宇宙のランデヴー

[題名]:宇宙のランデヴー
[作者]:アーサー・C・クラーク


 巨匠アーサー・C・クラーク氏による、太陽系外宇宙から飛来した人工物体を描いたお話です。
 本書の内容は非常に尖っています。物語は異星人の作ったスペースコロニー類似の巨大構造物・ラーマの探検という形で綴られます。ラーマは架空の存在なわけですが、その中で起こる数々の現象は非日常的ながらも物理法則に則って描写されます。クラーク氏の科学と技術に対する造詣の深さには思わず唸らされますね。
 その一方、ストーリーはないに等しい状態です(笑) 「太陽系の外から人工天体がやってきたので探検してみました」という説明以上のものではありません。山場となる展開はあるものの全くと言っていいほど盛り上がりませんし、登場人物も与えられた役をこなすだけの駒に過ぎません。本書が「小説ではない」と批評されるのも無理からぬところでしょう。
 しかし、文学的な意味での価値は、SF的な意味での価値とは必ずしも直結しません。内径十六キロメートルの巨大な円筒形空洞が六本の人工太陽によって内側から照らされる、その圧倒的イメージはまさにセンス・オブ・ワンダーです。

 二十一世紀半ば、宇宙から飛来した巨大隕石が北イタリアの平原に落下し、多数の死傷者をもたらすという痛ましい災害が起こりました。この悲劇を繰り返さないために、小惑星の軌道を常時監視する〈スペースガード計画〉が開始されることになります。
 そして二一三一年、〈スペースガード〉のコンピュータがある奇妙な天体を発見します。それは少なくとも四十キロメートル以上の大きさを持ち、周期四分で高速に自転していました。毎時十五万キロメートルの猛スピードで太陽系の外からやってきて、やがて再び宇宙の彼方へと飛び去っていく目されるその天体は、三一/四三九・ラーマと名付けられます。
 この奇妙な物体を詳細に観測すべく打ち上げられた宇宙探測機がラーマの最初の画像を捉えたとき、全人類の活動は凍り付きます。それは幾何学的に完璧な円筒形をしており、天然の物体ではあり得ませんでした。ラーマは人類が初めて遭遇する、地球外知的生命の産物だったのです。
 ラーマが宇宙の彼方へ飛び去ってしまう前に接近することが可能な唯一の宇宙船、小惑星警報ビーコンの点検を行っていたエンデヴァー号にその調査が託されました。船長のノートン中佐は慎重にラーマへ接近します。
 巨大な人工天体は完全に沈黙していました。エンデヴァー号のメンバーが円筒の中心軸から中へ侵入を試みても何ら反応を示さず、その内側の広大な空間は闇に閉ざされていました。ノートンはラーマが既に死に絶えてしまったのだと考えます。
 しかし、それは間違いでした。太陽への接近と共にラーマ内部の気温は上昇していき、そして空洞内部に光がともされます――長い長い年月を経て、ラーマに夜明けが訪れたのです。

 本書の注目ガジェットは、もちろんラーマですね。
 中空の円筒形をした天体サイズの人工物で、全長五十キロメートル・外径二十キロメートル・内径十六キロメートルという巨大さです。仮に地球上へ直立させたら、その高さはエベレストの五・七倍相当です。
 内側の半径八キロメートル、自転周期四分から、円筒内表面の遠心加速度は、

a = r*(2π/T)^2
 = 8000[m]*(2π/(4*60[s]))^2
 ≒ 5.4[m/s^2]

 と求められ、地球表面の重力で換算すると約〇・五六Gの疑似重力が働くことになります。円筒の軸部分では無重量状態なのが、階段を下る毎に重力が増していくという奇妙な世界が生まれる訳です。
 円筒内表面には中央をぐるりと一周する海、〈円筒海〉が存在します。ノートン達が最初にラーマを訪れた際には凍り付いていますが、やがて太陽熱によって溶かされて液体へと変化します。
 〈円筒海〉に隔てられた〈北方大陸〉と〈南方大陸〉には、それぞれ三本ずつの大きな溝が存在しており、後にこれが人工太陽であることが判明します。
 全体的に、ラーマ内の構造物は三つが一組になっているものが多く、これが建造者の身体的特徴を反映していると思われるのが興味深いですね。逆に人間の作り出したものを異星人の目から見たとき、私達が普段意識しない奇妙な特徴が見られるのかもしれません。

