恐怖の宇宙帝王

[題名]:恐怖の宇宙帝王
[作者]:エドモンド・ハミルトン


 スターシップが広大無辺な宇宙を所狭しとばかりに飛び回って敵宇宙船とビームの応酬をしたり、悪漢やBEM("Bug Eyed Monster":複眼の怪物)達からヒロインを救い出す――スペースオペラは時としてそのデタラメ加減や安易さを揶揄されることもありますが、やはりSFの中の一大ジャンルであることは否めないでしょう。何より、面白いのだから良いのです(^^;)
 そのスペースオペラというジャンルの中でも、とびっきりのヒーローと言えばこの人ですね。三人の風変わりで頼りになる仲間を従えた、天才にして運動神経抜群な好青年。助けを求める人々の声に応え、難事件を次々と解決しては去っていく、赤毛の憎いヤツです(笑)
 時は未来、所は宇宙。光すら歪む果てしなき宇宙へ、愛機〈コメット〉を駆るこの男。宇宙最大の科学者であり冒険家、カーティス・ニュートン――だが人は彼を、キャプテン・フューチャーと呼ぶ!

 地球人類が太陽系各所へ進出を果たし、各惑星の住人と交流するようになった、そんな時代の物語です。太陽系九惑星(執筆当時はもちろん冥王星も惑星の仲間です(^^;))の人々は、高度に発達した科学文明を謳歌していました。
 しかし、光あるところ闇あり。様々な謎の怪事件や、科学技術を悪用した犯罪者が無辜の民を苦しめることがしばしば起きました――時として惑星警察機構の手に負えなくなる程の。
 太陽系政府主席ジェイムズ・カシューは、今まさにそうした事件に直面していました。〈宇宙帝王〉を名乗る謎の人物が木星支配を狙い、人間を野獣へと退化させる〈先祖返り〉事件を引き起こしていたのです。調査のために木星へ送り込んだ諜報員までもが、〈先祖返り〉の被害に遭う始末です。
 ここに至りジェイムズ・カシュー主席は、これまで数々の難事件を解決してきた正義の青年、キャプテン・フューチャーに助けを求めます。呼び出しに応じたキャプテン・フューチャー、そして彼の仲間たるフューチャーメンは、事件解決をカシューに約束し愛機〈コメット〉で木星へと向かったのです。
 途中の妨害をものともせず木星へ到着した彼等は、旧友の惑星パトロール指令エズラ・ガーニー、そして美しき秘密諜報員ジョオン・ランドールと合流し、〈先祖返り〉の調査と〈宇宙帝王〉の正体究明を始めます。
 果たしてキャプテン・フューチャーは、悪逆非道な〈宇宙帝王〉の企みを阻止できるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、木星と〈大火炎海〉です。
 〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の世界では、木星はガス惑星ではなく、有毒な雲の下に人間が呼吸可能な大気と固い地面が存在することになっています(これは木星だけでなく、土星・天王星も同じ。海王星は海の惑星です)。
 住人である木星人は、緑色の肌で手足が水カキ状になっていますが概ねヒューマノイドです。現在では地球人と比較すると未開の種族ではあるものの、古代にはかなり高度な文明が存在していた模様です。
 〈大火炎海〉は木星地表に存在する溶岩の海で、東西の幅が四万キロメートル、南北が一万三千キロメートルという超巨大なサイズです。地球がすっぽり飲み込まれてしまうほどの窪地がどろどろの溶岩で満たされているという、印象的な光景ですね。非常に大きなものですから、地球から望遠鏡で観測することもできます――と言うか、要するに大赤斑のことなのですが(笑)
 と、本シリーズの太陽系各惑星には、良く言えば自由奔放な――悪く言えばデタラメな設定がなされています(^^;) 全般的に科学考証は重視されていないわけですが、「これは私達の住む太陽系とは違う世界なのだろう」ぐらいに割り切ってしまった方が得策かもしれません。現代の我々が知る太陽系とは似ても似つかない姿ですけど、胸躍る冒険の舞台としては良くできています。
 また〈大火炎海〉に関しては、後の巻でその成立の経緯が語られる場面があります。一話完結に終始せず、複数のエピソード間に繋がりが見られる点は〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉の面白さの一因と言えますね。

 主人公キャプテン・フューチャーことカーティス・ニュートンは、両親を悪漢に殺された経緯から、全ての悪と戦うことを決意した青年です。とは言っても、警察や軍隊に所属しているのではなく、立場上は一民間人のようです。太陽系最高の天才で、肉体的にも頑強かつ俊敏、超優秀な宇宙船パイロットで、なおかつハンサムと、非の付けどころがないキャラクタですね。:-)
 カーティスを補佐するのは、全鋼鉄製ロボットのグラッグ、合成アンドロイドのオットー、〈生きている脳〉サイモン・ライトの三人で、フューチャーメンと呼ばれます。彼等はニュートン夫妻亡き後、赤ん坊だったカーティスを立派な青年に育て上げた親代わりでもあります。
 キャプテン・フューチャーとその仲間は、他に誰も住まない月面の研究所をその隠れ家としています。もっとも、カーティスはかなり冒険好きで、あまり住居でじっとしていることを好まないようですが(^^;)
 太陽系に未曾有の危機が訪れ、助けを求めて北極のマグネシウム信号灯台が点灯されたとき、キャプテン・フューチャーと仲間達は宇宙艇〈コメット〉に乗り颯爽と現れます。文句なしに格好いい、スペースオペラ屈指のヒーローです。

この記事へのコメント

  • X^2

    > と、本シリーズの太陽系各惑星には、良く言えば自由奔放な――悪く言えばデタラメな設定が

    ふと思ったのですが、この辺りの設定は、作品が書かれた時代にすでに荒唐無稽だったんでしょうか、それとも「多分違うと思うけど、絶対間違っているとは言い切れない」程度だったんでしょうか。さすがに「大赤斑が溶岩の海」はこの時代でも無しですかね。


    2008年12月13日 22:31
  • Manuke

    歴史上のどの時点で物事が判明したかを知るのは難しいですね。
    ただ、十六世紀から十七世紀にかけて、望遠鏡の発明、ガリレオ・ガリレイ氏による木星の衛星の発見、アイザック・ニュートン氏による万有引力の発見という、天文学上の大躍進が目白押しです。
    恐らく十七世紀末には既に、木星・土星の密度を容易に求めることができたと思われます。
    また、十九世紀初頭に分光器が発明されたことから、その化学的組成を調べられるようになったはず。
    大気の下に堅い大地が存在するのかどうかは〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉当時も不明ではあるものの、人間が居住可能というのはちょっと無茶ですね(^^;)

    一方、内惑星の状態は二十世紀中盤に至るまで不明だった点が多そうです。
    金星が灼熱の世界だと判明するのは惑星探査機マリナー2号の観測結果からで、一九六二年ですね。
    あと、水星の自転周期と公転周期が同じではないことが判明したのも同時期です。
    水星が同じ面を太陽に向けているとしたSF小説はかなり多くて、アイザック・アシモフ氏やラリイ・ニーヴン氏も、この設定を元にお話を書かれています。
    (金星が湿地である作品も数多いですし)
    2008年12月15日 00:01

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