調査するきっかけを与えたことに責任を感じたカーティスは、フューチャーメンと共にヴァルカンへ赴き、その行方を探そうとします。しかし、かつての事件(『ラジウム怪盗団現わる!』参照)で親交を深めたはずのヴァルカン原住民達は、打って変わって非友好的な態度をカーティスに向けます。失踪したカーリンが、ヴァルカン人にとって禁断の地へ踏み込んだ為でした。
 そこにはカーリン失踪の原因となった、驚くべきものが隠されていたのです。

◎衛星タイタンの〈歌い鳥〉

 土星の衛星タイタンにあるモネブの町では、あるトラブルが起きつつありました。
 モネブ人の中には新参者である地球人を憎む一派がおり、町を治めていた老王が亡くなったことをきっかけに行動を起こそうとしていたのです。彼等が使おうとしていたのは、古代から伝わる恐るべき武器〈歌い鳥〉(ハーパー)でした。
 古くからモネブへ移住し、両者の仲立ちをしていた地球人ジョン・ケオガは、それを事前に防ごうとキャプテン・フューチャーをタイタンに招きます。ところが、ケオガを邪魔に思う一派は、カーティス達の目前でケオガのこめかみを矢で射抜いてしまいました。
 脳に損傷を受け、もはや助からないケオガ。しかし、彼抜きにしてモネブの住民を諌めることは不可能です。
 この状況で、〈生きている脳〉サイモン・ライトは大胆な提案をします。自分の脳をケオガの頭に移植して、彼になりすまそうと言うのです。

◎鉄の神経お許しを

 本作はシリーズ中唯一、グラッグの一人称で綴られます。
 フューチャーメン随一の怪力を誇る全鋼鉄製ロボットのグラッグ。今、彼は大きな悩みを抱えていました。コンプレックスが原因で、神経を衰弱させてしまったのです。(実はテレバイザー劇に感化されてそう思い込んだだけのようですが)
 グラッグはニューヨークにある精神分析医を訪れ、診察を受けることにしました。ロボットの診察などしたことのないパーカー博士は仰天しながらも、グラッグに助言を与えます。他人から遠ざかって暮らすのが良い、ニューヨークはもってのほかだ、と(笑)
 月に戻ったグラッグは、他のフューチャーメンにそのことを打ち明けました。それを聞いたオットーは笑い転げ、サイモンは馬鹿馬鹿しいと一言の下に切り捨ててしまいます。
 カーティスは心配を表に出すまいと顔を引きつらせつつ(^^;)、冥王星第四衛星ディスで起きているらしい事件の調査にグラッグを派遣することを思いつきます。ディスは自動採掘機しかない無人の星で、グラッグの状況にうってつけでした。
 任務を与えられたグラッグはペットのイイクを連れ、己の繊細さを嘆くというシチュエーションに酔いながらディスへと向かうのですが……。

◎忘れじの月

 木星の衛星エウロパでは、人々が行方不明になるという事件が続発していました。失踪した人間は例外なくエウロパの外から来た者で、しかも全員が老人でした。彼等のうち幾人かは、姿を消す前に〈第二の生〉という言葉を口にしています。
 この事件を調査するべくエウロパへ赴いたエズラ・ガーニーとジョオン・ランドールでしたが、やがてエズラまでもが失踪してしまいます――自分が大丈夫であること、調査を中止して地球に戻ることをジョオンに言い残して。
 ジョオンは事態を打開する為、フューチャーメンに緊急呼び出しをかけました。要請に応えてエウロパにやってきたカーティス達は、真相究明とエズラの捜索に乗り出します。
 エウロパ人の不可解な態度の裏に隠されていたもの、それは古代デネブ帝国の遺産である、魅力的で危険な装置でした。

◎もう地球人では……

 地球人類が宇宙へ進出する手段を手に入れ、太陽系各所へ探検を行っていた時代。一人の冒険家ジョン・カーリーが隕石と接触事故に遭い、宇宙船外へ放り出されて命を落としました。
 しかし、カーリーは真の意味で死亡したのではありませんでした。生命活動が停止したまま宇宙空間を漂っていた彼の体は、ある男に発見され、蘇生措置を受けたのです。
 カーティス・ニュートンという名のその男は、カーリーの復活を歓迎しました。カーリーはカーティスの奇妙な仲間達の姿に戸惑いますが、それ以上にショックだったのが時代の移り変わりでした。
 長い年月が過ぎ去り、地球はもはやカーリーの故郷ではなくなっていました。知人達は何代も前に死に絶え、繁栄を享受する人々にとって惑星間旅行は既に冒険とは無縁です。カーリーは「こんなことのために、おれたちは死んだのか?」と自問します。
 酷く厭世的になったカーリーですが、フューチャーメンと行動を共にするうち、あることに気付くのです。この面子の中で最も不可解なのは、鋼鉄製ロボットのグラッグでも、アンドロイドのオットーでも、〈生きている脳〉サイモンでもなく、キャプテン・フューチャーの異名を持つカーティスであることに。