 ラーマは架空の存在であり、人類が現実にこのような物体と遭遇する可能性は限りなく低いわけですけれども、面白いのはラーマの構造が円筒型スペースコロニーと似ている点です。
 ジェラルド・K・オニール氏が一九七〇年代に提唱したスペースコロニー(宇宙植民地)にはいくつかのタイプがありますが、このうち島3号モデル(あるいはオニール・シリンダー)と呼ばれるものは、宇宙空間に浮かべた全長三十二キロメートル・直径六・五キロメートルの円筒の内側に人間の住める空間を作ってしまおうというものです。スケールや細部は若干異なりますが、ラーマはこの島3号モデルとかなり類似しています。
 つまり、本書で取り上げられたようなラーマ内部特有の現象も、オニール・シリンダーが実現した暁には現実になる可能性があるわけです。クラーク氏は科学的考証をしっかりと行う方ですから、単なる嘘で固められた架空の世界とは一味違います。(この現象に関しては、物理学者の福江純氏が綿密な検証を行っており、必見です)
 と言いますか、本書の肝はこのラーマという存在の考証に集約され、後は余録かもしれません(^^;)

 本作にはクラーク氏ではなくジェントリー・リー氏による続編が存在します。ただ、謎の人工天体ラーマを題材としてはいるものの、その目指すところはかなり方向性が違うように感じられますね。本書の内容があくまでラーマという閉鎖された世界の性質描写に特化したものであるのに対し、その続編はむしろ異星文明とのコンタクトや人間の織り成すドラマに重きが置かれているようです。
 一応、続き物ではありますけど、『宇宙のランデヴー2』以降はクラーク作品ではなく、純粋にジェントリー・リー氏の物語だと捉えた方が良いでしょう。

この記事へのコメント

  • nyam

     子供のころ(いつ?)、図書館でハヤカワ海外ノベルズを借りて、順番に読みました。リングワールド、光の王、アルジャーノンに花束を、へびつかい座ホットラインなどなど。
     そのなかでも、この作品はすこし難解でした。また、宇宙の不可思議さと言うか、人間の考え方の小ささみたいなものを強く感じました。
     野尻抱介の『太陽の簒奪者』とあわせて読むとよいかも。
    2008年11月22日 09:36
  • Manuke

    私が最初にこの小説を読んだときの率直な感想は、「なにこれ?」でした(笑)
    読む前は異星文明とのファーストコンタクトものなのかと思っていたので、肩透かし状態でしたね。
    最後まで地球人ガン無視なのは、むしろ爽快でしたが(^^;)

    ただ、改めて読み直してみたとき、ストーリーの大枠よりも細部に神が宿っている作品なんだなと評価を改めました。
    レビュー中で言及した福江純氏の分析によると、ラーマが加速中の〈円筒海〉海面は回転楕円体を切り取った形状になるとか。
    こういうお話を聞くとグッと来ますねー。
    2008年11月23日 00:55
  • delenda est

    「アシモフ氏は『人間とは何か』を描き、クラーク氏は『宇宙における人類の意義』を描く」と自分で勝手に考えていますが、「小説ではない」とも評価されるこの作品は、前述したクラーク氏の思考と私が思っていることが存分に表現されているので大好きな作品なのです。巨大スペースコロニー“ラーマ”は、人類の文明が存在することさえ気付かず次の目的地に向かって旅立ちました。人類の意義が問われる事態です。この作品が発表された時のクラーク氏の年齢を考えれば、これに対する人類の対応は後の人が書いてくれ:クラーク氏のメッセージはこれかもしれません。
    2017年07月09日 12:04
  • Manuke

    いっそ清々しいほどにキャラクタの影も薄いですしね(^^;)
    ドラマを読みたい方は楽しめないかもしれませんけど、これはこれで立派なエンターテイメントたりうると感じます。
    個人的にはオチも好きなので、むしろ続編はなくてもよかったんじゃないかと思わなくもなく……。
    2017年07月11日 01:22

この記事へのトラックバック