一千億の針

[題名]:一千億の針
[作者]:ハル・クレメント


※このレビューには前作『20億の針』のネタバレがあります。ご注意ください。

 本書はハル・クレメント氏の異生物SF『20億の針』の続編にあたります。
 後日談的な作品である本書は、前作登場人物のその後をフォローするための物語と言ってもいいかもしれませんね。前作のような“捕り手”と“ホシ”の対立といった要素は出てきません。
 もっとも、登場人物達にとってはまたも深刻な問題ではあります。なにしろ、一人の人間の命に関わることなのですから。
 のっぴきならない状況により、異星人の故郷と接触する必要に迫られたバブ達。しかし、直接交信する手段を持たないばかりか、そもそも故郷の星がどこにあるのかすら明白ではありませんでした。彼等はどうやってそれを成し遂げればいいのでしょうか。

 “ホシ”との対決からはや七年。ロバート・キンネアド(バブ)とその共生者“捕り手”は、とある問題に直面していました。
 故郷へ帰る術を失った異星人“捕り手”は、ずっとに地球で生きていく決心をしていました。ところが、相棒として選んだバブの体調が、七年の間共生しているうちに異常を来すようになってしまったのです。
 早急に手を打たないと取り返しのつかないことになると気付いた彼等は、バブが大学を卒業したことを機会に故郷のエル島へと戻り、なんとか“捕り手”の故郷と連絡を取る方法を探すことにします。
 前回の事件中では、島の医師であるベン・シーバーにだけ彼等の秘密を打ち明けていますが、その後のいきさつによりバブの両親も“捕り手”の存在を知っていました。バブと“捕り手”は三人の協力を得て、“ホシ”が乗ってきた宇宙船を探し始めます。
 “捕り手”が乗ってきた宇宙船は墜落時に完全に破壊され、もはや使い物になりません。ですが、“ホシ”の宇宙船は未だ原形をとどめている可能性があります。もしそうなら、“ホシ”の宇宙船が持つ超光速エンジンは今なお力場を発しているはずなのです。うまくすれば“捕り手”の故郷から仲間がやってきて、その宇宙船を発見してくれるかもしれません。
 一縷の望みを託して始めた捜索活動ですが、おかしなことに頻繁に邪魔が入ることになります。それは単なる偶然ではなく、どうやら意図的な妨害のようなのです。もしかしたら、倒したと思っていた“ホシ”が生き延びていたのでしょうか。それとも別の誰かの仕業なのでしょうか。

 本作の注目ガジェットは前作同様、異星人である“捕り手”です。
 『一千億の針』では、かつての事件でバブを守った“捕り手”自身が今度はバブの命を脅かしてしまいます。しかしこれは“捕り手”の責任ではなく、それ故に厄介な問題となっているようです。
 “捕り手”は重さ二キログラム程度の緑色をした不定形生物で、生物の皮膚から体内へと潜り込み、共生関係になります。酸素や栄養を宿主から与えられる見返りとして、病気や怪我から守るわけですね。
 けれども、これは彼の種族自身が生得的に備えている機能であり、彼自身が宿主の生体機能に関して熟知しているということを意味しません(人間がいちいち思考しなくても半自動的に歩けるように)。
 長く“捕り手”との共生を続けるうち、バブの体は免疫不全を起こしたり、急に体が疲労してしまうなど、様々な原因不明の症状が現れてきています。“捕り手”は探偵としては有能ですが、生物学者ではないためバブの体に何が起きているのか分かりません。このため、早急に故郷の科学者に相談する必要があるわけです。

 前作『20億の針』では、共生生物である“捕り手”はバブの体内に潜み、外に出てくることはほとんどありませんでした。けれども本作『一千億の針』では、単独で調査を行ったり、怪我をした人間に乗り移って治療に当たったりと、なかなかの活躍を見せてくれます。
 逆に青年へと成長したバブ君の方は、体の異常から来る疲労で倒れてしまったり、自転車で転んだり、命に関わるような重傷を負ったりと、あまりいい所がありません(^^;) もっとも、バブ君は不思議なことにモテるタイプのようで、その面ではいい目を見ているとも言えそうですけど(笑)

 クレメント氏に生み出された異生物は、その形態・生態が人間とは全く異なる異質の存在ながら、物語内では怪物のようには描かれません。少々人間的過ぎるきらいはありますが、読者が感情移入しやすいという意味では悪くないです。
 本書の異生物である“捕り手”は、その姿とは裏腹にとても真面目な性格です。嘘をつくことを良しとしない、責任感の強い好人物(?)なのです(それゆえ、バブ君の異常が自分に端を発していることに心を痛めているのですが)。前作でもそうでしたけど、どちらかと言うと軽はずみなバブ君と比較して、落ち着いた大人らしい態度に好感が持てますね。このあたりの性格付けも、本書を読み進める上での心地よさに繋がっていると言えるでしょう。

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