◎〈物質生成の場〉の秘密

 科学的探究心に取り憑かれた一人の男が、ある大胆な行動を起こしました。その男、ニューヨーク工科大学の核物理学者ガーランドは、キャプテン・フューチャーの不在を衝いて月面にある研究所へ忍び込み、そこに隠された情報を盗み出します。
 数日後、研究所へと戻ったカーティス達でしたが、証拠がほぼ完全に消されていたために侵入の形跡は記録に残っていませんでした。ところが、写真のように正確な記憶力を持つグラッグだけが、わずかに椅子の位置が動いていることに気付いたのです。
 改めて調査を行ったところ、確かに侵入者がいたらしいことが判明しました。容疑者としてガーランドの名が浮かび上がり、カーティスは〈物質生成の場〉に関する情報が盗まれたのだと推測します。
 ニューヨークの惑星警察機構本部へ赴いた一行ですが、既にガーランドは行方知れずでした。危険な〈物質生成の場〉の秘密をガーランドの手に渡さない為、フューチャーメンはエズラ・ガーニーを伴い銀河中心へと向かいます。
 けれども、カーティスの心の中には一つの恐れがありました。それは〈物質生成の場〉の神殿でも、ガーランドとの対決でもありません。
 カーティスが恐れていたのは、彼自身だったのです。

 一つ補足をしておきましょう。
 『衛星タイタンの〈歌い鳥〉』では、中国の詩の一節がサイモンの台詞中で使われています。

「今こそわたしは、
 血と肉の結びつきが、ただ、
 悲しみと寂しさをつなぐにすぎぬことを知ったのだ……」

 これは『長恨歌』の作者として有名な白居易氏による『念金鑾子』からの引用だと思われます(原文は「始知骨肉愛,乃是憂悲聚」)。白氏の娘が三歳で夭折してしまったときの心情を詠んだ詩とのことです。
 長編版におけるサイモンは、あまり情緒というものを解さないキャラクタとして描かれています。けれども、この詩をそらんじていたりするところを見ると、そうとばかりは言えないようです。本短編群ではむしろ、大人の落ち着きをもってカーティスを見守る、父親的な側面が強調されている印象がありますね。

 それとは対比的に、短編のカーティス・ニュートンにはピーター・パン的な子供っぽい部分が目立ちます。キャプテン・フューチャーの闇の部分がクローズアップされているわけです。
 これは必ずしも長編からの方向転換とは言えません。民衆の中に溶け込むことができない彼の孤独は第一作『恐怖の宇宙帝王』で既に明記されていますし、独断専行や無鉄砲さがトラブルの火種となったことも幾度かありますね。
 キャプテン・フューチャーは、亡き母エレーヌが今際の際に言い残した言葉をきっかけとして作り上げられたヒーローです。サイモンらに英才教育を受けてヒーローへと成長したカーティスですが、人のいない月面で暮らしていた為に社会的経験が不足しており、そのせいで大人になり切れないのかもしれません。
 しかしながら、〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉作中の世界は新たな大航海時代へ差し掛かろうとする時期に相当します。太陽系各所へ進出した人類が、更に銀河へ飛び出していく歴史の転換点であり、時代が彼のような英雄を必要としているのです。
 苦悩を胸の内に秘めながらも、カーティス・ニュートンは助けを求める人々の声に応えるヒーローであり続けるのでしょう。

この記事へのコメント

  • X^2

    何かの短編集に入っていた「鉄の神経お許しを」以外は読んだことがなかったのですが、むしろそれが例外的な内容だったのですね。他の作品もなかなか面白そうなので、機会があれば読んでみたいです。
    「〈物質生成の場〉の秘密」での「カーティスが恐れていたのは、彼自身」というのは何となく想像がつきます。ラルスタンとの対決の場面で、それを思わすような部分があったような気が・・・。記憶ちがいかもしれませんが。
    2009年04月25日 20:33
  • Manuke

    個人的には、短編のカーティスも結構お気に入りです。科学者としての探求心やサイモンへの敬愛の念で冷静さを失う彼は、完全無欠の英雄であるよりもずっと感情移入できます。
    2009年04月26日 01:03
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