危機を呼ぶ赤い太陽

[題名]:危機を呼ぶ赤い太陽
[作者]:エドモンド・ハミルトン


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の十八作目です。
 これまでの作中世界では、あくまで人類は太陽系内をその活動の場としていましたが、本作では太陽系外への植民が始まっているようです。外宇宙への人類進出にカーティス・ニュートンが大きな役割を果たし、後世にその名を残すことになるわけですけれども、本作はそのとっかかりと言ったところでしょうか。

 ヴイトロンは、もはや太陽系の人々の人生に欠かせなくなった長寿の薬でした。この薬のおかげで人間の寿命は百歳以上にまで伸び、人々はゆとりを持った人生設計ができるまでになっています。
 しかし、このヴイトロンの主要供給源である太陽系外植民惑星ルウでは、騒動の起きる兆しがあったのです。友好的な原住民であったはずのルウ人が態度を翻して農場を襲い始め、植民地の人間もルウ人に腹を立てていました。もし反乱が起きヴイトロンの輸入が途絶えたら、太陽系がパニックに陥ることは必定です。
 長寿薬ヴイトロンを開発したフィリップ・カーリン/ザモク/リン・サオの三人の科学者は、太陽系政府主席の執務室へと招かれました。当初は事態を絶望視していたカーリン達ですが、そこへ姿を見せたキャプテン・フューチャーとその仲間達を信頼し、ルウ人を煽動した人間を探る潜入捜査に協力することにします。
 場面は変わって金星のスラム街。宇宙ゴロツキのラブ・ケインが人目を避けて酒場へ逃げ込んだところへ、彼を捕らえようとキャプテン・フューチャーが姿を現しました。ところが、ほんの偶然からケインの原子銃が先に火を噴き、キャプテン・フューチャーは重傷を負って倒れてしまったのです。ケインは逃げ出し、惑星ルウへ向かう移民船〈スター・フェアラー〉で高飛びを図ります。
 しかし、その一幕は敵の目を欺く為の偽装でした。撃たれたふりをしたのはカーティスに化けたオットーで、ケインの方こそが本物のカーティスだったのです。自分を負かしたゴロツキに変装し、キャプテン・フューチャーは惑星ルウへの潜入するのですが……。

 本書の注目ガジェットは、ヴイトロン("Vitron")です。
 ヴイトロンには人間の体内にある老化の毒素を破壊する薬効があり、長生きの薬として青年期を十年程度延長してくれるようです。単に余命が延長されるのではなく、若い状態が長く続くというのが利点ですね。逆に言うと、歳を取ってからの摂取はあまり延命効果がないということかもしれません。
 ヴイトロンは超ビタミン剤("super vitamin")だとされています。ビタミンは生命活動に必須かつ体内で合成できない有機物のことですから、分類としては適切でないように思われるのですが、多分あまり深い意味はないのでしょう(^^;)
 本作の年代は明記されていませんが、おそらくシリーズ冒頭から十年以上の時間が経過しているものと思われます。第一作『恐怖の宇宙帝王』ではカーティスの年齢は二十代半ばですから、本作では三十代もしくはそれ以上になるのでしょうか。にも拘らず彼が「若者」と表現されているところを見ると、カーティス自身もヴイトロンで若々しさを保っているのでしょう。
 〈生命水〉や電気人間のような不老不死には否定的なカーティス君も、ちょっとした長寿薬ならOKというスタンスのようですね。:-)

 本巻ではその他、カンガス("The Kangas")と呼ばれる種族の存在が明らかになります。
 カンガスは三十億年以上前、銀河系を支配していた知的生命で、流動体の塊に目が二つという不気味な姿をしています。個体数は少なかったのですが、その代わりとして人工的に生み出した原生動物をその手先としていたとのことです。
 カンガスは別の銀河から飛来した人間との戦いに破れ、滅ぼされてしまいます。その後、この人間達はデネブ文明を築いて繁栄を謳歌し、更には太陽系に移民して地球人へ繋がっていく訳です。
 カンガスの別名は〈古きものたち〉("The Old Ones")で、何となく〈クトゥルー神話体系〉の旧支配者を思い起こさせますね。但し、カンガスはあくまで私達の銀河系を支配していたのみで、宇宙全体を手中に収めていたのではなさそうです。かつての宇宙支配者は、短編版のエピソードに登場することになります。

この記事へのコメント

  • X^2

    もしかしてカンガスは、「輝く星々のかなたへ」の「見張り」と同じ種族でしょうか。「見張り」の方は、見かけはともかく「古の知者」といった感じの種族でしたが、こちらでのカンガスの描写はもっとおぞましい、まさにクトゥルー系な雰囲気ですね。
    2009年04月25日 20:40
  • Manuke

    確かに似ていますね。カーティスとサイモンが〈見張り〉の形状を見て、この宇宙では進化し得ないと言っていましたから(根拠は不明ですが(^^;))、そうするとカンガスも別の宇宙にルーツを持つということになりそうです。
    〈見張り〉のうち活動的な勢力が、〈物質生成の場〉を脱して銀河を支配したとか? 想像を巡らすのも面白そうです。
    2009年04月26日 00:38
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