ダブル・スター

[題名]:ダブル・スター
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 本書は人類が太陽系内へと進出した時代を舞台にした、替え玉物語です。
 設定そのものは比較的良くあるタイプのお話ですし、内容的にもそれほどSF要素は強くないのですが、そこはストーリーに定評のあるハインライン氏。テンポの良さと相まって、一気に読み進んでしまうこと請け合いです。
 失業中の俳優ロレンゾが、ひょんなことから引き受ける羽目になってしまった、政治家ボンフォートの替え玉という仕事。しかしそれは次第に、ロレンゾを抜き差しならぬ状況へと追い込んでしまうのです。

 優れた演劇技術を持ちながらも、仕事にあぶれバーで酒を飲んでいた青年俳優ロレンゾ・スマイズ。新たにバーへ入ってきた客が、正体を隠した宇宙飛行士だと歩き方から見抜いたロレンゾは、カモにしてやろうと声をかけました。
 ロレンゾの観察力と演技力に驚いたその男ダクは、彼をホテルの一室に招き入れ、仕事を持ちかけます。それは、ある人物に成り済まして欲しいという依頼でした。ロレンゾは俳優としての矜持から断ろうとしますが、もう一人の男ドゥボイスにへなちょこ役者呼ばわりされたことに反発し、仕事を引き受けることにします。
 しかしその直後、部屋へ火星人と地球人の男が押し掛け、ドゥボイスを殺害しました。ダクは反撃し、相手を倒しますが、ロレンゾは今更ながら仕事を引き受けたのは早計だったと後悔します。けれども、もう後には引けません。
 死体を処分した後、ダクは宇宙船〈トム・ペイン〉号までロレンゾを連れていき、そこで真相を打ち明けました。彼が変装しなければならないのは、元・太陽系帝国首相で現・野党党首のジョン・ジョーゼフ・ボンフォートなのだと。
 ボンフォートは火星人の仲間に加えられるという栄誉を受け、入巣の儀式に参加する予定だったのですが、その直前に誘拐されてしまったのです。火星人は〈礼法〉の権化で、いかなる理由があろうとも儀式に出席できなければ彼等への侮辱となり、地球人と火星人の全面対立へと進展してしまいます。危機を防ぐためには、誰にも見破れない替え玉を儀式に送り込むことが必要であり、それこそがロレンゾに課せられた仕事でした。
 ところが、ロレンゾは生まれてこのかた政治に関わったことは一度としてなく、むしろ敬遠していました。そして更に悪いことに、気味の悪い火星人が大嫌いだったのです(^^;)
 果たしてロレンゾは無事、政治家ボンフォートの替え玉をやり遂げられるのでしょうか。

 本書は未来を舞台としていますが、SFテイストはあまり強くありません。作品特有と言えるSFガジェットは特にないため、背景設定に触れておくことにしましょう。
 この時代、地球人類は核ロケット技術を開発し、太陽系各所へと進出を果たしています(超光速移動手段はない模様)。それに従い、火星人や金星人といった地球外知的種族が発見されていますが、主導権は地球人が握っているようです。
 政治形態としては、名目上は全ての頂点に太陽系帝国皇帝が君臨していますが、実際の権限は帝国首相にあるようです。首相には選挙に勝利した与党党首が任命され、内閣を編成します。(おそらく、イギリス政治を踏襲しているものと思われます)
 政権は二大政党によって争われ、ボンフォート率いる拡大党は火星人等の非人類種族に対しても等しく人権を与えることを目指しています。これに対し、人類党はあくまで地球人類のみが特権を有するべきだと主張しています。
 本作における火星人は「木の幹にサン・ヘルメットをのっけたようなしろもの」と形容される姿をしており、人間の目から見ると病的なまでに〈礼法〉を重視する種族です。この説明として、栄誉を与える席に遅刻した火星人に温情を与える措置が取られたところ、当の本人がそれを不服とし、裁判で自らの死刑を勝ち取ったというエピソードが紹介されています(^^;)

 主人公のロレンゾは、自分のことを“偉大なロレンゾ”と称する少々思い上がった青年ですが、これまで役者として大成したことはありません。けれども、父親から受けた教育のために演技力は並外れたものがあり、それがボンフォートの替え玉作戦に大いに寄与します。
 そしてボンフォートの言葉を真似て、彼らしい言動を身に付けていくうちに、ロレンゾは父ほど年齢の離れたボンフォートの思想に触れ、尊敬を抱き、感化されていくことになります。本書の肝はロレンゾの成長物語だと言えるでしょう。
 但し、これが果たして無条件に良い変化と言えるかどうかは、私個人としては疑問に感じます。一般論になってしまいますけど、政治的指導者が俳優より優れた存在などということは決してないはずですから。
 ロレンゾがボンフォートに同化していくということは、同時に俳優ロレンゾの消滅をも意味する訳です。作中であまり大きく取り上げられることはありませんが、この悲哀が本書を印象付けているもう一つの要素なのではないでしょうか。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック