中性子星

[題名]:中性子星
[作者]:ラリイ・ニーヴン


 本書は「洗練されたスペースオペラ」と称されるニーヴン氏のラージスケール宇宙SF、〈ノウンスペース・シリーズ〉のエピソードを集めた短編集です。
 〈ノウンスペース〉の歴史は数十億年の過去から数千年の未来まで、幅広い時代を扱っていますが、本書に属する作品は主に地球人類がハイパードライヴを獲得した後の年代が対象です。超光速船で宇宙を駆け巡り、多数の奇妙な異星人種族と接触する、シリーズ中でも一番楽しい時代ですね。
 この時代における主要人物に、ベーオウルフ・シェイファーがいます。不時着人(クラッシュランダー/ウイ・メイド・イット星生まれの人間)の優秀なスペース・パイロットで、『リングワールド』の主役ルイス・ウーの義父、そしてかなりのトラブル巻き込まれ体質です(^^;)
 本書収録の短編では、『中性子星』/『銀河の〈核〉へ』/『フラットランダー』/『グレンデル』の四作品で彼が主役を務めます。

◎中性子星

 優秀なパイロットのベーオウルフ・シェイファーは、お金に困っていました。主席パイロットを務めていたナカムラ宙航が倒産し、その給料を当てに贅沢三昧をしていた彼は大きな借金を負ってしまったのです。
 そんなシェイファーが惑星ウイ・メイド・イットでウィンドウショッピングをしていたとき、ゼネラル・プロダクツ支社長のパペッティア人が彼に近づいてきました。そして、シェイファーに高報酬の仕事を持ちかけます。
 ゼネラル・プロダクツ製の宇宙船船殻は可視光以外の何物も通過させないという評判でしたが、とある中性子星の調査に向かった宇宙船の乗員が謎の死を迎えるという事故が起きてしまいます。その原因を探るため、パイロットとしてシェイファーを雇いたいというわけです。
 高額の報酬に釣られたシェイファーは依頼を引き受け、中性子星に向かう振りをして原因究明用の宇宙船スカイダイヴァー号を乗り逃げしようと考えました。しかし、それを見越した地球政府役人のシグムンド・アウスファラーは、異星人に対して恥ずべき行為をしないようスカイダイヴァー号に爆弾をしかけてしまいます(^^;)
 仕方なしに、依頼通り中性子星BVS=1へと向かったシェイファー。果たして彼は無事に、先の事故を引き起こしたものの正体を突き止めることができるのでしょうか。

◎帝国の遺物

 ウンダーランド人の異生物学者リチャード・シュルツ=マン博士が、鯨座ミラを巡る無人の惑星で調査をしていたとき、空から宇宙船が現れました。マン博士がそれに近づいていくと、突然麻痺銃で撃たれ、拘束されてしまいます。
 新参者の正体は、キャプテン・キッドを名乗る海賊でした。彼は、臆病で有名なパペッティア人の母星を突き止めたのだと博士に自慢します。母星の在処を知られることを嫌ったパペッティア人の惑星系でさんざん海賊行為を行っていたものの、遂にしっぽをつかまれてしまい、鯨座ミラへと逃げ込んだという訳です。
 灌木を積み上げ、キャンプファイアの準備をする海賊達。その行為が恐るべき暴挙であることをマン博士は知っていましたが、口をつぐんでいました。それこそは、十五億年前に銀河を支配したスレイヴァー族の遺産、ステージ樹だったのです。

◎銀河の〈核〉へ

 中性子星調査の余録でかなりの収入を得たベーオウルフ・シェイファー。しかし、放蕩三昧が祟って資金は尽きかけていました(計画性なさ過ぎです(^^;))。
 そこに、今度はジンクス星のゼネラル・プロダクツ支社長であるパペッティア人が接触を図ってきます。ゼネラル・プロダクツは新型の第二量子段階ハイパードライヴを試作しており、従来の数千倍の速度で飛ぶ宇宙船を完成させたのですが、建造費用が莫大であったために元が取れない状態でした。そこで、銀河の中心核まで誰かを派遣してその模様を手記に書いてもらい、宣伝効果にしようと考えたのです。
 シェイファーは依頼を引き受け、超々光速宇宙船・ロングショット号に乗って銀河中心まで二十五日という冒険旅行へと出発します。
 しかし、その行く手には誰も予想だにしていなかったものが待ち受けていました。

