月世界の無法者

[題名]:月世界の無法者
[作者]:エドモンド・ハミルトン


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の十作目です。
 本シリーズはパルプ・ヒーロー(パルプ誌に掲載されたヒーロー物語)の一つとして、一話完結のストーリーが多いのですが、今回は前作『輝く星々のかなたへ!』からの続き物ですね。
 興味深いのは、これまで正義の象徴とされてきたキャプテン・フューチャーが、本作では一転して悪人のレッテルを貼られてしまう点です。シリーズ後半の作品では、完全無欠な正義の味方ではない、人間としてのカーティス・ニュートンの姿が描かれるようになりますが、本作はその兆しが見て取れると言えるかもしれません。

 水星の窮状を救うべく、銀河の中心へ向かったフューチャーメン。しかし、それは彼等の消息を知らない人々の目には、キャプテン・フューチャーの失踪と映りました。数ヶ月もの間姿を見せないキャプテン・フューチャーは、もはや死んでしまったのだと考える者が出始めたのです。
 そして、惑星企業家ラルセン・キングとその手下は、これまでキャプテン・フューチャーの住居として半ば不可侵領域とされてきた月を勝手に探索し、そこで巨大なラジウム鉱脈を発見します。莫大な利益をもたらすラジウム大鉱床をこれまで秘匿してきたとして、キングは太陽系の人々に対し、キャプテン・フューチャーは利己的な食わせ者だったのだと喧伝しました。
 ちょうどそのとき、〈物質生成の場〉の秘密を携えてフューチャーメンが太陽系へと帰還しました。太陽系政府主席ジェイムズ・カシューに釈明を求められたカーティスは、未来に訪れるだろう非常事態のためにラジウム鉱脈の存在を秘密にしていたのだと説明し、カシュー主席もそれに納得します。
 しかし、そこにはキングの罠が仕掛けられていました。執務室へ窓から侵入してきた〈リモート・ロボット〉がカシュー主席を殺害し、そして殺人の汚名はカーティス・ニュートンになすり付けられてしまいます。
 ラジウム鉱脈を私利私欲で独占し、更には太陽系政府主席を殺した殺人犯――キャプテン・フューチャーは英雄から一転してお尋ね者となってしまうのです。

 本書の注目ガジェットは、月人です。
 〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の世界では、かつて月には呼吸可能な大気があったと設定されており、当時の月面には動植物が存在しました。そのうち、知的生命体が月人と呼ばれるものです。
 太陽系九惑星に棲息する人間は全てデネブからの移民であり、共通の祖先を持つ訳ですけれども、この月人はそれには該当しない別種族のようです。全体のフォルムは人間に似通っているものの、首はなく、鼻は顔面に穴が二つ開いているだけ、手足は平らで水かきが付いています。
 月人は既に滅んでしまったと考えられていたのですが、実際には空気の残る地下へと移住し、原始的な生活を営んでいたことが本作中で発見されます。彼等は地下にあるラジウム鉱の山を聖なる〈光の山〉と崇め、その光の元で暮らしています。つまり、ラジウムの放つチェレンコフ光を明かりとして利用しているようですね。:-)

 本作にはもう一つ、面白い設定が登場します。
 パトロール艇に追われたキャプテン・フューチャーは小惑星エロスへと逃げ込むのですけど、このエロスでは時間が百分の一のペースで流れているとされています。エロスに辿り着いた直後は、来訪者にはその住人達が静止しているように見えるのですが、数分が経過すると次第に普通に動いて見えるようになります(外来者が磁場の影響を受け、テンポが低下していくため)。
 この小惑星に滞在すると、一日過ごしただけで外の宇宙では百日が経過してしまうという、浦島太郎状態ですね。実はフューチャーメン、このときには急ぎの用事があったのですけど、そんな状況で逃げ込む場所としてはあまり適切ではないような……(^^;)

 カシュー主席の殺人容疑をかけられたカーティス・ニュートンは、捕縛されることを良しとせず宇宙艇〈コメット〉で逃走を図る訳ですけれども、これは褒められた行動とは言えませんね。本来なら素直に逮捕された上で身の潔白を証明するべきですし、キャプテン・フューチャーほどの才能があれば偽の証拠の嘘を暴くことも容易なはずです。
(この点は作者のハミルトン氏も認識していたようで、後のストーリー中でサイモンがこのカーティスの行動を、軽はずみな暴走だったと指摘する場面があります)
 カーティスはサイモン・グラッグ・オットーの三人に英才教育を施され、幼少時には他者との接触がありません。非常に高い倫理観を持つ一方、世俗に疎いという弱点も抱えています。
 仮にカーティスが暴走したとしても、彼を崇拝するグラッグとオットーがその行動を咎めることはないでしょう。フューチャーメンで唯一それを制止可能なのはサイモンですが、彼は学徒で俗世間にはあまり関心がなく、更にカーティスを息子として愛しているが故にどんな行動であれ運命を共にすることを厭いません。
 けれども、常人を超えた天才であるキャプテン・フューチャーを、警察が物理的手段で拘束することは困難です。
 もちろん、カーティスが平和を愛する正義の味方であることは一貫して変わりませんが、同時にどこか危うさを秘めている青年なのです。そして、このアンバランスな部分は、キャプテン・フューチャーというキャラクタの大きな魅力でもあります。
 本作の題名『月世界の無法者』(原題:"Outlaws of the Moon")はお尋ね者になったフューチャーメンの状況を指しているのでしょうが、キャプテン・フューチャーに法を強要できないことを暗喩しているようにも感じられますね。

この記事へのコメント

  • X^2

    この辺りからそろそろ記憶が曖昧で、「輝く星々のかなたへ!」と直接繋がっていたのも覚えてませんでした。題名についての考察はなるほどです。「無法者」だとヤクザのイメージですが、Outlawは「法に縛られない」というやや別の意味にもなりますね。
    半減期が短いラジウムの鉱山なんて、たとえ親元素のウランが大量に存在してもあり得ないですが、ハミルトンにも一般の読者にも、ラジウムは「とにかく凄い、魔法の物質」というイメージだったんでしょうね。
    2009年02月07日 16:51
  • Manuke

    ラジウムは作中では超重要物質扱いですねー。
    ただ、二十世紀初頭におけるラジウムは、現在のお金に換算すると一グラム数千万円にもなったと聞きますので、そこは仕方がないのかも(^^;)
    2009年02月08日 00:47

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