知性化戦争

[題名]:知性化戦争
[作者]:デイヴィッド・ブリン


 本書はデイヴィッド・ブリン氏の一大宇宙史〈知性化シリーズ〉に属する作品です。
 時間軸の位置づけとしては、前作『スタータイド・ライジング』とほぼ同時期のようです。一大発見をしてしまったがために銀河中に大騒動を引き起こした探検船〈ストリーカー〉。『知性化戦争』はその騒ぎを別の視点から描くものですね。
 このシリーズのご多分に漏れず、本作も大風呂敷と多数の登場人物で読者を幻惑してくれます(笑) 次から次へと視点が移動し、様々な事件が同時進行し、読み進めていく間は本当に収拾がつくのか不安に駆られますが、大丈夫。ちゃんと決着します。
 〈ストリーカー〉の大発見を我が物にしようとする貪欲な列強種族グーブルーにより、悪辣な手で占領されてしまう地球の植民惑星ガース。そこに住んでいた人間、ティンブリーミー、そしてネオ・チンパンジー達は、果たして惑星の主導権を鳥型エイリアンから奪還することができるのでしょうか?

 物語はまず、〈ストリーカー〉が巻き起こした騒乱から始まります。
 銀河の外れで古代の巨大船団を発見してしまった地球の探検船〈ストリーカー〉。その秘密を自分達だけのものにせんと、好戦的列強種族の戦艦が続々と〈ストリーカー〉の元へ押し寄せ、追いかけ回します。そして同時に、地球自体を含む地球種族系惑星も武力による侵攻を受け、交戦状態へと陥ってしまうのです。
 地球の植民星ガースも例外ではありませんでした。ガースは人間及びネオ・チンパンジー(人間によって知性化されたチンパンジー)を主な住人とする惑星ですが、それほど重要な拠点ではないために、自分達を守るだけで手一杯の地球から救援が来ることは期待できません。わずかにいた異星人の外交官達は列強種族の侵略を恐れ、次々とガースから脱出していきます。
 そして現れたのは、鳥から進化した自己中心的な好戦的種族グーブルー。ガース防衛軍はそれを迎え撃とうとしますが、彼我の戦力差は圧倒的であり、あっさりと蹴散らされてしまうのです。大破した宇宙艇の脱出カプセルでなんとかガースへ戻ることができたのは、チンパンジー兵士のファイベン・ボルジャーだけでした。
 一方、惑星提督の息子である地球人青年ロバート・オニーグルと、ティンブリーミー大使の娘アサクレーナの二人は、親達の指示に従ってガースの山岳部へ身を隠します。ところが、不注意による事故でロバートは怪我をしてしまい、アサクレーナはロバートを救うために近くの集落へ助けを求めます。そしてそこで、ガース住人が行った犯罪行為を目にしてしまうのです。
 惑星ガースを征服したグーブルーは、卑劣にも人質ガス(解毒剤を飲まないと死んでしまう)を建物という建物に散布し、地球人をほぼ全て拿捕しました。ガース住人は主族である人間を失って途方に暮れるネオ・チンパンジーばかりになってしまいます。
 さらに、グーブルーはティンブリーミー大使館に隠されていた秘密情報を入手し、ガースリングと呼ばれる準知的生物の存在を知ります。ガースリングを母星へ連れ帰れば大金星であり、グーブルー達は何としてもガースリングを手にしようとやっきになります。
 しかしこのガースリング、実はとある秘密が隠されていたのです。これを巡って、惑星ガースは大錯綜を迎えることになります(^^;)

 本書の注目ガジェットは、シリーズ名でもある知性化です。
 この作品群の背景として、五つの銀河中に棲息する全ての知的生物は他種族によって知性化されたものと設定されています。生物は知性の芽生え段階である準知的生物までは進化するものの、銀河文明に参加できる知的生物になるには他の種族の助けが必要なのです。
 その知性化のプロセスが、本書では少しばかり踏み込んで描写されます。基本的には遺伝子改造を主としているようですが、同時に優生学的な選別も行われています。優れた形質を示した者はより多くの子孫を残すことができ、逆に精神的・身体的に好ましくない者はそれを禁止されてしまうわけです。知性化を受ける側にとっては、あまり気持ちのいいものではありませんね(^^;)
 類族(知性化される種族)はその知性化の進み具合を計るために、段階によって「知性化の儀式」と呼ばれるものを幾度か受けます。中立な立場の知性化委員会よって、試験による知性化進捗の確認、及び主族(知性化を行う種族)が過度に類族へ害を与えていないかを調べるもののようです。但し、実際には色々と不正が行われることもあります。
 銀河文明種族にとって、準知的生物を知性化していくというサイクルは最も重要な行動のようです(種族単位での繁殖行為と言えるかも)。このため、種の絶滅に繋がるような環境破壊は忌むべきこととされています。