◎ソフト・ウェポン

 かつて銀河系を支配していたスレイヴァー(スリント人)の遺産に、停滞(ステイシス)ボックスというものがありました。内部の時間を停止させる停滞フィールドに物体を閉じ込めたものが銀河のあちこちに存在し、スレイヴァー帝国全盛期のお宝がしばしばそこから発見されていたのです。
 ジェイスン・パパンドローとその妻アン=マリー、そしてパペッティア人ネサスの三人は、停滞ボックスを首尾よく発見したところでした。それを持ち帰る途中、たまたま立ち寄った琴座ベータ星で探深レーダーを使ったところ、彼等はもう一つの停滞ボックスを見つけます。
 喜び勇んで無人の氷惑星へと向かったジェイスン達でしたが、それはクジン人の罠でした。好戦的種族のクジン人は、来たるべき次の戦争のために武器を欲しており、空の停滞ボックスでトレジャーハンターを釣っていたのです。
 まんまと罠にかかって捉えられた三人の目の前で、彼等が入手していた停滞ボックスが奪われ、開封されてしまいます。中から現れたのは、まさに戦力の均衡を崩しかねないもの、スイッチ一つで形を変えるという奇妙で恐るべき武器でした。

◎フラットランダー

 地球へ向かう客船レンズマン号の中で、夫がいるとは知らずに女性を引っ掛けようとしたベーオウルフ・シェイファーは、その報いを受けて腕を骨折させられてしまいました。(自業自得です(^^;))
 痛みを紛らわすためにバーでアルコールを飲むことにしたシェイファーは、そこで平地人(フラットランダー:地球生まれの人間のこと)の気のいい男性エレファントと知り合いになります。
 やがて地球へ到着した後、エレファントの家に厄介になることにしたシェイファーは、エレファントが地球でも有数の大金持ちであることを知らされます。彼は幾度も宇宙旅行しているにも拘らず自分が未だにフラットランダーと呼ばれることを嫌がっており、何か大きな冒険を成し遂げたいと考えていました。
 そんな彼の元に、宇宙を航行しつつ情報を売り歩くアウトサイダー人の宇宙船が近くへやってきたとの知らせが入ります。彼等から冒険のネタを仕入れようとエレファントは考え、その旅行にシェイファーも同行することにしたのですが……。

◎狂気の倫理

 地球人青年ダグラス・フッカーは、潜在的に偏執狂の傾向があるとの診断を受けました。けれども、この時代(二十六世紀)には抗パラノイア物質という薬が完成しており、これを定期的に摂種し続ける限りフッカーの正気が失われることはありません。
 その後ラム・シップ宇宙船を製造するスカイフック・エンタープライズの社長となったフッカーでしたが、自分の持病が発覚するのを恐れ、あまり社交的なタイプではありませんでした。親友のグレッグ・レフラーを除くと、親しい人間はいなかったのです。
 後年になって、そのレフラーは妻と共に惑星マウント・ルッキットザットへと旅立つことになります。フッカーは友を失うことを悲しみつつ、それを受け入れる他はありませんでした。
 ところが、ここで不幸な事故が発生します。フッカーのオートドック(注射を打つ機械)に故障が起き、彼は知らないうちに抗パラノイア物質を切らしてしまったのです。
 次第にその思考に歪みが生まれ、いつしか彼は、レフラーが自分を陥れたのだという妄想を抱くようになります。そして、フッカーは自社の宇宙船を乗り逃げし、誤った復讐を遂げるためにマウント・ルッキットザットへと向かうのでした。

◎恵まれざる者

 イルカやバンダースナッチのように手を持たない種族に対して、人工的な〈手〉を提供する商売をしているガーウェイは、惑星ダウンを訪問していました。ここには奇妙な生物がいて、それが手を持たない知的生物(“恵まれざるもの”)ではないかと考えられていたためです。
 惑星ダウンの土着生物グロッグは、高さ一メートル半ほどの毛がふさふさ生えた円錐形をしています。目を持たず、成長すると動くこともできません。しかし、何ら必要性があるとは思えないのに、大きな脳を有していました。
 自分の目でグロッグを確かめ、生物園で研究者に話を聞いたものの、グロッグが知的生物であることを示す証拠は一切ありませんでした。落胆したガーウェイですが、そのときグロッグがある奇妙な行動を見せたのです。やがて彼は悟ります――グロッグの驚くべき正体を。

◎グレンデル

 地球で出会った女性シャロル(『フラットランダー』に登場)と結婚したベーオウルフ・シェイファーですが、とある事情のため一時的に地球を離れなければなりませんでした。
 いささか傷心気味のシェイファーが客船アルゴス号で旅行中、たまたま種子型巨大生物スターシードが帆を張る場面に出くわします。その珍しい光景を堪能したシェイファーでしたが、その直後、船に乗っていた者全員が気を失ってしまうという異常事態が発生します。
 シェイファー達が目を覚ましたとき、船に乗り合わせていたクダトリノ人・ルルービーの姿が消えていました。クダトリノ人は音波で周囲を視る風変わりな異星人で、ルルービーはその中でも著名な触感彫刻家だったのです。そして程なく、ルルービーを誘拐した犯人から身代金要求の声明が発せられます。

 本書に収められたエピソードは、一つ一つが独立した面白さを持った作品ですが、同時に〈ノウンスペース・シリーズ〉史中でも特別な位置付けを持つものがいくつか含まれます。
 中でも『銀河の〈核〉へ』は非常に重要な逸話です。このお話で明かされる銀河中心核の大異変はパク人の行動に深く関り、また本作をもってノウンスペース(人類の既知宇宙)からパペッティア人ほぼ全てが姿を消すことになります。更に、第二量子段階ハイパードライヴ搭載のロングショット(のるかそるか)号は〈ノウンスペース〉最速の宇宙船で、『リングワールド』にも登場しています。
 『恵まれざる者』で明かされるグロッグの正体も、歴史中で大きなウェイトを占めている部分ですね。
 その他、『グレンデル』ではルイス・ウーの誕生にまつわるエピソードが含まれる等、いくつものお話で他作品との関連が伺えるのは〈ノウンスペース・シリーズ〉の醍醐味です。

 シリーズを大いに盛り上げてくれる奇妙な異星人達も見逃せません。他の作品群でお馴染みのパペッティア人やクジン人に加え、本書ではアウトサイダー人、クダトリノ人、そして前述のグロッグが登場します。
 特に『フラットランダー』に登場するアウトサイダー人は、個人的にお気に入りの種族です。無重量環境の真空中で進化した異星人で、スターシードを追いかけて光速以下の速度で銀河を巡りつつ、様々な種族へ情報を売って生計を立てる、宇宙の情報屋のような存在ですね。あらゆる情報に対価を要求しますが、常に公正で嘘をつかない相手です。抜け目ない、あるいは油断のならない異星人(地球人類を含む(^^;))が多い〈ノウンスペース・シリーズ〉の中で、無条件に信用できるのは彼等ぐらいかもしれません。

この記事へのコメント

  • nyam

    おひさしぶりです。

     ニーヴンの世界は独特のものがありますね。
     本書では、やはり「銀河の<核>へ」が傑作でしょう。最新の研究では、残念ながら(?)銀河の核はブラックホールだとのことですが・・・。

    >主席パイロットを務めていたナカムラ宙航が倒産
    ううっ、どこも不景気なようで残念です!
    2008年09月29日 22:21
  • Manuke

    ニーヴン氏は『時間外世界』でも銀河中心核への旅を書かれてらっしゃいますね。
    あちらはロングショット号とは違い光速度以下のラムシップですし、もう少し現実寄りの世界設定なのかもしれません。

