惑星タラスト救出せよ!

[題名]:惑星タラスト救出せよ!
[作者]:エドモンド・ハミルトン


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の十二作目です。
 当初は太陽系が舞台だった本シリーズも、その後は何億年もの過去の時代、そして遥かな銀河系中心へと活躍の場を広げてきた訳ですが、本作では更に別の方向へと足を伸ばすことになります。
 また、今回は設定に仕掛けが施されているのも面白い点ですね。作中にヒントもありますから予想できてしまう人も多いかと思われますけど、それでもついニヤリとさせられてしまいます。

 ハレー彗星の事件(『彗星王の陰謀』参照)が終わった後、火星人の科学者チコ・スリンは異次元侵略者アルルスの残した装置を調査し、それを元に他の宇宙と交信することに成功しました。彼は伝送装置を作り、別の宇宙からの客を太陽系へ招くことにしたのです。
 チコ・スリンはこの重要な実験にキャプテン・フューチャーの同席を求めましたが、あいにくと揉め事を解決するために金星へ出向いており、〈生きている脳〉サイモン・ライトと女性諜報員ジョオン・ランドールだけが立ち会うことになります。
 サイモンは別の次元にビームを送ることはできないと考えており、チコ・スリンの実験には懐疑的でした。しかし、サイモンの疑念は杞憂に終わり、別宇宙にある惑星タラストから二人の男女が、こちらの世界へ無事伝送されました。
 そこへ、仕事を終えたカーティスら三人が姿を見せます。タラスト人ゲルデックとその妹シーリは、カーティスの赤毛に酷く驚き、ぜひ惑星タラストの窮状を救って欲しいと頼み込みます。
 彼等の宇宙はエネルギーが枯渇しつつあり、かつて宇宙を征していた人間は敵対する種族〈冷たきものたち〉との戦いに破れ、今は惑星タラストに押し込められていました。人々は絶望し、〈冷たきものたち〉に屈してしまおうとする意見も出てきたのです。しかし、ゲルデックはやがて再び宇宙が活力を取り戻すと信じていました。
 そして彼等の世界では、遥か昔に宇宙を征服した赤毛の英雄が窮時に蘇って人々を助けるという伝説が残っていました。ゲルデックはカーティスに、その英雄に扮して欲しいと懇願したのです。
 その願いに応え、キャプテン・フューチャーは三人の仲間と共に異次元の宇宙へと旅立ちます。果たして彼等は、惑星タラストの人々を助けることができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、〈冷たきものたち〉です。
 〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉には毎回手強い敵が登場しますが、本作の〈冷たきものたち〉はその中でも最大級の勢力を持つ相手でしょう。何しろ、一つの宇宙を支配下に収めているわけですから。
 〈冷たきものたち〉の外観は、人間の骸骨に似ています。但し、実際の骨とは異なり、手足や胴体は人間同様の太さを持ちます。言わば、外骨格化した人間といった感じでしょうか。ドクロ状の頭部には、瞬きしない大きな目が埋め込まれています。
 呼吸をしないため真空中でも宇宙服を着る必要がなく、名前通り寒冷な環境を好むようです。精神的には冷酷かつ残虐で、生活圏が重ならないはずの人間とも共存を図ることはありません。
 この生物は自然発生したものではなく、数千年前にある科学者によって生み出された人工生命体です。寒冷化していく宇宙でも生き延びることができるよう、志願者の人間を人工進化させたものだったのですが、それが裏目に出てしまった訳ですね。
 作中ではキャプテン・フューチャー達が〈冷たきものたち〉に対抗する術を見いだしますが、果たしてそれで解決と言っていいのか少々疑問ではあります。曲がりなりにも知的生命体ですし、全宇宙に分布している相手です。その上、防ぐことも結構簡単なような……(^^;)

 作中の面白いエピソードとして、〈喪心の刑〉があります。
 フューチャーメンはある経緯から、捕らえられて刑罰を受けることになります。これは、肉体から精神を引き剥がしてしまうというもので、肉体の方は〈喪心の堂〉に安置され、棺の中で眠り続けます。
 その一方、精神の方は現実世界に一切干渉できない形で幽霊のように浮遊することになります。壁をすり抜けてどこへでも行くことができ、周囲を見ることも可能ですが、受刑者の側から何かを伝えることはできない、完全な傍観者となります。しかも、同じ〈喪心の刑〉を受けた者同士ですら意思疎通は不可能です。
 この刑罰、カーティスにはずいぶんと堪えたようで、勇敢な彼のキャラクタとしては珍しいことに、他者に弱音を吐く場面があります。行動派のカーティスには、指をくわえて見守るしかない状況が辛かったのでしょう。また、人造人間のオットーにとってもかなり恐ろしい経験だったようです。
 他の人物がどう感じていたかはあまり描写されていませんが、サイモン辺りは何もできない期間を嬉々として思索に費やしていそうですね(脳だけで動けない経験が数十年もありますし)。フューチャーメンで一番肝が据わっているのは案外サイモンだったりするような気がします。:-)

この記事へのコメント

  • X^2

    > 曲がりなりにも知的生命体ですし、全宇宙に分布している相手です。

    ほとんどの宇宙もので言えるのですが、作者自身も「舞台の広大さ」を感覚的につかめていない事が多いですね。作者も読者も、結局は現実世界での出来事のアナロジーとしてしか理解できないので、仕方ないのでしょうが。

    〈喪心の刑〉ですが、スターウルフの第二話の装置がかなり似ていませんか?
    2009年02月21日 14:31
  • Manuke

    まあ、スペースオペラの場合は「大宇宙を所狭しと」が売りですから、ある程度は仕方ないですけど(^^;)
    「対抗策を〈冷たきものたち〉との交渉に使う」ぐらいにしておけば良かったのに。

    『スターウルフ』の方はは未読ですのでちょと分からないですが、同じハミルトン氏のようですから設定を活用したのかもしれませんね。
    2009年02月22日 00:40
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