ハローサマー、グッドバイ

[題名]:ハローサマー、グッドバイ
[作者]:マイクル・コーニイ


 本書『ハローサマー、グッドバイ』は、地球とは異なる別の惑星における恋愛小説であり、少年の成長を描いた青春小説であり、戦時下の地方都市を巡る物語であると同時に、その惑星が持つ特異な環境を核に据えた異世界SFでもあります。
 作品の舞台となるのは、公転軌道と自転軸が特殊な惑星。そこで暮らす人々は、外見も中身も我々とほとんど変わらない人間です。文明レベルは地球の十九世紀後半相当で、宇宙船のような未来的ガジェットは登場しませんし、地球との関わりも描かれません。つまり、前半は少々変わった異世界ファンタジーのような印象です。
 しかし、物語が進展していくにつれ、SF的な背景設定がストーリーに大きく関ってくることになります。この転換が非常にシームレスで、かつ冒頭から終盤に判明する要素が散りばめられていたことが後で分かる、完成度の高い作品です。
 首都アリカから地方都市パラークシへと夏休暇にやってきたドローヴ少年は、彼が恋する少女ブラウンアイズと再会します。けれどもその夏には、ドローヴのみならず全ての惑星住人にとって特別な出来事が待ち受けていました。

 とある惑星の上には一つの大陸があり、そこでは地球とほとんど変わらない人々が生を営んでいました。大陸は東西二つの国に分かれ、長らく戦争を続けています。
 二国の片方であるエルトの首都アリカで暮らすドローヴは、反抗期のただ中にある少年でした。彼は政府の高官で他人を見下す傲慢な父バート、そして夫に従順ながらも世間体ばかりを気にする母フェイエットを嫌っています。
 ある日、ドローヴ一家は夏休暇のために、昨年と同じく南半球にある地方都市パラークシへと出発することになります。ドローヴはそれをずっと心待ちにしていました。彼は一年前、たった三日間の間だけ出会った少女ブラウンアイズに恋していて、再会を願っていたからです。
 やがて漁村パラークシへ到着すると、父親はドローヴに小型帆船を買い与えます。母親に引き合わされた、知ったかぶりで鼻持ちならない少年ウルフに挑発されたドローヴは、ろくに準備もしないまま船に乗り、二人で沖へと漕ぎ出しました。しかし、あるミスの為に船は浸水してしまい、ドローヴ達は這々の体で水際の小さな浜へと辿り着きます。
 ドローヴとウルフは、たまたまその場に居合わせた二人の少女と一人の少年に助けられました。それは町の実力者ストロングアームの娘リボンと、その弟スクウィント、そしてドローヴが会いたがっていた酒場の娘ブラウンアイズだったのです。
 当初はシャイな性格が災いして、会話することはおろか視線を交えることさえおぼつかないドローヴとブラウンアイズ。しかし、時が経つにつれ二人は親密になり、互いを愛し合っていることを確認します。
 けれども、ドローヴの両親はそれを好ましからぬ関係だと考えていました。ブラウンアイズのような下層階級の者はドローヴの相手に相応しくない、と。
 そして更に、二人の間にはより大きな障害が立ちはだかるのです。惑星全土を巻き込み、文明の存亡に関るほどの重大な危機が。

 本書の注目ガジェットは、舞台となる惑星とその環境です。(惑星の名称は不明)
 恒星フューの周りを回る惑星本体は地球に良く似ていますが、その軌道は長楕円形で、近日点と遠日点における光量の違いが季節を生み出しているようです。自転軸は公転面に対して平行(横倒し状態)で、更に特殊な条件が加わることにより惑星環境に独特な現象をもたらしています。
 住人は私達地球人類と変わらない外見を持ち、思考や感情もほとんど同じですが、寒さに対して過度な恐怖を抱いています。この影響で、彼等の間では「冷たい」や「凍った」が罵り言葉になっているようです。
 動植物はかなり異なっており、二足歩行で温和な性質の哺乳動物ロリン、使役用の四足獣ロックス、氷の塊のような姿で動物を襲う氷魔(アイスデビル)といった様々な異種生物が作中に登場します。
 また、自転軸の特殊さが原因で、夏には海の濃度が極度に高くなる現象・粘流(グルーム)が発生します。この粘流がパラークシへ到来する時期、それを利用して生きるグルームワタリ鳥、グルームライダー、ゲテモノグライ等の生物もパラークシを訪れます。なかなかに興味深い生態系ですね。

 物語はドローヴの一人称で綴られますが、彼は決して純粋無垢な少年ではありません。幼少時に強烈なトラウマを植え付けられたせいか、大人(特に両親)に対して反感を抱いています。賢く利発的ですが、そのせいで鼻持ちならない少年と見られることもあり、当人もその欠点を自覚しつつあるようです。
 ヒロインであるブラウンアイズは少々気弱で控えめな少女ですけど、リボンを交えた三角関係的な展開の中、時に嫉妬したり、大胆な行動を見せたりといった点も印象的ですね。
 冒頭で触れた通り、本書は青春小説でありながら戦争やSF的要素も含んだ物語で、後半では展開が大きな動きを見せます。にも拘らずゴチャゴチャした印象がないのは、ドローヴ少年の恋愛と成長という主軸にぶれがないためでしょうか。異質である舞台設定への言及が、説明過多に陥ることなくストーリー中に織り込まれているのは見事です。

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