太陽系七つの秘宝

[題名]:太陽系七つの秘宝
[作者]:エドモンド・ハミルトン


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 宇宙冒険活劇〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の五作目です。
 さて、本巻ではいよいよシリーズ最大のライバルが登場します。これまでの悪漢とは異なり、カーティス・ニュートンに匹敵する頭脳を備えながらも、その性格は冷酷かつ邪悪と、好対照を成す人物ですね。
 その名はウル・クォルン――別名〈火星の魔術師〉です。

 太陽系にわずか数個しか存在しない宝石、“神秘の石”。それは太陽系外由来の隕石から作られており、古代火星王朝時代の遺物と言われていました。そして、その秘密を解き明かした者は無限の力を得られるという伝説があったのです。
 〈太陽系博物館〉所蔵の“神秘の石”を調査していた考古学者ケネス・レスター(『恐怖の宇宙帝王』に登場)は、その秘密を解明する方法を発見しました。事の重大性を認識したレスターはキャプテン・フューチャーに知らせようとしたのですが、折り悪くフューチャーメンは休暇中で連絡が取れません。
 落胆したレスターの前に、突如ある人物が姿を現します。それは非道な実験を行った咎で刑務所送りになっていた科学者ウル・クォルンでした。彼はレスターを殺害し、“神秘の石”をそこから持ち去ります――無限の力を手に入れるために。
 一方、地球で開催されていた太陽系大サーカスをお忍びで楽しんでいたキャプテン・フューチャー一行は、偶然そこで科学を出し物にしているウル・クォルンを見かけます。その後、ケネス・レスター殺害及び“神秘の石”盗難事件を知ったカーティスは、殺害に使われた武器から犯人がウル・クォルンに違いないと当たりを付けました。
 太陽系の秘宝である“神秘の石”は全部で七つ。それを先に手に入れるのは、正義の天才カーティス・ニュートンか。はたまた悪の天才ウル・クォルンか……。

 本書の注目ガジェットは、“神秘の石”です。
 “古代火星隕石”と呼ばれる大昔の隕石中に存在する結晶を磨いたもので、七つある石はそれぞれ異なる色をしています。
 〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の世界では、火星には数十万年前に栄えた文明があったとされ、“神秘の石”はこの時代の科学者スロ・スウンが作ったものです。スロ・スウンは自分の発見を“神秘の石”の中に書き残しており、この記録こそが無限の力の秘密なわけです。
 但し、この“神秘の石”を通じて得られるのは、確かに言葉通り「宇宙を自分一人のものにできる」ものであり、事実凄い秘密ではあるのですけど、正直なところ悪用に向いているとは言いがたいのではないかと感じてしまいます(^^;) ウル・クォルンが当初から秘密の正体を知っていたのかどうかは分かりませんが、即戦力になるようなものを期待していたのだとしたら、少なからず失望を味わったかもしれません。:-)

 〈火星の魔術師〉ウル・クォルンは、カーティスと比肩する程の天才でありながら、彼とは異なり悪の道を歩む科学者です。
 火星人の赤い肌、金星人の整った容貌、地球人の黒い髪を併せ持つ混血で、やや小柄ですが身体能力も優れているようです。誰も信用せず、自分の手下であろうと邪魔になれば容赦なく殺してしまいます。恋人の火星人ヌララにすら心を許してはいません。
 更に、彼はキャプテン・フューチャーと因縁浅からぬ人物です。ウル・クォルンの父はカーティスの父母を殺害した犯罪者ヴィクター・コルボであり、カーティスから見ると両親の敵の息子なのです。逆に、ウル・クォルンから見るとフューチャーメンこそが父の敵でもあるわけですね。
 カーティスとウル・クォルンは相容れない存在ですけど、同時に互いを尊敬もしているようです。敵意と敬意の入り交じった複雑な感情が、彼をキャプテン・フューチャーのライバルたらしめているのでしょう。

 本作ではフューチャーメンがウル・クォルンに近づくため、変装して太陽系大サーカスに潜り込む辺りが愉快です。
 元々変装が得意なオットー、彼に変装術を学んだカーティスはもとより、グラッグは人工皮膚を着込んで怪力の大男に変じ、そしてサイモンはどんな質問にも答えられる〈考える機械〉という触れ込みのインチキ道具の振りをします(笑)
 サイモンはともかく、身長七フィートの鋼鉄製ロボットであるグラッグが人間に化けるのはかなり無理があるような気がしますけど、サーカスの団員や客は騙されていたようです。原作中にはグラッグの姿に関する描写は少ないのですが、案外ほっそりした体型なのでしょうか。

この記事へのコメント

  • X^2

    仰る通り、スロ・スウンの発見は確かに凄いものなんですが、軍事的にはどの程度意味があるのかなという気がしますよね。「宇宙」を自分一人のものに出来る、という触れ込みはある意味正しいのですが。
    グラッグの変装ですが、そのシーンの挿絵では(この場面に限らず)どうみても変装していないので、余計に「あり得ないでしょ」と突っ込みたくなります。あれにだまされるクォルンって結構お人よし?
    そういえばグラッグの身長が"3m"とあったのはジュブナイル版でのコルボとサイモンの対峙シーンだった気がします。だから多分原作の設定では無いですね。
    2009年01月03日 15:08
  • Manuke

    ウル・クォルンの作戦はどうも他力本願のものが多い気がします(^^;)
    自身が天才科学者であることをもっと活用すべきだと感じますが、逆にだからこそ、小手先の技ではキャプテン・フューチャーに通用しないと考えているのかもしれませんね。
    変装の件も含めて、悪人ではあるものの素直な性格なのかも。:-)

    グラッグの身長の方は、なるほどジュブナイル版ですか。そうした分かりやすい設定変更は確かにありそうですね。
    2009年01月04日 00:24
  • 超過去の遺物のプログラマw

    グラッグの身長は7フィート(だいたい2メートル10センチ)っすw
    2016年05月17日 17:08
  • Manuke

    グラッグはハヤカワ文庫版のイラストだと、まったくもって変装できる気がしないんですよねー。特に顔が(笑)
    創元推理文庫の鶴田謙二氏版はスリムではあるので、頑張ればどうにか誤魔化せる…かも(^^;) でもやはり相当な大顔になりそうですけど。
    アニメ版は元々人間に近いフォルムですが、こちらもパーツをいくつか取っ払わないと難しそうです。
    2016年05月19日 01:22
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