わが夢のリバーボート

[題名]:わが夢のリバーボート
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 歴史上の全人類の復活という壮大な舞台を描いた文字通りの「大河小説」、〈リバーワールド〉の第二巻です。
 時間的には前巻『果しなき河よ我を誘え』の続き辺りから始まるようですが、登場人物は一新され、同じリバーワールドの新たな場所・新たな視点から物語が始まります。何しろ膨大な数の人間が存在するのですから、その辺りは選び放題ですね(^^;)
 今回の主人公はリチャード・バートンとは異なり肉体派ではありませんが、その執念では引けを取らない人物です。ご本人の知名度ではこちらが上かもしれません。
 バートンと同様、〈謎の異人〉からリバーワールドの源流に向かうよう使命を与えられた男サミュエル・クレメンズ。彼こそは、アメリカの偉大な作家マーク・トウェインその人です。

 かつて『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』、『王子と乞食』といった名作を生み出した、アメリカの小説家にして批評家マーク・トウェインことサミュエル・クレメンズ。彼もまた他の人々と同じくリバーワールドに復活していました。
 先史時代の大猿人ジョー・ミラーと義兄弟の契りを交わしたクレメンズは、ヴァイキングの王エリック・ブラッドアックスと手を組んで鉄を探しています。クレメンズはリバーワールドの意味を求めるため、そして生前の妻リヴィを探すために、鉄で作られたリバーボートの建造を夢見たのです。しかし、人工世界であるリバーワールド土中に鉄は存在せず、ただ隕鉄のみがその望みを満たす可能性があると彼は考えていました。
 そんなある日、クレメンズらの乗る竹製の船団が川岸の住人と諍いを起こしていたとき、空から彼の待望していた隕石が落ちてきます。隕石が引き起こした津波に翻弄されながらも生き延びた彼等は、その地に足がかりとなる都市を建設し、鉄を作り出すための準備を始めました。
 数日後の夜、ドリーム・ガムを噛んで就寝したクレメンズの前に、正体不明の人物が現れます。その〈謎の異人〉は自分がリバーワールドの創造者エシカル人であると言い、隕石が落ちたのは偶然ではないことを告げます。クレメンズがリバーボート建造を望んでいることを知り、落下を誘導したのだと。
 〈謎の異人〉は、リバーワールドはエシカル人が研究のために作り出した実験場であり、人類に対する非道な行為であることを打ち明けます。そして、何らかの思惑でクレメンズにボートを建造させたがっており、そのために必要な資源が近辺に埋まっていることを教えたのです。
 粗暴で信頼できないブラッドアックス率いるヴァイキング一同、悪名高い十三世紀英国王ジョン・ラックランドとその配下、排他的な黒人国家、そして他国を次々と征服する野心的なイエヤス。様々な人間の思惑が絡み合う混沌とした世界で、クレメンズは望み通りリバーボートを建造することができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、大猿人("giant subhuman"/タイタントロプス)です。
 前巻にもネアンデルタール人のカズというキャラクタが登場しましたけど、本巻のジョー・ミラー(クレメンズが付けたあだ名)はそれよりも更に古い時代の化石人類です。正確な年代は記されていませんが、数十万年ほど前に生きていた二十一世紀においても未発見の種とされています。
 身長は約二メートル半から三メートル、胴長短足で、かなり毛深いようです。顔の作りはこぢんまりとしていますが、鼻だけはテングザルのように大きく発達しています。前巻でバートンが〈河〉源流に転生したとき、そこで闘争を続ける巨人を目撃していますが、これが大猿人ですね。
 ジョーの言葉は片言なものの知能は決して低くはなく、感情も豊かです。言動がストレートなせいもあって、口の達者なクレメンズを言い負かしてしまうこともしばしばです。もっとも、二人は厚い友情で結ばれており、ジョーは物理的なトラブルから、クレメンズは社会的なトラブルから互いを守っています。
 実際のところ、ホモ・サピエンスに近いネアンデルタール人(二万数千年前に絶滅)ですら言葉を話せたかどうか現時点では判明していません。ただ、近年の研究によるとハイデルベルク人(数十万年昔に生存)が言語伝達の聞き取りに適した耳を持っていたらしいという話もありますから、化石人類との意思疎通ができる可能性もあるでしょう。
 リバーワールドは歴史学者が泣いて喜びそうな舞台ですが、古人類学者にとってもやはり垂涎の的ですね。:-)

 マーク・トウェイン氏はいくつかの作品を世に残された作家さんである他、数々の名言で知られる文明批評家でもあります。例えば、禁煙を揶揄する有名なジョーク「禁煙なんて世界で一番簡単なことさ。私はもう何千回もやったから知っているんだ("Giving up smoking is the easiest thing in the world. I know because I've done it thousands of times.")」も氏の言葉です(^^;) 悲観主義者で運命決定論者、若い頃は蒸気船の水先案内人を務めたり、発明に入れ込んで破産したりと、波乱な人生を送ったようです。(ペンネームは水先案内人のかけ声「水深二尋:"mark twain"」に由来)
 登場人物としてのクレメンズも、実在の人物を反映してかなりの悲観主義者です。起きてしまったことをいつまでも思い悩み、再会した妻が別の男性と恋仲になっていることに嫉妬する、人間的な弱点を抱えたキャラクタですね。ただ、同時に意思力は非常に強く、鋼鉄製のリバーボート建設のために新たな国家パロランドを建設する等、精力的な行動を見せてくれます。本人は少々自己卑下する傾向がありますけど、周囲の人々からは尊敬を持って受け入れられているようです。
 その他の登場人物としては、パロランドの共同支配者でイングランド史上最悪の国王と呼ばれるジョン王、フランスの剣豪シラノ・ド・ベルジュラック、古代ギリシアの英雄オディッセウス、そして日本からは徳川家康(周辺国の支配者として名前のみ登場)と、錚々たるメンバーですね。
 また、前巻から引き続いてヘルマン・ゲーリングも登場します。ゲーリングはこの巻では平和を説く新興宗教の伝道者になっており、その前世から考えると凄い変貌ぶりです。

 リバーワールドは人工的に作り出された環境であり、ある意味生も死も存在しない世界です。老化も病気もなく、諍いさえなければ衣食住に困ることもありません。
 当初は、人々が事故や殺人により一旦命を落としても、一日後に〈河〉の別の場所で復活します(場所はランダム)。つまり、死にたくても死ぬことはできません。大多数の人にとっては喜ばしいことですが、自殺者にとっては悪夢ですね。
 また、この世界で新たな子供が生まれることはありません。人間は増えも減りもしない訳です。さすがに三百六十億人もいれば、同じ顔を見飽きるということはなさそうですけど(^^;)
 にも拘らず、本書では国家が形成され、泥沼の紛争が繰り返されることになります。平穏を愛するクレメンズはただリバーボートを欲しただけなのですが、その行動が結果として富の偏在を生み出し、争いの種になってしまうのは皮肉と言えるかもしれません。

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