魔法の迷宮

[題名]:魔法の迷宮
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 広大な大河の流域で、歴史上の人々により織り成されるスペクタクルSF、〈リバーワールド〉の第四巻にして最終巻です。
(後に書かれた未訳の続編"Gods of Riverworld"があるようですけど、詳細不明)
 何もかもが謎に包まれた状態から始まったリバーワールドの物語は、異なる時代の人々の交流、諍い、そして新たな文化の発展を経て、遂にその核心へと至ります。
 また、本書ではリバーワールドという舞台の醍醐味、時代を超えた人物同士の対決場面が目白押しです。シリーズ最大の見せ場と言える戦闘シーンは、思わず手に汗を握ってしまいますね。
 執念深い追跡の果て、遂にジョン王の外輪船に追いついた、クレメンズ率いる〈貸しません〉号。リバーワールド史上初の近代戦を超え、彼等は大河の源流で何を見いだすのでしょう。

 愛するリバーボートを乗り逃げした憎きジョン王に復讐を果たすため、サミュエル・クレメンズは第二のボート〈貸しません〉号(マーク・トウェイン号から改名)を駆ってその後を追いかけていました。
 そのころ、リチャード・バートン一行はジョン王の乗るレックス・グランディシムス号(初代〈貸しません〉号をジョン王が改名)へと接触していました。〈河〉の源流へ至るには、ジョン王かクレメンズのボートのどちらかに乗り込むのが得策であり、先に来たレックス号を彼等は選んだのです。バートンはグワルチグウィンの変名を使って正体を隠し、ジョン王の好色さを利用して乗組員の座を手に入れました。
 ここで、レックス号はクレメンズ側の飛行船による襲撃を受けます(前巻参照)。かろうじて生き延びたジョン王は、新興宗教セカンド・チャンス教会の治める国ヴィロランドへ到着し、そこでクレメンズ達を待ち伏せすることにします。
 やがて姿を現す〈貸しません〉号。セカンド・チャンス教会の司教ヘルマン・ゲーリングは、双方に対して矛を収めるよう進言しますが、ジョン王もクレメンズもそれを聞き入れようとはしませんでした。
 そして、遂に戦いの火蓋は切って落とされます。クレメンズが初戦として提案したのは、第一次・第二次世界大戦の空の英雄による、リバーワールド最初で最後のドッグファイトでした。

 本書の注目ガジェットは、リバーワールドの建設者・エシカル人("The Ethicals":倫理人)です。
 これまでのエピソードで、自らをエシカル人と称する人々がリバーワールドを作り上げ人類の大多数を復活させたこと、その一人Xが反逆しバートン達を援助しているらしきことが判明しています。本書ではその裏に隠されていた真実がようやく明かされるわけですね。
(ストーリーの根幹に関る部分ですので、このレビューではあまり詳細にお伝えすることができません。ご了承ください)
 ただ、あくまで個人的な感想なのですけど、この種明かし部分にはかなり不満があります(^^;)
 エシカル人や人間の復活に関して、登場人物があまり根拠らしき根拠もなく憶測を重ねているように見える場面があり、最終的にその憶測は大体当たっていたことが判明します。つまり、いわゆる『超展開』です(笑)
 この部分、もう少し物語中で自然に提示できなかったのかな、という感が拭えません。元々『飛翔せよ、遙かなる空へ』と『魔法の迷宮』は一作だった予定が、文章量が膨らんでしまったため分冊されたという経緯があるようですので、もしかしたらファーマー氏が盛り込み切れなかったのかも。
 もっとも、これはあくまで私個人の印象ですから、気にならない方も多いでしょう。幕引き方から考えて、更に裏設定が存在する可能性もありますし。何より、〈リバーワールド〉で重要なのは、謎の究明ではなく舞台そのものですから。:-)

 本作の見所は、冒頭で触れた〈貸しません〉号とレックス・グランディシムス号の対決です。歴史上の別の時代の英雄同士を競わせたとき、どちらが強いのかという話題は人気のあるものですけど、〈リバーワールド〉はまさにそのためにあるような世界ですね(^^;)
 特に第一次・第二次世界大戦における空の英雄が、現実ではあり得なかった戦いを繰り広げる空中戦シーンは臨場感に溢れています。対決するパイロットは、〈貸しません〉号からはジョルジュ・ギヌメール(第一次大戦のフランス人エースパイロット。人気の高い方だったようです)、ウィリアム・ジョージ・バーカー(カナダ人。第一次大戦中、イギリス空軍に所属)の二人。レックス号からはウェルナー・フォス(第一次大戦のドイツ人パイロット)、そして日本のケンジ・オカベ(神風特攻隊に反対した岡部健二氏?)の二人。この四人が各々の技量を駆使して繰り広げる空中戦は、思わず固唾を飲んでしまう程です。
 その後、二つの大型リバーボートが海戦ならぬ河戦を行うシーン、そしてリチャード・バートンとシラノ・ド・ベルジュラックによる一対一の決闘と、いずれも名場面です。そして同時に、戦争の惨さをジョン王とクレメンズを通じて描き出しています。

 とにかく多数の歴史上人物が登場する〈リバーワールド〉ですが、本巻でもギルガメッシュと李白という超々有名人が主要なキャラクタに加わります。ほんのチョイ役にも名のある人物がいたりと、おそらく私が見逃している有名人も多数いることでしょう。
 その中でも、本書で非常に重要な役割を果たすのがヘルマン・ゲーリングです。オリジナルはドイツ第三帝国の国家元帥、ヒトラーに継ぐ実力者でありながら、戦後の裁判でホロコーストのことを「知らなかった」と言い逃れたという人物ですね。
 第一作『果しなき河よ我を誘え』で、ゲーリングはナチ時代の性格を受け継いだ卑劣漢として登場し、その後自責の念から狂気に陥ります。
 第二作『わが夢のリバーボート』では、その反動から和平を説くセカンド・チャンス教会の狂信者へと変貌し、クレメンズから鬱陶しがられます(^^;)
 そして『魔法の迷宮』では、盲信から少し距離を置きながらも、平和を愛しかつ勇気を示すことにより、彼を嫌っていたバートンの信頼を得るまでになります。
 もしかしたらホロコーストの犠牲者からすると業腹ものかもしれませんが、「チャンスさえ与えられたら、人は良い方向へと変わることができるのではないか」という願いが込められているようにも感じます。それが〈リバーワールド〉のもう一つの意味なのかもしれません。

 全人類が一つの惑星上に復活する一大スペクタクル世界、リバーワールド。作者のファーマー氏によると、記述されてはいないけれど読者の我々もそこに存在するのだとのこと。
 もし、過去の時代の人間と対面できるのだとしたら、貴方は誰に会ってみたいですか?

この記事へのコメント

  • nyam

     nyamです。「リバーワールド」、完結おめでとうございます(???)。

    >いわゆる『超展開』
     そうなんですよねー。

    >人は良い方向へと変わることができるのでは...
     これこそ本シリーズのテーマでしょう。
     私は、環境が人をつくるので、幼少期からやりなおせるのであれば、人は変われると思います。
    2008年08月24日 10:25
  • Manuke

    もっと前の巻でエシカル人関連の情報を小出しにしていけば、唐突さは解消できたんではないかなーと。
    世界設定が素晴らしいだけに、ちょっともったいない印象です。
    いずれにしても名作だとは思いますが。

    「変わることができる」というポイントは、バートンやクレメンズの視点からも伺えますね。
    特にクレメンズのエピソードは、最後まで引っ張っただけあって非常に印象的ですし(^^;)
    2008年08月25日 00:35

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