鋼鉄都市

[題名]:鋼鉄都市
[作者]:アイザック・アシモフ


 この『鋼鉄都市』は、アイザック・アシモフ氏の描くロボット物の作品群の一つであり、その中でも私服刑事イライジャ・ベイリを主人公とした〈イライジャ・ベイリ三部作〉の第一作目に当たります。
 この小説で特に見事と言えるのは、SFとミステリの融合という部分ですね。SFというジャンルはその性質上、突飛な舞台設定がなされることも多く、謎解きを楽しむ推理小説とは折り合いが悪いと思われがちです。けれども、本書はまぎれもなくSFでありながら、同時に良質のミステリでもあるとう偉業を成し遂げています。
 巨大な鋼鉄の都市ニューヨークで起こった殺人事件。その担当に任命された刑事イライジャ・ベイリは、相棒にあてがわれたR・ダニール・オリヴォーと共に事件の解決に当たることになりました。但し、問題が一つ――ダニールはロボットであり、そしてベイリはロボットが大嫌いだったのです(^^;)

 今からおよそ千年後、人間は大きく二つのグループに分かれていました。一つは地球人、そしてもう一つは宇宙人(スペーサー)です。もっとも、本作における宇宙人はいわゆる異星人のことではなく、単に宇宙に移り住んだ地球人の子孫に当たります。基本的にはどちらも同じホモ・サピエンスなのですが、そこには相互に確執が存在するのです。
 人口爆発の結果として地球は手狭となり、人類は圧力に押されて宇宙へと進出を果たしました。しかし、産児制限を行い余裕のある生活を望んだ惑星国家とは異なり、地球の人口増加は止まるところを知りません。そこで、ついに宇宙人側は移民の受け入れを拒否します。
 このため、地球では莫大な数の人間を養う必要から、非効率性を排除した巨大都市・シティを建設しました。人々はシティの中で生まれ、成長し、そして一度も屋外へ出ることなく死ぬのです。
 そうした巨大都市の一つニューヨーク・シティで、とある事件が発生します。宇宙人の一人ロイ・ネメヌウ・サートン博士が殺害されたのです。外交問題に発展しかねないこの殺人事件を解決するため、C-5級私服刑事イライジャ・ベイリが事件担当に選ばれます。そして、宇宙人側が提供するロボットを相棒にして捜査を行うよう命じられたのでした。
 ベイリは平均的なニューヨーク市民として、広所恐怖症であり、宇宙人に反感を抱き、そしてロボットが嫌いです。しかし、職務を全うする必要性を理解している合理的な人間でもあるため、渋々ながらもその命を受けます。(昇進の機会でもありますし(^^;))
 ところが予想外なことに、R・ダニール・オリヴォーはベイリの知る不格好で無様なロボットとは全く異なり、人間と見分けがつかない程の最新型ロボットだったのです。
 かくして、色々と癖がありながらも頭脳明晰な中年男性刑事イライジャと、ハンサムで冷静なロボット刑事ダニールという、SF界きっての名探偵コンビがここに誕生します。

 本書の注目ガジェットは、超巨大都市であるシティです。
 無数の建造物の集合体として成り立つシティは、どこへ行くにも屋外へ出る必要がなく、ほぼ全ての市民が一生涯を屋内で過ごします。その結果、地球人は例外なく極度の広所恐怖症であり、遮蔽物のない外へ出ることを考えただけで恐怖に襲われるほどです。
 効率優先のために食料は配給制で、食堂・風呂・トイレは地区毎に共同と、人々は少ない物資を分け合うために窮屈な生活を送っています。ここまでしていても、いつかは漸進的に増加を続ける人口に対応できなくなるということが指摘されていますが、多くの人は気にも留めず、現状にほどほど満足しているようです。
 また、都市内の主な交通手段として自動走路というものが活用されています。動く歩道のようなものですが、速度の異なる帯が複数並んでいるようです。速く移動したい場合には高速帯に乗り移ればいいわけですね。

 推理小説の著作も少なくないアシモフ氏ですから、本書がミステリとして面白いのは別段意外なこととは言えないでしょう。
 重要なのは、本作の謎(サートン博士が誰に・何故・どういう手段で殺されたのか)の鍵となる部分がSFならではのものであることです。単に舞台が未来で、相方がロボットというだけの推理小説では決してないのですね。『鋼鉄都市』の謎はSFというジャンルだからこそ成り立ち、しかも理不尽な飛躍はありません。
 さらに、この部分が本書のテーマにも大きく結びついているわけですから、見事と言う他はありません。紛れもなく一級の名作に属するSF小説です。

 本書に登場するR・ダニール・オリヴォー(Rはロボットの意)は、後の未来史において大きな役割を担う、アシモフ作品の最重要人物です。アシモフ氏の作品にはロボット物と銀河帝国物という大きな二つの柱がありますが、後にこれらを統合する際にダニールが鍵となるわけですね。
 彼が後にどのような道を辿ることになるのか、未来史では埋められない部分を想像してみるのも楽しいかもしれません。

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