リングワールドの子供たち

[題名]:リングワールドの子供たち
[作者]:ラリイ・ニーヴン


※このレビューには前作『リングワールド』/『リングワールドふたたび』/『リングワールドの玉座』及び『プロテクター』のネタバレがあります。ご注意ください。

 壮大なスケールに無数のガジェット、そして奇妙な異星人達が織り成す一大史〈ノウンスペース・シリーズ〉のうち、最も活力溢れる〈リングワールドもの〉の第四弾です。
 直径三億キロメートルの超々巨大な人工世界・リングワールド。しかし、その存在感とは裏腹に、必ずしも盤石な存在とは言えないようですね。今回それを脅かすのは、外世界からの来訪者達です。
 リングワールドの存在がノウンスペース内で公のものになったことにより、この世界に秘められた超テクノロジーを求めて数々の種族が殺到し、互いに戦争を始めました。リングワールドの守護者たるプロテクター達は、この危機を乗り切るべく途方もない計画を推し進めるのです。

 吸血鬼のプロテクターであるブラムをリングワールドの玉座から引きずり降ろし、その過程で大怪我を負ったルイス・ウー。彼は自動医療装置によって治療され、同時に二十歳前後の状態にまで若返りました。
 しかし、ルイスが医療機の中で眠っていた八十四日の間に事態は悪化していました。パク人のプロテクターによって建設されたリングワールドのスーパーテクノロジーを手に入れようと、ARM(地球の国連)が、クジン人が、更にはパペッティア人やアウトサイダー人までもが周辺宙域に集まってきていたのです。そして一部の者は、覇権を競って〈周辺戦争(フリンジ・ウォー)〉を始める始末です。
 反物質弾まで持ち出す危険な戦闘行為が波及したら、さしも頑強な物質スクライスで作られたリングワールドとて無事では済みません。これに対処するため、ルイスによって新たな管理者に選ばれた〈屍肉食い〉のプロテクター〈作曲家(テューンスミス)〉とその手先達は、危機を回避するための計画を実行し始めました。
 しかしながら、プロテクターの関心は子孫を庇護することにのみあり、ルイスや〈至後者〉の安全はほとんど考慮されません(^^;) リングワールドの守護という大目的には賛同しつつも、ルイス達は同時に〈作曲家〉を出し抜き身の安全を確保する必要があるのです。
 そうこうするうちに、恐れていた事態が発生しました。反物質を載せた一隻のARM船がリングワールド上に落下して爆発し、直径百キロメートルもの大穴が開いてしまったのです。穴からは大気が外へ流出し、放置すれば莫大な数のリングワールド住人が全滅するという大惨事に繋がります。
 状況を把握するべく、〈作曲家〉はルイス、ハミイーの息子〈侍者(アコライト)〉、そして〈ぶらさがり人種〉のプロテクター・ハヌマンを事故現場へと向かわせるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、プロテクターとその限界です。
 〈ノウンスペース・シリーズ〉の世界では、地球人類のルーツは銀河中心域で生まれたパク人(ホモ・ハビリス相当)にあり、リングワールド上の様々な人種と遠い血縁関係にあります。パク人は繁殖期以前には知性を持ちませんが、歳を取った頃に生命の樹の根を食べることで、プロテクターへと変化します。(地球上では生命の樹が正常に育たなかったため、プロテクターが存在しないという設定です)
 プロテクターは明晰な頭脳と頑強な肉体を持つ超人的存在で、その思考能力は知能が高いとされているパペッティア人をも凌駕しているようです。しかし、彼等の意思は全て自分の子孫を守ることのみに注がれ、他の目的を持ちません。
 この偏った性格のせいで、プロテクターは種族全体にとってマイナスの行動を取ることがしばしばあります。パク本星では子孫繁栄のためプロテクター同士が戦争を繰り広げていましたし、リングワールドにたびたび訪れる危機もプロテクターに長期的展望が欠如しているためのようにも感じられます。この辺りは、超人でありながらも自分自身の在り方に対する目標を持たないプロテクターの限界でしょうか。
 お爺さんお婆さんの過保護も程々に、という教訓かもしれません(笑)

 本作では、前々作『リングワールドふたたび』でルイスに否定されたティーラ・ブラウン遺伝子対する新たな解釈が出てきている点も興味深いです。
 パペッティア人の人類への干渉から生み出されたとされるティーラ・ブラウン遺伝子は、様々な偶然を通じて幸運を引き寄せるという、ある意味究極の存在です。けれども、ティーラは生命の樹の根を食べたことでプロテクターへと変貌し、最終的にはルイスに自分を殺させるという道を選びます。あまり幸福とは言えませんね。
 しかしながら、果たしてこの場合の「幸運」とは何を対象としたものなのかに留意する必要がありそうです。もし幸運が遺伝子存続のために引き寄せられるのだとしたら、その運び手たる個人(この場合はティーラ)が幸福かどうかは直接関係ありません。
 更に極論すれば、子を成した後の親が子孫の繁栄に邪魔であるなら(例えば過保護なプロテクターのように)、むしろその親は排除される方が遺伝子にとって「幸運」と言えます。
 と、この辺りを考察してみると、生物学者リチャード・ドーキンス氏の提唱された『利己的な遺伝子』に通じる部分があるように感じられますね。ドーキンス氏のお考えになったことはあくまで進化論の範囲内での真面目な話ですが、ここにフィクションのティーラ・ブラウン遺伝子を持ち込むと面白いことになります。
 『利己的な遺伝子』では遺伝子が本能を通じ、しばしば個体にとっては利他的(非利己的)な行動を取らせるとされており、本能に逆らうことのできる人間はこれに従わないことも可能です。しかし、ティーラ遺伝子が引き寄せる「幸運」には誰も抗うことなどできません(^^;)
 そうなると、そもそもティーラ・ブラウンがリングワールドへ呼び寄せられた理由も再考する必要がありそうです。第一作『リングワールド』での結論は、幸運に甘やかされて育ったティーラが人間的に成長するための試練ということになっていました。しかし、遺伝子中心で考え直してみれば、むしろティーラの遺伝子を繁栄させるためのものだったという方がしっくり来るのではないでしょうか。
 三十兆もの莫大な人口を擁するリングワールド。いずれはこの巨大人工世界を、ティーラの子孫が埋め尽くしてしまうことになるのかもしれません。

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