 本作で描写される銀河文明種族もまた見所です。
 惑星ガースへの侵略を行うグーブルーは鳥型種族で、騒がしく、そして悪辣な性質です。通常の民は中性ですが、貴巣族と呼ばれるグループの者は生殖行動のために三人でつがい(?)となり、一人が雌、後の二人が雄となります。雌が主導権を握ることになるため、三人は文字通り『雌雄を決する』為に権力争いをすることになります。彼等は『3』という数にこだわりがあるようで、例えば「わたしを行政本部へ先導し、連れていき、送りとどけよ」のように言葉を三つ繰り返す特徴があります。(三段活用?(笑))
 また、地球種族最大の庇護者であるティンブリーミーも風変わりです。彼等は高い適応能力を持ち、体を用途に合わせて変形させることができます(ガースでは主に人間に似せた姿で行動)。テレパシーに似た、グリフと呼ばれる半ば視覚化された感情をやりとりする能力があります。しかし、その最大の特徴はなんといっても性格ですね。とにかくユーモアを愛し、謎を好み、非常に狡猾です。悪戯大好きなタチの悪い連中ですが(^^;)、その狡猾さのおかげで銀河文明中でも有力な種族となっているようです。

 視点を持つ登場人物は、前作『スタータイド・ライジング』ほどではないものの、かなりの人数に上ります。その中でも特に魅力的なのが、ネオ・チンパンジーのファイベン、そしてウサカルシンとコールトの凸凹コンビです。
 一応、主役級の人物としてロバートとアサクレーナというカップルがいるのですが、実のところ本作で最もヒーロー然としているのがファイベンです。ちょっとシニカルな部分があるものの、有能でタフガイのファイベンは八面六臂の活躍を見せてくれます。チンパンジーではありますが、実に格好いいキャラクタと言えるでしょう。
 一方、ウサカルシンはティンブリーミーの、そしてコールトはテナニンの大使です。真面目で無骨かつ朴念仁のコールトに対し、ウサカルシンはウィットに富んだ悪戯好きの人物で、この対比が笑いを誘います。それぞれ自分の種族内では、コールトが軽薄、そしてウサカルシンは生真面目と、全く逆の評価を受けているらしいのも面白いですね。性格は正反対なのですが、この二人は意外と仲良しのようで、銀河種族達全員が必ずしも陰鬱な敵対関係にあるのではないことを印象づけてくれます。

この記事へのコメント

  • クロンドルの炎

    この間はコメントありがとうございます。
    ここで取り上げてる、知性化戦争も知性化シリーズものですね。オレがこの巻を読んで最も印象深かったのは、ウサカルシンとコールトが徒歩で旅を続ける中での一コマで、コールトが小動物を相手に話しかけてるシーンです。愚直で堅物のテナニンですが、小さな生き物に対して覗かせる意外な愛情に、妙に感動してしまった記憶があります。
    ところでManukeさんがこれまで読んだSFで、どれが面白かったですか?。オレはリバーワールドシリーズや、ヴァレンタイン卿シリーズといった、ハード系じゃなくファンタジーぽいのが好みです。まあ、どのSFでも一旦読み始めると止まらなくなるんですが・・・。
    2006年02月20日 07:40
  • Manuke

    To クロンドルの炎さん

    テナニンは列強種族なのに朴訥な印象があって良いですよねー。
    私は『スタータイド・ライジング』での、〈クロンドルの炎号〉偵察艇の斥候とトムの会話が好きだったりします。
    この『知性化戦争』でも、コールトはウサカルシンと並んでお気に入りキャラクタですし。

    面白かったSFを少数に絞るのは難しいのですが(笑)、あえて挙げるとするとやはり『天の光はすべて星』(フレドリック・ブラウン氏)と、近々レビュー予定の『はだかの太陽』(アイザック・アシモフ氏)ですね。私はアシモフファンですから、氏の作品の多くがお気に入りリストの上位に入ります。
    ファンタジー傾向のお話では、ロジャー・ゼラズニイ氏の〈真世界シリーズ〉が好きです。〈リバーワールド・シリーズ〉は途中まではとても面白いのですが、ネタ明かし部分がちょっと納得できませんでした(^^;)
    2006年02月20日 23:17
  • むしぱん

    知性化シリーズは「スタータイド」とこの「戦争」しか読んでないのですが・・・SF版「坂の上の雲」という感じがしました。列強諸属に立ち向かう地球の姿は、列強諸国に立ち向かう明治の日本のようで、ブリン氏は日本に造詣が深いようだから、そのへんも意識してるのかなあと。このあたりのこと、なんかの解説とかに書かれてるのかもしれませんが・・・
    私はどうせ仕えるならチンパンよりは、イルカの上官に仕えてみたいです。
    2011年01月15日 19:40
  • Manuke

    詳しいことは私も分からないのですが、日本通のブリン氏のことですからあり得るかもしれません。
    ただ、『サンダイバー』解説にて大野万紀氏が、「若者が頑迷な老人を知恵と勇気で出し抜く」という構図が人気の高いモチーフだと指摘されていますので、割と普遍的に当てはまるものなのかも(^^;)
    2011年01月17日 00:35

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