    個人的にはベーオウルフ・シェイファー関連のお話が〈ノウンスペース〉中でもお気に入りです。
    『リングワールド』も壮大で面白いのですが、あちらは異星人があまり登場しないのが残念なところですし(^^;)
    2008年09月30日 01:18
  • kirin

    初めまして。
    突然ですが、「銀河の〈核〉へ」で意味のわからないところがあるのですが、Manukeさんはおわかりになられたでしょうか?
    主人公の乗る宇宙船の描写ですが…
    「下が操縦室で、ずらりと並ぶスイッチやダイヤルや、点滅するランプの列を、大きな球形の質量表示機が減圧していた。」
    スイッチやダイヤルやランプを減圧???
    (ちなみに、私が読んでいるのは「20世紀SF③」(河出文庫)に収録されているものです)
    2011年11月03日 16:02
  • Manuke

    初めまして-。
    えーと、私の持っているのはハヤカワ文庫版なのですが、該当する文章はほぼ同一ながら、「減圧」ではなく「威圧」になっていました(比喩的な表現ですね)。
    見たところ河出文庫の方が後のようですから、単純な誤植なのかな?
    2011年11月04日 01:13
  • kirin

    あー、やっぱ誤食かー。
    わざわざ回答ありがとうございました。
    周りにSFの話をできる人間がいないので、Manukeさんのような方とやりとり出来てうれしいです。

     ところで、フレッド・セイバーヘーゲンの「赤方偏移の仮面」はお読みになりましたか?
    おもしろかったですよ。
    最近復刻したみたいですが、私が持っているのは古本屋で見つけた初版で、表紙もイカみたいな<機械>が描いてあってとてもイカしています。
    2011年11月04日 10:27
  • Manuke

    文字が似ているとは言え、うっかりミスですね(^^;)
    翻訳時期を考えると、まだ電子化されていなかったでしょうから、仕方ないのかな?

    バーサーカー、面白かったですか。
    『赤方偏移の仮面』は『皆殺し軍団』共々持ってます-。でも「積ん読」中(笑)
    読み終えたらレビューさせていただきますね。
    2011年11月05日 00:14
  • ちゅう

    ワタシは、これでニーヴンにはまりました。nyamさんと同じく、『・・・核へ』が大スキです。

    これを読んでから、月がいつも同じ面を地球に向けている理由を、自転と公転の周期が同じだからという、まったくもって非科学的な教育が蔓延していることにイライラするようになりましたw
    2011年11月18日 21:38
  • Manuke

    『銀河の〈核〉へ』はダイナミックかつ、〈ノウンスペース〉世界における時代の区切りでもありますからね。ベーオウルフ・シェイファーも飄々としたところが好きです。

    「月がいつも同じ面を……」に関しては、確かにそこで終えてしまうと、同期した原因が分からずじまいですねー。
    ただ、潮汐によって同期方向へ加わる力まで教えるとなると、少々説明が大変かもしれません(^^;)
    2011年11月19日 00:26
  • ちゅう

    ベーオウルフ・シェイファー君が、報酬の支払いをしぶるパペッティア人に、彼らの出身惑星の秘密(潮汐力に思い至らなかった=月のない惑星)がわかったので、それをバラすぞと脅して、お金をふんだくるところがスキです。

    潮汐による同期(tidal lock)を定性的に理解するのは比較的簡単(人工衛星が落ちてこないことを理解する小~中学生なら)と思うのですが。。

    今、見なおしてみると、ベーオウルフも半ページほどで説明してましたね。
    2011年11月19日 19:16
  • Manuke

    シェイファーはそういうところがしたたかですね-。その割には抜けてるところもあったり(^^;)

    潮汐固定に関しては、どうでしょうね。
    原理は難しくないですけど、さすがに小学生ぐらいだと、すんなり理解できる子は限られるんじゃないかと。
    大人でも、そうしたことを理解しない人も結構いますし。:-)
    2011年11月20日 00:37
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