ラジウム怪盗団現わる!

[題名]:ラジウム怪盗団現わる!
[作者]:エドモンド・ハミルトン


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の十九作目です。
 本シリーズはメインの長編二十作、短編七作、ミニ・エピソード類いくつか、そして番外編的な長編一作からなる大型シリーズですが、本書はメインの作家さんであるハミルトン氏が書かれた最後の長編に当たります。
 作中でフューチャーメンの前に立ちはだかるのは、老天才科学者のルウ・グウル。はっきり言ってしまうと、全話に登場する敵の中でもかなりの小者ですね(^^;)
 しかし、にも拘らずルウ・グウルはカーティスを苦しめます。ある意味、キャプテン・フューチャー最凶の敵と言えるのかもしれません。

 太陽系は、恐るべき海賊の跋扈により混乱の極みにありました。
 〈ラジウム怪盗団〉と名付けられたその海賊は、積み荷のラジウムだけを奪うという異質な存在です。どれだけ航路や時間を秘匿しても無駄で、ラジウムを積んだ貨物船はことごとく略奪の憂き目に遭っていました。ラジウムは産業・科学両分野で不可欠の貴重な物質であり、〈ラジウム怪盗団〉のせいで太陽系社会は恐慌状態に陥っています。
 そして今、極秘にラジウムを輸送していた老朽貨物船〈オリオン〉が、まさに〈ラジウム怪盗団〉の襲撃を受けていました。〈オリオン〉の若き通信士は、海賊のリーダーが一年前に死んだはずの邪悪な天才科学者ルウ・グウルであることを見て取り、密かにその情報を惑星パトロールへ送ります。しかし、ルウ・グウルはそれを目ざとく見つけ、通信士を殴って気絶させてしまいました。
 その通信士こそ、〈ラジウム怪盗団〉の尻尾を掴むべく変装し〈オリオン〉に潜り込んでいたカーティス・ニュートンだったのです。かつて自分を追いつめた仇敵キャプテン・フューチャーを捕らえたルウ・グウルは、〈忘却光線〉(幸福な夢を見られる代償として、心が破壊されてしまう光線)で彼の心を虜にしようとします。
 しかし、カーティスはルウ・グウルの裏をかき、自分と同じく囚われていた火星人の宇宙海賊ボルク・キング達と協力して脱走します。彼等が辿り着いたのは、海賊の集う小惑星イスカル。カーティスは自分も海賊の振りをしますが、もしキャプテン・フューチャーを憎む海賊達に正体がばれたら命はありません。
 果たして彼は無事フューチャーメンと合流し、そしてルウ・グウルの魔手から太陽系を守れるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、惑星ヴァルカンです。太陽系諸惑星の一員で、水星軌道の更に内側に位置します。
 ヴァルカンは本シリーズ固有の架空惑星ではなく、十九世紀において現実に提唱されたものですね。提唱者は海王星位置の予測で有名な天文学者ユルバン・ルヴェリエ氏で、水星の近日点移動問題を解決するために持ち出されたものです。(現在では、水星の近日点移動は一般相対性理論で説明可能とされ、ヴァルカンの存在は否定されています)
 ルヴェリエ氏の予測では、太陽-ヴァルカン間の距離は〇・一四天文単位とのことです。水星の近日点での距離が約〇・三一天文単位ですから、その半分以下になりますね。
 作中では、ヴァルカンは現実に存在するものとされています。つまり、たびたび登場する「九惑星」は間違いで「十惑星」が正しいはずですが、特殊な存在である為に勘定に入れられていないとのことです。(多分、後付け設定(^^;))
 ヴァルカンの形態に関しては、ある奇妙な設定が盛り込まれています。物理学的には少々難ありですけど、舞台としてはなかなか面白いのではないでしょうか。

 キャプテン・フューチャー最大のライバルと言えば、自他ともに認める宿敵・〈火星の魔術師〉ウル・クォルンですね。単体で最強の敵はおそらく短編登場のライニッド、最大勢力は〈冷たきものたち〉でしょう。また、直接敵対する訳ではありませんが、ミニ・エピソードに登場する怪盗カメレオンも彼に比肩する存在と言えるかもしれません。
 これに対し、ルウ・グウルは少々見劣りのする人物です。一見すると好々爺風なものの冷酷な目つきの太った老人で、身体能力はカーティスとは開きがあります。天才との触れ込みですけど、もっぱらその才能は専門とする放射線学に限られ、カーティス/サイモン/ウル・クォルンのような万能選手ではなさそうです。性格はサディスティックかつ自己中心的、失態も目に付きます。その目的は単純にお金で、権力的な野望は抱いていません。
 ところが、そのルウ・グウルが幾度もカーティスを追いつめることになります。作中ではカーティスを三回も虜囚としたり(三回とも逃げられますが(笑))、ジョオンに対する拷問をちらつかせてカーティスを苦しめたりします。更には、ルウ・グウルの意図を見抜けなかったカーティスが愕然とするシーンも存在します。
 これほどまでにカーティスが苦戦する理由、それはルウ・グウルが性格破綻者だからでしょうか。例えば、ルウ・グウルはカーティスに〈忘却光線〉を浴びせながら、同時にカーティスに対する好意を口にします。この台詞はまるっきりの嘘ではないらしいのが問題で、つまり彼は好意を抱く相手を嬉々として拷問にかけるタイプの人間のようです。
 太陽系一の天才であるカーティス・ニュートンにとって超常的な謎はむしろ挑戦のようなものですし、肉体的にも優れますから荒事はお手の物です。しかし、彼には人間というものを良く知らないという決定的な弱点が存在します。カーティスはおそらく、ルウ・グウルと対峙するには素直過ぎるのでしょう。
 ルウ・グウルは〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉中で最悪の性格を持つキャラクタですけれども、個人的にはその醜悪っぷりが結構お気に入りだったりします。:-)

この記事へのコメント

  • X^2

    シリーズの最後の方は、実は読んでいない話が多いので、記憶の中でごちゃごちゃになっています。「バルカン」の話もウル・クォルンがらみだったと勘違いしていました。

    > これほどまでにカーティスが苦戦する理由、それはルウ・グウルが性格破綻者だから

    なるほど、ポーの「モルグ街の殺人」に似たような説明がありましたね。
    2009年04月11日 15:08
  • Manuke

    『モルグ街の殺人』、読んだことがなかったので、青空文庫に置かれていたものを読んでみました。
    警視総監に対するデュパンのコメントの辺りでしょうか?
    しかし、ポー氏のお話は面白いですね。トリックは今読むと少々難ありですけど(^^;)、デュパンのキャラクタといい、推論の行い方といい、元祖でありながら探偵小説のエッセンスが盛り込まれているのは感慨深いです。
    2009年04月12日 00:29

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