マンハッタン強奪

[題名]:マンハッタン強奪
[作者]:ジョン・E・スティス


 ある日突然、空の彼方から宇宙船が飛来し、ニューヨーク市のマンハッタン島を丸ごと持ち去ってしまう――そんな度肝を抜く出だしから始まるのが本書『マンハッタン強奪』です。
 「宇宙人による人間の誘拐」というのは、しばしばオカルト系の文脈で扱われるネタですが、それを都市一つ丸ごとにまでスケールアップしてしまうのは面白い着想ですね。物語は強奪されたマンハッタン島住人の視点で、異常事態に臨んでそれに対峙しようとする人々と、逆に宗教的価値観や恐怖から行動を起こすまいとする人々が対比的に描かれます。
 全体的に良くも悪くもハリウッド的な大作臭(^^;)のする展開で、実際に映画化の話もあったようです(その後の進展は不明)。そのせいもあってかビジュアルを重視した文章なのが本作の特徴と言えるかもしれません。
 ある朝、突然黒い飛行物体がニューヨーク上空に現れ、マンハッタン島を丸ごと空へと強奪してしまいます。果たして異星人の目的は何なのか、そして拉致された市民達の運命は……。

 眠らない都市、マンハッタン――しかし、その日の朝は巨大なメガロポリスの中枢がかつて経験したことのない異常な出来事が待ち受けていました。
 陸軍大佐マット・シーアンの乗るAライン地下鉄がちょうどイーストリヴァーの下を潜っていたとき、突如として列車の後ろ半分が切断されてしまいます。急停車した地下鉄の中でマットが見たのは、熱いナイフでプラスティックを切ったかのような車両の切断面と、不幸にしてその下に居合わせた死傷者の姿でした。
 他の乗客達と協力して負傷した者を地上へと運び上げたマットですが、そこにあったのは更なる驚きの光景でした。マンハッタン島は宇宙の彼方から飛来した異星の巨大宇宙船によって円錐状にくり抜かれ、透明なドームを被せて持ち去られていたのです。
 誰もがショックを隠し切れない状態ではあったものの、優に二百万人もの人間を擁するマンハッタンは、ただ事態を見守るという訳には行きません。ニューヨーク市長ドリーン・アンダーウッドは、治安の維持とライフラインの確保をすべく指示を出します。
 幸いにもマンハッタンを奪った異星人は地球人を死なせるつもりはないらしく、巨大宇宙船内の平原に据えられたマンハッタンには空気・水・食料、そして電力を供給するチューブが接続されます。それを利用し、とりあえず生命の危機は回避できました。
 しかし、依然として異星人は姿を見せず、その意図も不明なままです。動物園か何かのように見せ物にされるのか、あるいは別の動機があるのか……。
 それを探るべくドリーン市長に任命されたマットは、とりあえずは同じく強奪されたと思われる他の異星ドーム都市とコンタクトを取る手段を模索し始めます。

 本書の注目ガジェットは、強奪されたマンハッタン島です。
 マンハッタン島自体は皆さんご存知でしょうが改めて説明しておくと、アメリカ東海岸のニューヨーク州にあり、ハドソンリヴァー/イーストリヴァー/ハーレムリヴァーの三つの川で囲まれた島ですね。南北約二十キロメートル、東西約四キロメートルの細長い形をしていて、多数の高層ビルが摩天楼を形成しています。
 作中では、このマンハッタン島が地面ごとくり抜かれて持ち上げられ、透明なドームを被せられて巨大宇宙船内へ収容されてしまいます。ドームはシャボン玉のように上から被せられたものですが、硬化した後は人間の技術では歯が立たない程強固な物質となるようです。ドームには太陽を模した光が投影され、これが昼夜を生み出します。
 一方、島を円錐状にくり抜くために地下部分は黒い物質で覆われていますが、こちらはある手法で破壊することができ、マット達はここから外へ抜け出します。
 マンハッタン島が置かれた平原は、灰色の物質グレイ・グーで満たされています。これは一見すると粘土状ですが、実際は非常に粘性の高い液体です。
 マンハッタンの周囲には、やはり同じように強奪されてきたと思われるドーム都市がいくつも置かれています。これらの中には地球のものではない建築物が収められ、望遠鏡を使うと異星人の姿が確認できるものもあります。
 一つ感慨深いのは、作中のマンハッタンに世界貿易センターのツインタワーが登場する点ですね。物語内は二〇一二年の出来事(出版は一九九三年)のようですが、それより十年以上前にツインタワーが存在しなくなってしまうとはスティス氏も予想だにしなかったことでしょう。

 作中の視点は主に、マット率いる六名の遠征隊、ドリーン市長周辺、そしてマンハッタン強奪を神の御業だと考える一派の三グループに分かれます。
 この中でも主役グループでリーダーを務める陸軍大佐マット・シーアンは有能で行動力があるものの離婚問題で心に傷を負った男性、ヒロインは通訳で言語学に熟練した国連職員アビー・テルサ、更に脇を固めるのは優秀な技術者ルーディ・サンチェス、若き天才ながら言動が子供っぽいボビー・ジョー・ブルースター博士、テレビリポーターのジュリー・クラヴィン、寡黙な爆破専門家リチャード・ウェルコンと、キャラクター付けはかなりキャッチーな印象があります(^^;)
 彼等が他のドーム都市住人とのファーストコンタクト、宇宙船内の探索、そして捕獲異星人アーチーと接触する展開は非常にスリリングです。また、後半では宇宙空間での戦闘というダイナミックな場面も登場し、読み応えがあります。
 冒頭で触れたようにビジュアルには力が入っており、「絵になる」シーンが多数あります(出だしからして、空に持ち去られるマンハッタン島というのはインパクト大ですし)。場面毎の情景を脳裏に浮かべながら読み進めると、より楽しめるはずです。こうした要素から、本作は映像作品向きの物語と言えるのではないでしょうか。
 但し、これは若干悪い意味でもあります。背景設定はなかなか緻密に組まれているのですけど、例えば登場人物の行動がそれに比すると軽率だったりします。異星人が中にいると分かっているドームに、ろくな調査もせず防護措置もなしで侵入するのは色々な意味で無謀ですよね(^^;)
 もっとも、この辺りはおそらく分かった上であえてやっている部分なのでしょう。やや乱暴な展開がいくつか見られるものの、そのせいでテンポが良くなっている点も見逃せません。善くも悪くも娯楽作品なわけですね。
 但し、実際に映像化されるにあたっては障害が一つあります。原作通りにすると、マンハッタンをさらった異星人アーチーの映像にはモザイクをかけなければいけなくなりそうです(笑)

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